31 / 159
第31話 親友と書いて、悪友と読む
しおりを挟む
そして、現在。
ユリナは困惑していた。
豪奢な黄金の色をした長い髪の少女と濡れ羽色のウルフヘア少女が、興味津々で質問というよりは詰問するように詰め寄ってくるせいだ。
(どうして、こうなったのかしら?)
勝気とまでは言わないまでも普段、気後れすることがあまりないユリナである。
彼女にしては珍しく、眉尻を下げていた。
金色の髪の少女は『イズミンの泉』というチャンネルを運営する人気YoTuberである。
本名は林檎泉という名で日本名だが、見た目はユリナと同じく日本人要素が一つもない。
容姿も天然のブロンド、晴れ渡った空のように澄んだ青い瞳と西洋人らしい特徴が色濃く出ていた。
ユリナと同じく黙っていれば、陶器人形と言われる美貌である。
小柄なこともあり、童顔のユリナよりもさらに幼い少女のように見える容貌の持ち主だが、実年齢はあまり変わらず、麗央どころか菊や露よりも上なのだ。
黒髪のウルフヘアの少女もまたヨーチューバーであり、泉に対抗するように『ニャオの泉』というチャンネルを運営している。
本名は猫野五月という。
ウルフカットでさっぱりとした印象を与える髪が頭頂部の左右で跳ねているので名前の通り、猫娘のようにも見える。
高身長の割にあまり自己主張をしない謙虚な体つきのせいか、長身のユリナより、少し背が低いだけで少年のように見える容貌をしていた。
「ようやく一線を越えたのね。新しいプレイを教えようか?」
「何々? 詳しく教えるのだわ」
「ど、どういうこと?」
十代前半にしか、見えない顔で泉は相当な問題発言をする。
ただし、言われた当の本人であるユリナは、全く話を読めていない。
頭の上に大きなはてなマークが見えてもおかしくないほどにきょとんとしていた。
耳年増な五月は便乗して、ネタを仕入れようと考えているのが明らかだった。
その証拠に癖のある跳ね毛がピョコピョコと口の代わりに動いている。
「だから、ついにしたんでしょう? あたしは経験者だから、何でも聞きなさいよ」
「何を? え?」
小柄な割に立派な物を持っている泉が身体を反らすと豊かな双丘が口ほどに物を言い、五月が「ぐぬぬ」と内心でひがむといういつもの構図が繰り広げられる。
しかし、ユリナにはやはり分からない。
泉の言っていることがほぼ理解できていないのだ。
「こういう時、貴女は鈍いのよねぇ。だからぁ、アレよ、アレ。夫婦のアレ」
「そのポーズやめるのだわ」という五月の小さな抗議を意に介さず、泉が胸を強調するように腕を組み、さらにはテーブルの上で豊かな果実を休めるという暴挙に出た。
ガツンという激しい音とともに五月がテーブルに勢いよく、頭を打ち付ける。
彼女の額とテーブルは仲良く、こんにちは! をしており、ピクリとも動かない。
普通であれば驚いたり心配するところだが、ユリナと泉は全く意に介さない様子で会話を進めていた。
このやり取りは彼女らにとって、日常の一頁なので特に気に留めることではないのだ。
『イズミンの泉』と『ニャオの泉』はよくコラボレーション配信をしていることで知られている。
その中でも頻繁にこのやり取りが出てくることは有名でボケ・ツッコミの泉とツッコミ・ボケの五月でユニットを組み、芸人の頂点を決める祭りに参加するべきだと主張する視聴者まで出てくるほどだった。
そして、重要なのは『イズミンの泉』と『ニャオの泉』が『歌姫』リリーのチャンネルに登録されている事実だ。
彼女のチャンネルに登録されているのが『ダリア』と『ドロシア』の二チャンネルだけだったことを考えれば、注目を集めないはずがない。
「ええ。ちゃんと毎日、手を繋いで寝ているわ」
頬を朱で染めて、どこか恥ずかしそうに頬に手を当てながら、そう言うユリナを見て、泉は悟った。
(この子、分かってなかった)
