世界の終わりで君と恋をしたい~あやかし夫婦の奇妙な事件簿~

黒幸

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第36話 備忘録CaseIV・七人いる

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 御田部愛は思った。

(やばっ。また、変なのを見ちゃった!)

 二度あることは三度あるとはよく言ったものである。
 これまで二度ほど変な目に遭っている愛は、どうやら不幸体質なだけでは簡単に説明が出来ない不運の星に生まれているとしか、言えなかった。

 三度目である。
 愛は見てしまった。
 ヨーロッパの修道院などで見られる修道服や映画などに出てくる魔法使いが着ているローブに似た衣装を纏った一団である。
 真っ黒に見えるそのローブらしき衣装だが、よく目を凝らしてみると単に黒く染められているのではないことが分かった。

 汚れがそのまま、シミになり、黒くなっていったに過ぎないのだ。
 汚れとはそのものずばり、返り血である。

(み、見なかったことにして……)

 慌てて、回れ右をしようと愛が一団に背を向けた時には既に遅かった。
 耳元で「貴様、見えているな」という声を最後に愛の意識は暗い水の底に沈んでいく。

(意外とイケボ!)

 状況が状況であるにも関わらず、妙に余裕のある反応だった。
 慣れとはに恐ろしきものである。

 それから、数時間後、夕暮れの人寂しい道を釈然としない顔で一人、帰路を急ぐ愛の姿があった。

「何でまた、この町に来てるんだろう」

 誰に問うでもなく、愛の口から出た呟きは誰にも拾われず、風に消えていった。
 しかし、それは七人の亡霊にしても同じだった。
 まさか、自分達が庭先で平伏することになろうとは思ってもいなかったからだ。

 風の噂に彼らが聞いたのは、今や羽振りのいい御身分になった小娘の話だった。
 時代の流れに置いてきぼりをくらい、消え行く存在に近かった『皿を数える小娘』や『男を冥途に誘(いざな)う小娘』がである。

 その秘密がとある洋館に隠されていると知った彼らは早速、動くことに決めた。
 幸いなことに移動に最適な者を見つけることにも成功した彼らは、意気揚々と洋館に乗り込んだのである。
 そこで出会った存在が不機嫌そうに眉を顰め、「寄るな、下郎」と強烈な威圧感を喰らうまでは……。

 死を与える怨霊として、存在し続けてきた彼らはこの時、初めて『死』そのものを目にした。
 目の前で自分らに抗いがたい威圧感を放つ、にも恐ろしき者は美しい少女の姿をしていたのだ。

「ああ。ごめんね。リーナは男の人が苦手なんだ」

 自分達に威圧を与え続ける少女の隣で平然としており、人の好さそうな笑みを決して絶やさない少年も何者であろうかと彼らは考えるが、答えは出そうにない。

 彼らは七人ミサキと呼ばれていた。
 かなり強い恨みを抱きながら、死んだ者が変異した死霊の一種である。
 七人一揃いなのが特徴だった。
 七人で常に行動し、運悪く彼らに出くわし、呪い殺された者がいると一人が成仏する。
 だが、決して六人になることはない。
 呪い殺された者が新たな七人ミサキになるからだ。

 こうした活動を長きに渡って続けていたこの怨霊の力は相当なものだったが、いかんせん目の前にいる少女と少年が相手では分が悪かった。
 彼らが本能的に察した少女からの『死』のイメージは強ち、間違っていない。
 その少女こそ、『死』そのものを体現する存在だったからだ。

 時を同じくして、存在する似たような者伊弉冉が少しばかり、西の地にもあったが、こちらは世界と干渉する気がまるでない。
 『歌姫』として、既に世界と干渉している以上、目の前の少女の方が七人ミサキにとっては遥かに危険な存在である。
 機嫌を損ねただけで存在そのものを消されかねないのだから……。
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