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第24話 備忘録CaseIII・再びツカれた少女
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御田部愛。
美少女怨霊系YoTuberとして、現在売り出し中の『ダリア』こと『菊』に憑依され、K県H町にある雷邸へと足を運ぶことになった不幸な少女である。
黒々としたおかっぱ頭なのに変わりはない。
眉上でパッツンカットになっていた前髪がやや伸びたので少しばかり、普通の女子高生と見えるようになった程度である。
不運なことに愛はまた、憑かれている。
視線はどこか虚ろで顔色が悪かった。
普段の愛は元気が服を着て、歩いていると言われるほどの快活な少女である。
あまりの変わりように友人が心配し、学校を早退するようにアドバイスしたほどだ。
ところが愛の具合が悪いように見えたのは、何のことはない。
新たな亡霊に憑かれたせいだったのだ。
愛が向かう先は自宅ではない。
隣町にある件の洋館――雷邸だった。
『あやかし』と呼ばれるこの世ではない領域に住まう者らの間で密かに取り沙汰されているのが、雷邸に住む『あやかし』の夫婦の話題だった。
このところ、すっかり調子を落としていた『皿屋敷の菊』が、往年の勢いを取り戻しつつある。
これまでのように姿を隠し、人を驚かせるのではない。
堂々と姿を現し、人の心を捉える手法はこれまでの『あやかし』が考えつかない新しいものだった。
着実にチャンネル登録者を増やし、ライブ配信での同接者数も安定した千人台をキープする人気配信者となりつつあるダリアこと菊の活躍を見るにつれ、我も我もと思う『あやかし』が増えてくるのも道理と言えよう。
今回、御田部愛に憑いた亡霊もそんなうちの一人だった。
亡霊の名は『露』。
元祖一目惚れヤンデレと言っても過言ではない。
実際には一途な愛を貫く自分が一番、大好きである。
若干、ナルシストが入った面倒な女子なのだ。
色々なヒロイン像が溢れかえるようになった世の中ですっかり、顧みられることもなくなっていたところ、『菊』の成功を知った『露』は自分もあやかりたいと考えた。
運が悪いことに愛の通学路に『露』がいたのである。
これ幸いとばかりに天然生体エナジータンクこと愛に憑いた『露』は彼女の身体を操り、やって来た。
ユリナはまた、不機嫌である。
「また、女なの」というただ一点の事実のみで彼女の機嫌はすこぶる悪い。
応接室の室温が低下しているのは気のせいではなく、吐息が白くなっていた。
麗央の傍を女性の影がちらつくだけで途端に機嫌が悪くなるユリナだが、当の本人はどこ吹く風であまり気にしている様子がない。
どんな魅力的な異性が近づいて来ようとも麗央にとって、異性と意識する唯一無二の存在は常にともにある妻だけだった。
そのことをユリナも十分に頭で理解しているつもりだったが、どうにも心は抑えがたきものらしい。
よろず相談を承ると大きく、看板を出しているのが事実なだけに相手が女性だからという理由だけで帰ってもらうという訳にはいかない。
最初は姿を隠し、出現した『菊』とは異なり、最初から己の姿を晒して現れた『露』を前にして、不機嫌を隠そうともしないユリナと興味津々といった麗央。
全く、対照的な二人が出来上がったのである。
麗央は古き良き時代の幽霊そのものを体現した『露』の和装に興味を抱いていた。
(リーナはスタイルがいいし、白い着物も似合いそうだな)
そう考えただけで思わず、顔がにやけそうになり、麗央は慌てて顔を引き締めたが時すでに遅しである。
隣に寄り添うように座っていたユリナが、歯ぎしりしそうなほどに難しい顔をしていた。
(レオったら、何をニヤニヤしてるの)
しかし、ユリナはそんな煮えくりそうな内面をおくびにも出さない。
誰もが魅了されるような花笑みを浮かべ、神妙な面持ちでいる『露』に応対するだけだ。
「それでどういう御用でいらっしゃったの?」
