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第19話 備忘録CaseII・魔女狩りの男
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五大都市ライブが終わり、ユリナと麗央は平穏な時を過ごしていた。
望んでいたほどの成果は上げられず、それでなくても頼りにならないユリナの兄がさらに頼りなくなったという誤算が生じてはいたが……。
しかし、予想していた日出ずる処の抵抗が期待外れなものだったこともあり、溜飲を下げている。
あの時、ユリナは自らの歌により、動けなくなっていた。
彼女が動けない間、麗央は眠り姫を助ける王子のように八面六臂の活躍を見せたのだがそれはまた、別の話である。
この時、別の何らかの力の 五大都市ライブが終わり、ユリナと麗央は平穏な時を過ごしていた。
望んでいたほどの成果は上げられず、それでなくても頼りにならないユリナの兄がさらに頼りなくなったという誤算が生じてはいたが……。
しかし、予想していた日出ずる処の抵抗が期待外れなものだったこともあり、溜飲を下げている。
あの時、ユリナは自らの歌により、動けなくなっていた。
彼女が動けない間、麗央は眠り姫を助ける王子のように八面六臂の活躍を見せたのだがそれはまた、別の話である。
この時、別の何らかの力の介入があったことも少なからぬ影響を及ぼした。
これに気付かない麗央ではなかったが、メッセージ代わりに愛刀『雷切』を力の限り、ただ振るだけで済ませた。
そして、話はユリナが『滅びの歌』を謳ったところにまで遡る……。
ユリナが歌姫リリーとして、披露した歌は全七曲。
その順番に意味があった。
最初に謳った歌は人々に希望を与え、明るい未来を心に思い描ける歌だった。
この歌でライブを見たり、聞いたりした者のおよそ六割ほどが、幸せな夢の世界の住人となっている。
彼らはもっとも幸いな者である。
幸福を感じ、そのまま夢見る世界に旅立てるのだから。
二曲目以降は希望ではなく、自ら立ち上がって、動くべきという戦いを促す歌だった。
三曲、四曲と進むにつれ、ライブの観客・視聴者は次々と倒れていく。
だが、誰もが幸せそうな笑顔のまま、安らかに眠りについているだけである。
彼らもまだ、幸いな者である。
不幸を感じることなく、夢見る世界に旅立てるのだから。
そして、六曲目が終わる頃には立っていられた者の数は極めて、少なかった。
七曲目。
『滅びの歌』をリリーが歌い始めるとついには立っていられる者など、誰一人いなくなった。
それは謳っているリリーとて、例外ではない。
しかし、それはあくまで現実世界での彼女の肉体が眠りについただけに過ぎないのだ。
『滅びの歌』により、ユリナの呪力が込められた歌による結界――夢の世界の完成を意味する。
絶対領域。
純血のあやかしであるユリナが持つ力の一端だ。
ある者はこう評した。
『歌姫』としての彼女の歌を聴いてしまった者の魂は『永遠の牢獄に囚われる』と……。
魂――意識を夢の世界と言う名の別次元に閉じ込める固有の結界。
それがアブソリューターベライヒである。
「さぁ。始めましょう」
『滅びの歌』を謳っていた際、身に着けていたのと同じ、黒のゴシック・ドレスを纏ったユリナが、腰掛ける玉座の上でゆっくりとその瞼を開いた。
グルルルルという恐ろし気な唸り声は玉座の傍に伏せて、控える黒犬が出している。
闇の如き、色を全身に纏い、乾ききっていない血の色に彩られた胸毛が不気味な大きな犬だった。
「ここは私の支配する世界なのだから」
ユリナの瞳は紅玉のように妖しい輝きを見せていた。
ほんのりと赤い燐光を放つ瞳に、浮かぶのは氷を思わせる冷たく、酷薄な感情のみだ。
ユリナが妖艶な笑みを浮かべ、静かに立ち上がるとそれを待っていたように黒犬も起き上がり、傍らについた。
「揖斐勇……ね。罪状は魔女狩り」
足音を響かせ、照明の灯っていない長い廊下を歩いていたユリナはふと歩みを止める。
人差し指を唇に当て、思案するように再び、瞼を閉じた。
「情状酌量の余地がないかしら?」
揖斐勇、二十五歳。
連続暴行殺人犯。
被害者は長い黒髪の女性。
家出少女など足が付きにくい未成年者を狙った手口で十二人が犠牲になった。
そのほとんどが行方不明事件として扱われ、遺体なき殺人――未解決事件である。
「ふぅ~ん。そういうことなの?」
私生児として生まれ、母親によって育てられた。
母親から日常的にあらゆる虐待を受け、成長した。
時には息子の前で情夫との行為を見ることを強要されるうち、勇の中に母親への愛と憎悪が生じ、歪んだ人格が形成された。
長い黒髪は母親がそうだったからに他ならない。
母親は魔女なので自分が愛をもって、正さねばいけない。
無自覚に母親の愛を追い求め、多くの少女を手にかける殺人鬼が誕生した。
「じゃあ、ちょっとだけ、チャンスをあげるわ。それでどうにかなるかしら?
