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第9話 備忘録CaseI・ダリア
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「ね? これで完璧ね」
ユリナは自分のことでもないのに自信に満ち溢れた様子で胸を張っている。
そんな彼女を前に麗央と菊は、言葉を失いながらもただ頷いて見せる。
反論すれば、こちらが一を言う前に少なくても五は返ってくることを経験則として、知っているからだ。
「裾があの……短くはありませんか?」
「これくらいは攻めないとイメチェンにならないでしょ」
「えぇ……」
うんうんと一人悦に入っているユリナを他所に首を捻る麗央と心無し青褪めた顔の菊である。
それも致し方ないことだった。
Y市へと菊の衣装を見繕いに出かけ、散々に世間を騒がせたユリナが選んだのはとことん攻めに転じたファッションだったからだ。
菊が元々、着ていた白い着物と同じく、白を基調としている。
ところどころに花の刺繍が施され、少しばかりの派手さを感じなくもないがそこは菊も気にしていなかった。
問題は下半身。
裾の部分である。
いわゆるミニスカ着物と呼ばれる裾が極端に短く、太腿が露わになるデザインをしていた。
くるっと一回転をすれば、下着が見える程度の裾の長さ。
貞淑な時代を長く生きていた菊からはとても考えられないものだった。
「変わりたいのでしょ? それなら、変わらなきゃダメよ」
「は、はいぃぃ……」
菊はユリナが言っていたことを思い出した。
自分と同じように井戸を拠り所として、活動していたまだ、年若い怨霊がいた。
その怨霊も菊と同じように人々の恐怖を糧にしていたのだと言う。
ところが時代の変化に応じるようにその怨霊は、自らを変えていった。
人々を怖がらせるのではなく、萌えさせることに転じたのだ。
日中、堂々と人前に姿を現し、イベントに参加する姿がいつしか人々に受け入れられた。
愛される存在へと昇華した。
自分にもそうなれと言っているのだろうか。
菊はそう考えて、ユリナの顔を窺う。
雪を欺くような肌にひっそりと浮かぶ桜色の唇は慈愛に溢れているとはお世辞にも見えない。
むしろ、状況を愉しんでいるようにしか見えない。
だが、断るという選択肢は菊には残されていなかった。
目の前で微笑む『歌姫』と名乗る女は自分など、簡単に消せる存在なのだ。
「う~ん。何かが足りないわ」
「え? 何? これ以上にまだ、何かあるのかい?」
顎に手を当て、思案顔になったユリナを本気で心配している麗央を見て、「この二人、駄目でございます」と喉まで出た言葉を飲み込み、菊は短い裾を必死に伸ばすという無駄な努力をしていた。
そんな菊を他所にユリナの無慈悲な宣告は続く……。
「分かったわ。名前だわ! 菊さん、名前を変えましょ」
「「え?」」
「そうね……ダリアがいいんじゃない?」
ユリナは思い付きで行動しているようでその実、考えがあって動いているのだと信じている麗央は、妻のとんでもない発言を鵜呑みにした。
当の張本人である菊にとっては青天の霹靂である。
「そ、そんな洋風の横文字の名前なんて、無理でございます」
「んんん? 何か、言ったかしら?」
一瞬、室内の温度が急激に低下した。
まだ、日が出ている時間にも関わらず、世界が闇に覆われる錯覚を覚えた。
体は小刻みに震え、歯がガチガチと嫌な音を立てる。
菊は諦めた。
自分はここを訪れた時、既にこの人の手に落ちていたのだと……。
「だりあです。わーわたしはだりあ」
菊はこうして、十五歳の華の乙女ダリアという設定に生まれ変わった。
ユリナによる菊イメチェン計画はまだ終わらない。
菊改めダリアの受難は続く……。
ユリナは自分のことでもないのに自信に満ち溢れた様子で胸を張っている。
そんな彼女を前に麗央と菊は、言葉を失いながらもただ頷いて見せる。
反論すれば、こちらが一を言う前に少なくても五は返ってくることを経験則として、知っているからだ。
「裾があの……短くはありませんか?」
「これくらいは攻めないとイメチェンにならないでしょ」
「えぇ……」
うんうんと一人悦に入っているユリナを他所に首を捻る麗央と心無し青褪めた顔の菊である。
それも致し方ないことだった。
Y市へと菊の衣装を見繕いに出かけ、散々に世間を騒がせたユリナが選んだのはとことん攻めに転じたファッションだったからだ。
菊が元々、着ていた白い着物と同じく、白を基調としている。
ところどころに花の刺繍が施され、少しばかりの派手さを感じなくもないがそこは菊も気にしていなかった。
問題は下半身。
裾の部分である。
いわゆるミニスカ着物と呼ばれる裾が極端に短く、太腿が露わになるデザインをしていた。
くるっと一回転をすれば、下着が見える程度の裾の長さ。
貞淑な時代を長く生きていた菊からはとても考えられないものだった。
「変わりたいのでしょ? それなら、変わらなきゃダメよ」
「は、はいぃぃ……」
菊はユリナが言っていたことを思い出した。
自分と同じように井戸を拠り所として、活動していたまだ、年若い怨霊がいた。
その怨霊も菊と同じように人々の恐怖を糧にしていたのだと言う。
ところが時代の変化に応じるようにその怨霊は、自らを変えていった。
人々を怖がらせるのではなく、萌えさせることに転じたのだ。
日中、堂々と人前に姿を現し、イベントに参加する姿がいつしか人々に受け入れられた。
愛される存在へと昇華した。
自分にもそうなれと言っているのだろうか。
菊はそう考えて、ユリナの顔を窺う。
雪を欺くような肌にひっそりと浮かぶ桜色の唇は慈愛に溢れているとはお世辞にも見えない。
むしろ、状況を愉しんでいるようにしか見えない。
だが、断るという選択肢は菊には残されていなかった。
目の前で微笑む『歌姫』と名乗る女は自分など、簡単に消せる存在なのだ。
「う~ん。何かが足りないわ」
「え? 何? これ以上にまだ、何かあるのかい?」
顎に手を当て、思案顔になったユリナを本気で心配している麗央を見て、「この二人、駄目でございます」と喉まで出た言葉を飲み込み、菊は短い裾を必死に伸ばすという無駄な努力をしていた。
そんな菊を他所にユリナの無慈悲な宣告は続く……。
「分かったわ。名前だわ! 菊さん、名前を変えましょ」
「「え?」」
「そうね……ダリアがいいんじゃない?」
ユリナは思い付きで行動しているようでその実、考えがあって動いているのだと信じている麗央は、妻のとんでもない発言を鵜呑みにした。
当の張本人である菊にとっては青天の霹靂である。
「そ、そんな洋風の横文字の名前なんて、無理でございます」
「んんん? 何か、言ったかしら?」
一瞬、室内の温度が急激に低下した。
まだ、日が出ている時間にも関わらず、世界が闇に覆われる錯覚を覚えた。
体は小刻みに震え、歯がガチガチと嫌な音を立てる。
菊は諦めた。
自分はここを訪れた時、既にこの人の手に落ちていたのだと……。
「だりあです。わーわたしはだりあ」
菊はこうして、十五歳の華の乙女ダリアという設定に生まれ変わった。
ユリナによる菊イメチェン計画はまだ終わらない。
菊改めダリアの受難は続く……。
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