だからといって、泉は親切に優しく、丁寧に教えてあげる性格ではない。
むしろ、この無垢な友人で遊べるのではないかと考え、楽しもうとする悪戯好きな面がある。
「それだけじゃ、ダメよ」
「そうなの? でも、レオと一週間に一度だけって、約束でしていることがあるから、平気よ」
「何、それ? 詳しく、教えなさいよ」
「教えるのだわ」
どうやら復活したらしい五月まで便乗して、責め立てるのでユリナは止せばいいのに馬鹿正直にレオとの睦み合いを全て、話してしまった。
耳年増なだけでほぼユリナと変わらないレベルにいる五月は脳のキャパシティがオーバーしたのか、沈黙してしまったが泉は険しい顔になっている。
ローティーンにしか、見えない泉だが実は既婚者である。
夫は小柄で童顔の泉とは対照的な大柄の熊のような男だが、見た目に反してロマンチストなポエマーだ。
自作の詩を朗読するヨーチューバーでもあるが、麗央と同様に全く、バズってはいない。
美女と野獣にしか見えない夫婦だが、ユリナと麗央とは違い、既にやることをやっている。
経験がある以上、ユリナの話を聞いていると恥じらいながらも幸せそうな彼女の様子に不憫にも思えてくるのだった。
しかし、泉は生来、愉しみを優先する厄介な質である。
普通にアドバイスをするつもりなど、毛頭なかった。
「それだけじゃ、ダメよ。ダメダメ。今夜から、ちゃんと抱いてもらいなさい」
「手を繋ぐだけじゃ、ダメなの? 抱いてもらったら、大丈夫?」
「うん。大丈夫だから、ちゃんと抱いてもらうのよ。いい?」
何度も念を押して、『抱く』を強調した泉だったが、案の定、ユリナは全く、分かっていなかったと判明する。
それはまた、別の話である。
「そうそう。面白い話で忘れるところだったわ。九州に迷宮が現出したらしいわ」
「でも、現地に丁度いいのがいるらしいのだわ」
泉と五月は帰り際、気になる置き土産を残し帰っていくのだった。
ユリナは困惑していた。
豪奢な黄金の色をした長い髪の少女と濡れ羽色のウルフヘア少女が、興味津々で質問というよりは詰問するように詰め寄ってくるせいだ。
(どうして、こうなったのかしら?)
勝気とまでは言わないまでも普段、気後れすることがあまりないユリナである。
彼女にしては珍しく、眉尻を下げていた。
金色の髪の少女は『イズミンの泉』というチャンネルを運営する人気YoTuberである。
本名は林檎泉という名で日本名だが、見た目はユリナと同じく日本人要素が一つもない。
容姿も天然のブロンド、晴れ渡った空のように澄んだ青い瞳と西洋人らしい特徴が色濃く出ていた。
ユリナと同じく黙っていれば、陶器人形と言われる美貌である。
小柄なこともあり、童顔のユリナよりもさらに幼い少女のように見える容貌の持ち主だが、実年齢はあまり変わらず、麗央どころか菊や露よりも上なのだ。
黒髪のウルフヘアの少女もまたヨーチューバーであり、泉に対抗するように『ニャオの泉』というチャンネルを運営している。
本名は猫野五月という。
ウルフカットでさっぱりとした印象を与える髪が頭頂部の左右で跳ねているので名前の通り、猫娘のようにも見える。
高身長の割にあまり自己主張をしない謙虚な体つきのせいか、長身のユリナより、少し背が低いだけで少年のように見える容貌をしていた。
「ようやく一線を越えたのね。新しいプレイを教えようか?」
「何々? 詳しく教えるのだわ」
「ど、どういうこと?」
十代前半にしか、見えない顔で泉は相当な問題発言をする。
ただし、言われた当の本人であるユリナは、全く話を読めていない。
頭の上に大きなはてなマークが見えてもおかしくないほどにきょとんとしていた。
耳年増な五月は便乗して、ネタを仕入れようと考えているのが明らかだった。
その証拠に癖のある跳ね毛がピョコピョコと口の代わりに動いている。