花笑みを浮かべているのに決して、目は笑っていない。
微妙な迫力に押される『露』だった。
美少女怨霊系YoTuberとして、現在売り出し中の『ダリア』こと『菊』に憑依され、K県H町にある雷邸へと足を運ぶことになった不幸な少女である。
黒々としたおかっぱ頭なのに変わりはない。
眉上でパッツンカットになっていた前髪がやや伸びたので少しばかり、普通の女子高生と見えるようになった程度である。
不運なことに愛はまた、憑かれている。
視線はどこか虚ろで顔色が悪かった。
普段の愛は元気が服を着て、歩いていると言われるほどの快活な少女である。
あまりの変わりように友人が心配し、学校を早退するようにアドバイスしたほどだ。
ところが愛の具合が悪いように見えたのは、何のことはない。
新たな亡霊に憑かれたせいだったのだ。
愛が向かう先は自宅ではない。
隣町にある件の洋館――雷邸だった。
『あやかし』と呼ばれるこの世ではない領域に住まう者らの間で密かに取り沙汰されているのが、雷邸に住む『あやかし』の夫婦の話題だった。
このところ、すっかり調子を落としていた『皿屋敷の菊』が、往年の勢いを取り戻しつつある。
これまでのように姿を隠し、人を驚かせるのではない。
堂々と姿を現し、人の心を捉える手法はこれまでの『あやかし』が考えつかない新しいものだった。
着実にチャンネル登録者を増やし、ライブ配信での同接者数も安定した千人台をキープする人気配信者となりつつあるダリアこと菊の活躍を見るにつれ、我も我もと思う『あやかし』が増えてくるのも道理と言えよう。
今回、御田部愛に憑いた亡霊もそんなうちの一人だった。
亡霊の名は『露』。
元祖一目惚れヤンデレと言っても過言ではない。
実際には一途な愛を貫く自分が一番、大好きである。
若干、ナルシストが入った面倒な女子なのだ。
色々なヒロイン像が溢れかえるようになった世の中ですっかり、顧みられることもなくなっていたところ、『菊』の成功を知った『露』は自分もあやかりたいと考えた。
運が悪いことに愛の通学路に『露』がいたのである。
これ幸いとばかりに天然生体エナジータンクこと愛に憑いた『露』は彼女の身体を操り、やって来た。
ユリナはまた、不機嫌である。
「また、女なの」というただ一点の事実のみで彼女の機嫌はすこぶる悪い。
応接室の室温が低下しているのは気のせいではなく、吐息が白くなっていた。
麗央の傍を女性の影がちらつくだけで途端に機嫌が悪くなるユリナだが、当の本人はどこ吹く風であまり気にしている様子がない。
どんな魅力的な異性が近づいて来ようとも麗央にとって、異性と意識する唯一無二の存在は常にともにある妻だけだった。
そのことをユリナも十分に頭で理解しているつもりだったが、どうにも心は抑えがたきものらしい。
よろず相談を承ると大きく、看板を出しているのが事実なだけに相手が女性だからという理由だけで帰ってもらうという訳にはいかない。
最初は姿を隠し、出現した『菊』とは異なり、最初から己の姿を晒して現れた『露』を前にして、不機嫌を隠そうともしないユリナと興味津々といった麗央。
全く、対照的な二人が出来上がったのである。
麗央は古き良き時代の幽霊そのものを体現した『露』の和装に興味を抱いていた。
(リーナはスタイルがいいし、白い着物も似合いそうだな)
そう考えただけで思わず、顔がにやけそうになり、麗央は慌てて顔を引き締めたが時すでに遅しである。
隣に寄り添うように座っていたユリナが、歯ぎしりしそうなほどに難しい顔をしていた。
(レオったら、何をニヤニヤしてるの)
しかし、ユリナはそんな煮えくりそうな内面をおくびにも出さない。
誰もが魅了されるような花笑みを浮かべ、神妙な面持ちでいる『露』に応対するだけだ。
「それでどういう御用でいらっしゃったの?」
花笑みを浮かべているのに決して、目は笑っていない。
微妙な迫力に押される『露』だった。
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