無理でしょうけど。あははははっ」
いつの間にか、抱きかかえられるほどの大きさの仔犬に変じていた黒犬を胸に抱いたユリナが、まるで感情の色を感じさせない乾いた笑い声を上げるのだった。
望んでいたほどの成果は上げられず、それでなくても頼りにならないユリナの兄がさらに頼りなくなったという誤算が生じてはいたが……。
しかし、予想していた日出ずる処の抵抗が期待外れなものだったこともあり、溜飲を下げている。
あの時、ユリナは自らの歌により、動けなくなっていた。
彼女が動けない間、麗央は眠り姫を助ける王子のように八面六臂の活躍を見せたのだがそれはまた、別の話である。
この時、別の何らかの力の 五大都市ライブが終わり、ユリナと麗央は平穏な時を過ごしていた。
望んでいたほどの成果は上げられず、それでなくても頼りにならないユリナの兄がさらに頼りなくなったという誤算が生じてはいたが……。
しかし、予想していた日出ずる処の抵抗が期待外れなものだったこともあり、溜飲を下げている。
あの時、ユリナは自らの歌により、動けなくなっていた。
彼女が動けない間、麗央は眠り姫を助ける王子のように八面六臂の活躍を見せたのだがそれはまた、別の話である。
この時、別の何らかの力の介入があったことも少なからぬ影響を及ぼした。
これに気付かない麗央ではなかったが、メッセージ代わりに愛刀『雷切』を力の限り、ただ振るだけで済ませた。
そして、話はユリナが『滅びの歌』を謳ったところにまで遡る……。
ユリナが歌姫リリーとして、披露した歌は全七曲。
その順番に意味があった。
最初に謳った歌は人々に希望を与え、明るい未来を心に思い描ける歌だった。
この歌でライブを見たり、聞いたりした者のおよそ六割ほどが、幸せな夢の世界の住人となっている。
彼らはもっとも幸いな者である。
幸福を感じ、そのまま夢見る世界に旅立てるのだから。
二曲目以降は希望ではなく、自ら立ち上がって、動くべきという戦いを促す歌だった。
三曲、四曲と進むにつれ、ライブの観客・視聴者は次々と倒れていく。
だが、誰もが幸せそうな笑顔のまま、安らかに眠りについているだけである。
彼らもまだ、幸いな者である。
不幸を感じることなく、夢見る世界に旅立てるのだから。
そして、六曲目が終わる頃には立っていられた者の数は極めて、少なかった。
七曲目。
『滅びの歌』をリリーが歌い始めるとついには立っていられる者など、誰一人いなくなった。
それは謳っているリリーとて、例外ではない。
しかし、それはあくまで現実世界での彼女の肉体が眠りについただけに過ぎないのだ。
『滅びの歌』により、ユリナの呪力が込められた歌による結界――夢の世界の完成を意味する。
絶対領域。
純血のあやかしであるユリナが持つ力の一端だ。
ある者はこう評した。
『歌姫』としての彼女の歌を聴いてしまった者の魂は『永遠の牢獄に囚われる』と……。
魂――意識を夢の世界と言う名の別次元に閉じ込める固有の結界。
それがアブソリューターベライヒである。
「さぁ。始めましょう」
『滅びの歌』を謳っていた際、身に着けていたのと同じ、黒のゴシック・ドレスを纏ったユリナが、腰掛ける玉座の上でゆっくりとその瞼を開いた。
グルルルルという恐ろし気な唸り声は玉座の傍に伏せて、控える黒犬が出している。
闇の如き、色を全身に纏い、乾ききっていない血の色に彩られた胸毛が不気味な大きな犬だった。
「ここは私の支配する世界なのだから」
ユリナの瞳は紅玉のように妖しい輝きを見せていた。
ほんのりと赤い燐光を放つ瞳に、浮かぶのは氷を思わせる冷たく、酷薄な感情のみだ。
ユリナが妖艶な笑みを浮かべ、静かに立ち上がるとそれを待っていたように黒犬も起き上がり、傍らについた。
「揖斐勇……ね。罪状は魔女狩り」
足音を響かせ、照明の灯っていない長い廊下を歩いていたユリナはふと歩みを止める。
人差し指を唇に当て、思案するように再び、瞼を閉じた。
「情状酌量の余地がないかしら?」
揖斐勇、二十五歳。
連続暴行殺人犯。
被害者は長い黒髪の女性。
家出少女など足が付きにくい未成年者を狙った手口で十二人が犠牲になった。
そのほとんどが行方不明事件として扱われ、遺体なき殺人――未解決事件である。
「ふぅ~ん。そういうことなの?」
私生児として生まれ、母親によって育てられた。
母親から日常的にあらゆる虐待を受け、成長した。
時には息子の前で情夫との行為を見ることを強要されるうち、勇の中に母親への愛と憎悪が生じ、歪んだ人格が形成された。
長い黒髪は母親がそうだったからに他ならない。
母親は魔女なので自分が愛をもって、正さねばいけない。
無自覚に母親の愛を追い求め、多くの少女を手にかける殺人鬼が誕生した。
「じゃあ、ちょっとだけ、チャンスをあげるわ。それでどうにかなるかしら?
無理でしょうけど。あははははっ」
いつの間にか、抱きかかえられるほどの大きさの仔犬に変じていた黒犬を胸に抱いたユリナが、まるで感情の色を感じさせない乾いた笑い声を上げるのだった。
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