「だから、ついにしたんでしょう? あたしは経験者だから、何でも聞きなさいよ」
「何を? え?」
小柄な割に立派な物を持っている泉が身体を反らすと豊かな双丘が口ほどに物を言い、五月が「ぐぬぬ」と内心でひがむといういつもの構図が繰り広げられる。
しかし、ユリナにはやはり分からない。
泉の言っていることがほぼ理解できていないのだ。
「こういう時、貴女は鈍いのよねぇ。だからぁ、アレよ、アレ。夫婦のアレ」
「そのポーズやめるのだわ」という五月の小さな抗議を意に介さず、泉が胸を強調するように腕を組み、さらにはテーブルの上で豊かな果実を休めるという暴挙に出た。
ガツンという激しい音とともに五月がテーブルに勢いよく、頭を打ち付ける。
彼女の額とテーブルは仲良く、こんにちは! をしており、ピクリとも動かない。
普通であれば驚いたり心配するところだが、ユリナと泉は全く意に介さない様子で会話を進めていた。
このやり取りは彼女らにとって、日常の一頁なので特に気に留めることではないのだ。
『イズミンの泉』と『ニャオの泉』はよくコラボレーション配信をしていることで知られている。
その中でも頻繁にこのやり取りが出てくることは有名でボケ・ツッコミの泉とツッコミ・ボケの五月でユニットを組み、芸人の頂点を決める祭りに参加するべきだと主張する視聴者まで出てくるほどだった。
そして、重要なのは『イズミンの泉』と『ニャオの泉』が『歌姫』リリーのチャンネルに登録されている事実だ。
彼女のチャンネルに登録されているのが『ダリア』と『ドロシア』の二チャンネルだけだったことを考えれば、注目を集めないはずがない。
「ええ。ちゃんと毎日、手を繋いで寝ているわ」
頬を朱で染めて、どこか恥ずかしそうに頬に手を当てながら、そう言うユリナを見て、泉は悟った。
(この子、分かってなかった)
だからといって、泉は親切に優しく、丁寧に教えてあげる性格ではない。
むしろ、この無垢な友人で遊べるのではないかと考え、楽しもうとする悪戯好きな面がある。
「それだけじゃ、ダメよ」
「そうなの? でも、レオと一週間に一度だけって、約束でしていることがあるから、平気よ」
「何、それ? 詳しく、教えなさいよ」
「教えるのだわ」
どうやら復活したらしい五月まで便乗して、責め立てるのでユリナは止せばいいのに馬鹿正直にレオとの睦み合いを全て、話してしまった。
耳年増なだけでほぼユリナと変わらないレベルにいる五月は脳のキャパシティがオーバーしたのか、沈黙してしまったが泉は険しい顔になっている。
ローティーンにしか、見えない泉だが実は既婚者である。
夫は小柄で童顔の泉とは対照的な大柄の熊のような男だが、見た目に反してロマンチストなポエマーだ。
自作の詩を朗読するヨーチューバーでもあるが、麗央と同様に全く、バズってはいない。
美女と野獣にしか見えない夫婦だが、ユリナと麗央とは違い、既にやることをやっている。
経験がある以上、ユリナの話を聞いていると恥じらいながらも幸せそうな彼女の様子に不憫にも思えてくるのだった。
しかし、泉は生来、愉しみを優先する厄介な質である。
普通にアドバイスをするつもりなど、毛頭なかった。
「それだけじゃ、ダメよ。ダメダメ。今夜から、ちゃんと抱いてもらいなさい」
「手を繋ぐだけじゃ、ダメなの? 抱いてもらったら、大丈夫?」
「うん。大丈夫だから、ちゃんと抱いてもらうのよ。いい?」
何度も念を押して、『抱く』を強調した泉だったが、案の定、ユリナは全く、分かっていなかったと判明する。
それはまた、別の話である。
「そうそう。面白い話で忘れるところだったわ。九州に迷宮が現出したらしいわ」
「でも、現地に丁度いいのがいるらしいのだわ」
泉と五月は帰り際、気になる置き土産を残し帰っていくのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる