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第5話 備忘録CaseI・ツカれた少女
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御田部愛。
K県H町にある雷邸を訪ねた少女である。
黒々としたおかっぱ頭。
前髪を眉の上でパッツン気味にカットしているので少々、人目を引く見た目をしている。
だが、これといって、特徴のある顔立ちではない。
特別、可愛い訳ではなく、だからといって可愛くない訳でもない。
どこにでもいそうな普通の女子高校生。
それが愛である。
仲の良い友人に薦められ、ネットで話題になっている歌姫リリーのライブを見た。
週末の土曜日。
それも真夜中にしか、開催されない秘密めいたライブを心をワクワクさせて、臨んだ愛はそこで信じられないモノを見て、聞いてしまった。
彼女は最近、魘されることが多く、満足な睡眠をとれない日々を送っていた。
寝ようとすると瞼にスライドショーのようにある情景が浮かんでくるのだ。
蓋がされ、がっちりと封印された古井戸とその傍に佇む白くぼやけたシルエットが目に焼き付いて離れない。
さらに日中も両肩にまるで何か、重たい物を背負っているような違和感を覚えていた。
ところがリリーのライブを翌朝のことだ。
愛は気持ちのいい朝を迎えていた。
ライブの内容が何だったのかは全く、覚えていない。
きれいさっぱりと記憶から、欠落していたのである。
歌姫リリーのライブを見るまでの記憶は確かだった。
そこからの記憶が定かではないのだ。
それなのにはっきりと覚えているフレーズがあった。
K県H町のとある住所。
愛は『そこに行かなくてはいけない』という妙な使命感に燃え、実際に行くことにした。
しかし、いざ黒鉄の門を前にすると心が竦み、足が止まってしまった。
とても開きそうにない重く、冷たい門は彼女の非力な腕で動きそうにない。
やはり帰ろうかと愛が踵を返そうとしたその時、ミシミシと嫌な音を立てながら、門がゆっくりと開き始めた。
「は、入っていいのかな」
愛はK県のY市にある私立高等学校に通っており、H町の地元の噂話を知らなかった。
丘の上に立つ洋館がお化け屋敷と呼ばれていることを……。
洋館を訪ねようとしても行き着ける者が滅多にいないことを……。
「お邪魔しまぁ~す」
彼女が敷地に足を一歩、踏み入れた瞬間、それは起きた。
愛は頭に鋭い痛みを感じた。
まるで脳に直接、五寸釘を突き刺し、何度も打ち付けられているような感覚だった。
それだけではない。
細くしなやかな指が心臓を掴み、締め付けてくる。
氷よりも遥かに冷たい指が心臓だけでなく、魂までをも凍らせようとしている。
愛はそう感じていた。
(し、しぬぅ……わたし、このまま死ぬのかな)
次第に薄れゆく意識の中、愛は死を覚悟した。
チリンチリンという軽やかな鈴の音が聞こえる。
その瞬間、あんなにも強く感じていた痛みや恐怖が嘘のように消えていた。
「あ、あれ?」
痛みを何も感じなくなったことに違和感を覚えた愛はふと気付いた。
両肩に重りを載せられていたような感覚も消えている。
不思議なほどに頭がすっきりとしていた。
まるで深く、立ち込めていた霧が急に消えたかのように……。
「わたし、何でここに来たんだっけ?」
暫し、呆けていた愛だったが我に返るとにわかに首を捻った。
学校の帰りに足を延ばし、隣町に来た理由を思い出せないでいた。
ましてや縁もゆかりもない屋敷を訪問しようとしているのだ。
頭の上に何個ものはてなマークが浮かんでは消え、そして、ポンと手を打った。
「帰ろう」
理由を思い出せない以上、ここに留まる意味はない。
彼女はそう考えた。
もし屋敷の住人が応対に出てきたら、何と言えばいいのか、皆目見当がつかない。
だから、愛は逃げることにした。
心の中では「ごめんなさい。勝手に門を開けて」と謝りながら……。
去っていく愛は知らなかった。
己の背を見ている白い着物の女がいたことを……。
K県H町にある雷邸を訪ねた少女である。
黒々としたおかっぱ頭。
前髪を眉の上でパッツン気味にカットしているので少々、人目を引く見た目をしている。
だが、これといって、特徴のある顔立ちではない。
特別、可愛い訳ではなく、だからといって可愛くない訳でもない。
どこにでもいそうな普通の女子高校生。
それが愛である。
仲の良い友人に薦められ、ネットで話題になっている歌姫リリーのライブを見た。
週末の土曜日。
それも真夜中にしか、開催されない秘密めいたライブを心をワクワクさせて、臨んだ愛はそこで信じられないモノを見て、聞いてしまった。
彼女は最近、魘されることが多く、満足な睡眠をとれない日々を送っていた。
寝ようとすると瞼にスライドショーのようにある情景が浮かんでくるのだ。
蓋がされ、がっちりと封印された古井戸とその傍に佇む白くぼやけたシルエットが目に焼き付いて離れない。
さらに日中も両肩にまるで何か、重たい物を背負っているような違和感を覚えていた。
ところがリリーのライブを翌朝のことだ。
愛は気持ちのいい朝を迎えていた。
ライブの内容が何だったのかは全く、覚えていない。
きれいさっぱりと記憶から、欠落していたのである。
歌姫リリーのライブを見るまでの記憶は確かだった。
そこからの記憶が定かではないのだ。
それなのにはっきりと覚えているフレーズがあった。
K県H町のとある住所。
愛は『そこに行かなくてはいけない』という妙な使命感に燃え、実際に行くことにした。
しかし、いざ黒鉄の門を前にすると心が竦み、足が止まってしまった。
とても開きそうにない重く、冷たい門は彼女の非力な腕で動きそうにない。
やはり帰ろうかと愛が踵を返そうとしたその時、ミシミシと嫌な音を立てながら、門がゆっくりと開き始めた。
「は、入っていいのかな」
愛はK県のY市にある私立高等学校に通っており、H町の地元の噂話を知らなかった。
丘の上に立つ洋館がお化け屋敷と呼ばれていることを……。
洋館を訪ねようとしても行き着ける者が滅多にいないことを……。
「お邪魔しまぁ~す」
彼女が敷地に足を一歩、踏み入れた瞬間、それは起きた。
愛は頭に鋭い痛みを感じた。
まるで脳に直接、五寸釘を突き刺し、何度も打ち付けられているような感覚だった。
それだけではない。
細くしなやかな指が心臓を掴み、締め付けてくる。
氷よりも遥かに冷たい指が心臓だけでなく、魂までをも凍らせようとしている。
愛はそう感じていた。
(し、しぬぅ……わたし、このまま死ぬのかな)
次第に薄れゆく意識の中、愛は死を覚悟した。
チリンチリンという軽やかな鈴の音が聞こえる。
その瞬間、あんなにも強く感じていた痛みや恐怖が嘘のように消えていた。
「あ、あれ?」
痛みを何も感じなくなったことに違和感を覚えた愛はふと気付いた。
両肩に重りを載せられていたような感覚も消えている。
不思議なほどに頭がすっきりとしていた。
まるで深く、立ち込めていた霧が急に消えたかのように……。
「わたし、何でここに来たんだっけ?」
暫し、呆けていた愛だったが我に返るとにわかに首を捻った。
学校の帰りに足を延ばし、隣町に来た理由を思い出せないでいた。
ましてや縁もゆかりもない屋敷を訪問しようとしているのだ。
頭の上に何個ものはてなマークが浮かんでは消え、そして、ポンと手を打った。
「帰ろう」
理由を思い出せない以上、ここに留まる意味はない。
彼女はそう考えた。
もし屋敷の住人が応対に出てきたら、何と言えばいいのか、皆目見当がつかない。
だから、愛は逃げることにした。
心の中では「ごめんなさい。勝手に門を開けて」と謝りながら……。
去っていく愛は知らなかった。
己の背を見ている白い着物の女がいたことを……。
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