世界の終わりで君と恋をしたい~あやかし夫婦の奇妙な事件簿~

黒幸

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第31話 親友と書いて、悪友と読む

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 そして、現在。
 ユリナは困惑していた。
 豪奢な黄金の色をした長い髪の少女と濡れ羽色のウルフヘア少女が、興味津々で質問というよりは詰問するように詰め寄ってくるせいだ。

(どうして、こうなったのかしら?)

 勝気とまでは言わないまでも普段、気後れすることがあまりないユリナである。
 彼女にしては珍しく、眉尻を下げていた。

 金色の髪の少女は『イズミンの泉』というチャンネルを運営する人気YoTuberである。
 本名は林檎泉りんご いずみという名で日本名だが、見た目はユリナと同じく日本人要素が一つもない。
 容姿も天然のブロンド、晴れ渡った空のように澄んだ青い瞳と西洋人らしい特徴が色濃く出ていた。
 ユリナと同じく黙っていれば、陶器人形ビスクドールと言われる美貌である。
 小柄なこともあり、童顔のユリナよりもさらに幼い少女のように見える容貌の持ち主だが、実年齢はあまり変わらず、麗央どころか菊や露よりも上なのだ。

 黒髪のウルフヘアの少女もまたヨーチューバーであり、泉に対抗するように『ニャオの泉』というチャンネルを運営している。
 本名は猫野五月ねこの めいという。
 ウルフカットでさっぱりとした印象を与える髪が頭頂部の左右で跳ねているので名前の通り、猫娘のようにも見える。
 高身長の割にあまり自己主張をしない謙虚な体つきのせいか、長身のユリナより、少し背が低いだけで少年のように見える容貌をしていた。

「ようやく一線を越えたのね。新しいプレイを教えようか?」
「何々? 詳しく教えるのだわ」
「ど、どういうこと?」

 十代前半にしか、見えない顔で泉は相当な問題発言をする。
 ただし、言われた当の本人であるユリナは、全く話を読めていない。
 頭の上に大きなはてなマークが見えてもおかしくないほどにきょとんとしていた。
 耳年増な五月は便乗して、ネタを仕入れようと考えているのが明らかだった。
 その証拠に癖のある跳ね毛がピョコピョコと口の代わりに動いている。

「だから、ついにしたんでしょう? あたしは経験者だから、何でも聞きなさいよ」
「何を? え?」

 小柄な割に立派な物を持っている泉が身体を反らすと豊かな双丘が口ほどに物を言い、五月が「ぐぬぬ」と内心でひがむといういつもの構図が繰り広げられる。
 しかし、ユリナにはやはり分からない。
 泉の言っていることがほぼ理解できていないのだ。

「こういう時、貴女は鈍いのよねぇ。だからぁ、アレよ、アレ。夫婦のアレ」

 「そのポーズやめるのだわ」という五月の小さな抗議を意に介さず、泉が胸を強調するように腕を組み、さらにはテーブルの上で豊かな果実を休めるという暴挙に出た。
 ガツンという激しい音とともに五月がテーブルに勢いよく、頭を打ち付ける。
 彼女の額とテーブルは仲良く、こんにちは! をしており、ピクリとも動かない。
 普通であれば驚いたり心配するところだが、ユリナと泉は全く意に介さない様子で会話を進めていた。

 このやり取りは彼女らにとって、日常の一頁なので特に気に留めることではないのだ。
 『イズミンの泉』と『ニャオの泉』はよくコラボレーション配信をしていることで知られている。
 その中でも頻繁にこのやり取りが出てくることは有名でボケ・ツッコミの泉とツッコミ・ボケの五月でユニットを組み、芸人の頂点を決める祭りに参加するべきだと主張する視聴者まで出てくるほどだった。

 そして、重要なのは『イズミンの泉』と『ニャオの泉』が『歌姫』リリーのチャンネルに登録されている事実だ。
 彼女のチャンネルに登録されているのが『ダリア』と『ドロシア』の二チャンネルだけだったことを考えれば、注目を集めないはずがない。

「ええ。ちゃんと毎日、手を繋いで寝ているわ」

 頬を朱で染めて、どこか恥ずかしそうに頬に手を当てながら、そう言うユリナを見て、泉は悟った。

(この子、分かってなかった)

 だからといって、泉は親切に優しく、丁寧に教えてあげる性格ではない。
 むしろ、この無垢な友人で遊べるのではないかと考え、楽しもうとする悪戯好きな面がある。

「それだけじゃ、ダメよ」
「そうなの? でも、レオと一週間に一度だけって、約束でしていることがあるから、平気よ」
「何、それ? 詳しく、教えなさいよ」
「教えるのだわ」

 どうやら復活したらしい五月まで便乗して、責め立てるのでユリナは止せばいいのに馬鹿正直にレオとの睦み合いを全て、話してしまった。
 耳年増なだけでほぼユリナと変わらないレベルにいる五月は脳のキャパシティがオーバーしたのか、沈黙してしまったが泉は険しい顔になっている。

 ローティーンにしか、見えない泉だが実は既婚者である。
 夫は小柄で童顔の泉とは対照的な大柄の熊のような男だが、見た目に反してロマンチストなポエマーだ。
 自作の詩を朗読するヨーチューバーでもあるが、麗央と同様に全く、バズってはいない。
 美女と野獣にしか見えない夫婦だが、ユリナと麗央とは違い、既にやることをやっている。

 経験がある以上、ユリナの話を聞いていると恥じらいながらも幸せそうな彼女の様子に不憫にも思えてくるのだった。
 しかし、泉は生来、愉しみを優先する厄介な質である。
 普通にアドバイスをするつもりなど、毛頭なかった。

「それだけじゃ、ダメよ。ダメダメ。今夜から、ちゃんと抱いてもらいなさい」
「手を繋ぐだけじゃ、ダメなの? 抱いてもらったら、大丈夫?」
「うん。大丈夫だから、ちゃんと抱いてもらうのよ。いい?」

 何度も念を押して、『抱く』を強調した泉だったが、案の定、ユリナは全く、分かっていなかったと判明する。
 それはまた、別の話である。

「そうそう。面白い話で忘れるところだったわ。九州に迷宮ダンジョンが現出したらしいわ」
「でも、現地に丁度いいのがいるらしいのだわ」

 泉と五月は帰り際、気になる置き土産を残し帰っていくのだった。
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