世界の終わりで君と恋をしたい~あやかし夫婦の奇妙な事件簿~

黒幸

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第26話 備忘録CaseIII・ドロシア①

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「お姉さん系で行きましょうか」
「は?」
「普通にお姉さん系ではきっと、バズらないわ」

 聞いたことがない単語を連発するユリナに露の頭の上にはてなマークが浮かんでは消える。
 気が付けば、「は?」「え?」としか言っていないのだが、そのことに気付いてはいない。

「ダリアはドジっ子だったから、妹系であざとかわいい路線を追求したのよ」
「そうなんだ? リーナは凄いな」
「は、はぁ」

 麗央はユリナの隣で頷いているだけだが、実のところは内容をのほとんどを理解していなかった。
 根が素直なのと妻に対して、理解と共感が強すぎるせいだ。

 ユリナと長く一緒に過ごしている間に彼女のやることは間違っていないと思うように躾けられたと言っても過言ではない。
 ユリナもまた、麗央がやることに口を挟むことはなく、むしろ甘やかすことで世間ずれした彼の勘違いを助長している。
 お互い様のとんだ似た者夫婦である。

「お姉さん系でサキュバスってのはどうかしら?」

 先程までの凍てつくような氷の視線が幻だったのだろうか。
 そう勘違いするほどに瞳をキラキラと輝かせ、言い放ったユリナの勢いに露は頷く他なかった。

 それからのユリナの動きは尋常になく、早かった。
 姑の光宗回みつむね めぐる博士に早速、連絡という名の発注をする。
 あまりの注文の多さに光宗博士は「ワシ、暇じゃないんだけどな」とぼやいたが、下手に断れば、どうなるのかも分かっていた。
 了承するしか手がないのだ。
 ユリナは言い出すと聞かない頑固なところがあった。
 それだけで済めばいいが断ったりすれば、手痛いしっぺ返しが待っていた。
 下手に強い態度を取れないのだ。

 こうして、露の為に用意された器が完成した。
 菊と同じく、生命の失われた肉体で構成されている点は変わらない。
 『フランケンシュタイン』の怪物のように見えない部分の肌に縫合痕が多少、目立つのも同じだった。
 容貌は異性が惚れ込むのに十二分な美しいものであることも……。

 しかし、小柄で未成熟な少女のような外見をしているダリアとは全く、正反対の外見で完成していた。
 濡れ羽色の艶々とした長い髪を持つのは共通していたが、黒曜石を連想させる瞳が収められた目の眦は僅かに上がっている。
 ユリナのようなはっきりとした猫目ではないもののダリアと比べるとややきついと思わせる特徴だった。

 ふっくらとした唇は僅かどころではなく、明らかに紅を塗ったようにも見える。
 体つきもダリアとは真逆だった。
 育ち切った双丘は強く自己主張しており、仰向けに寝かせられていても存在感の強さが窺い知れるほどだ。

「これがあたくし?」
「そう! 露だと分かりにくいわね……うん。そうね。ドロシアがいいんじゃない?」
「え……」

 自分の身体を確かめるように拳を開いたり、握ったりを繰り返していた露だがユリナの突然すぎる改名宣言に呆気にとられ、フリーズした。
 彼女が現実世界に戻ってくるまでにいくばくかの時を要したのは言うまでもない。
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