1 / 159
第1話 幻の歌姫
しおりを挟む
世界は緩やかにしかし、確実に変革の時を迎えた。
自らを万物の霊長たる霊長類と名付けるほどに繁栄していた人間。
地球を支配せし者として、彼らが君臨する時代に終わりを告げるべくシシャが現れたのだ。
それらはかつて人々が恐れ、奉る存在だった。
怪異。
あやかし。
もののけ。
始まりは実に静かなものだった。
都市伝説やUMAが実在するモノとして、実体化した。
それは序曲に過ぎず、やがて神話や伝説に描かれし、大いなる存在が姿を見せる。
そして、人の子らは真の恐怖を知ることになった。
かつて人はバベルの塔を築き、神の怒りによって分断された。
悲劇は再び訪れる。
人は再び分かたれることとなった。
やがてあやかしと呼ばれる不条理な存在は日常の一コマとなった。
人々は心の平穏と癒しを求める。
それが動画共有サイト『YoTube』だった。
世界中の人々が熱狂し、盛り上がりを見せる地球人共通のプラットフォームと言っても過言ではない。
巨大SNSでもあり、流行の最先端と最新の情報の発信源でもあった。
今、ヨーチューブでとある動画投稿者が、人々の話題にのぼっている。
その注目度は時を経るにつれ、収まる気配を見せず、いつしか雑誌やテレビでも取り上げられるほどになっていた。
しかし、彼女のことを動画投稿者というのには少々の語弊があるかもしれない。
なぜなら、動画を一つも投稿していないからだ。
彼女のチャンネルではライブ配信しか行われない。
アーカイブに一切の記録を残さないのだ。
その為、リアルタイムで見逃してしまえば、それきりである。
希少性もあいまってか、視聴者は増えた。
SNSでの口コミもあり、噂が噂を呼ぶ。
実際に配信で彼女の歌を聞いた者は、まるで彼女の虜となったと言われるほどにチャンネルを登録する。
彼女は恋する乙女心を花に例え、咲き誇り、そして、散っていく様を切々と歌う。
刹那的。
破滅的。
高音でありながら、独特の掠れたような特徴のあるボイスがファンを魅了していた。
登録者はうなぎのぼりに増えていき、あっという間に百万人を超えたのはつい先日のことである。
彼女の歌を聞いた者は口々に言う。
新しい世界が待っている、と……。
彗星のようにヨーチューブに現れたその配信者の名はリリーと言う。
週末の真夜中にしか、配信をせず、オリジナルの歌を歌う。
彼女の顔を見た者はいない。
常に後ろを向いているからだ。
きれいに編み込まれ、ツインテールに結われた髪は色素の薄い金色を帯びている。
染めたのとは違う不思議な色合いの髪だが、本人が海の音が聞こえる場所に住んでおり、日本にいると発言していたことから、日本在住の欧州系の外国人ではないかと噂されていた。
シルクシフォンのツーピースのドレスは純白で肌も抜けるように白いことから、まるで妖精のようだと盛り上がる者がいる一方、顔を見せないのだから、大したことないに違いないと反論する者もいた。
しかし、一度彼女が歌い始めるとそのようなことで言い争いをしていた者らも口を閉じる。
誰もが聞き惚れる天性の歌姫と言うべき、歌声だったからだ。
アーカイブに残らない以上、リアルタイムでしか、彼女の姿と歌は拝めない。
そのことから、いつしか、リリーは『幻の歌姫』と呼ばれるようになっていった。
だが、同時に不穏な噂が流れていたことを忘れてはならない。
意識不明に陥り、目覚めない謎の奇病が多発していた。
患者が発見された時に共通しているのは週末であり、ヨーチューブを開いたままだったということだ。
何の動画を見ていたのかまでは誰も調べようがなかった。
ところが妙な噂が流れ始める。
歌姫リリーの歌を聞けば、安らかな眠りにつけると……。
それがどういう意味なのか。
知りたければ、彼女の配信を見るしかない。
自らを万物の霊長たる霊長類と名付けるほどに繁栄していた人間。
地球を支配せし者として、彼らが君臨する時代に終わりを告げるべくシシャが現れたのだ。
それらはかつて人々が恐れ、奉る存在だった。
怪異。
あやかし。
もののけ。
始まりは実に静かなものだった。
都市伝説やUMAが実在するモノとして、実体化した。
それは序曲に過ぎず、やがて神話や伝説に描かれし、大いなる存在が姿を見せる。
そして、人の子らは真の恐怖を知ることになった。
かつて人はバベルの塔を築き、神の怒りによって分断された。
悲劇は再び訪れる。
人は再び分かたれることとなった。
やがてあやかしと呼ばれる不条理な存在は日常の一コマとなった。
人々は心の平穏と癒しを求める。
それが動画共有サイト『YoTube』だった。
世界中の人々が熱狂し、盛り上がりを見せる地球人共通のプラットフォームと言っても過言ではない。
巨大SNSでもあり、流行の最先端と最新の情報の発信源でもあった。
今、ヨーチューブでとある動画投稿者が、人々の話題にのぼっている。
その注目度は時を経るにつれ、収まる気配を見せず、いつしか雑誌やテレビでも取り上げられるほどになっていた。
しかし、彼女のことを動画投稿者というのには少々の語弊があるかもしれない。
なぜなら、動画を一つも投稿していないからだ。
彼女のチャンネルではライブ配信しか行われない。
アーカイブに一切の記録を残さないのだ。
その為、リアルタイムで見逃してしまえば、それきりである。
希少性もあいまってか、視聴者は増えた。
SNSでの口コミもあり、噂が噂を呼ぶ。
実際に配信で彼女の歌を聞いた者は、まるで彼女の虜となったと言われるほどにチャンネルを登録する。
彼女は恋する乙女心を花に例え、咲き誇り、そして、散っていく様を切々と歌う。
刹那的。
破滅的。
高音でありながら、独特の掠れたような特徴のあるボイスがファンを魅了していた。
登録者はうなぎのぼりに増えていき、あっという間に百万人を超えたのはつい先日のことである。
彼女の歌を聞いた者は口々に言う。
新しい世界が待っている、と……。
彗星のようにヨーチューブに現れたその配信者の名はリリーと言う。
週末の真夜中にしか、配信をせず、オリジナルの歌を歌う。
彼女の顔を見た者はいない。
常に後ろを向いているからだ。
きれいに編み込まれ、ツインテールに結われた髪は色素の薄い金色を帯びている。
染めたのとは違う不思議な色合いの髪だが、本人が海の音が聞こえる場所に住んでおり、日本にいると発言していたことから、日本在住の欧州系の外国人ではないかと噂されていた。
シルクシフォンのツーピースのドレスは純白で肌も抜けるように白いことから、まるで妖精のようだと盛り上がる者がいる一方、顔を見せないのだから、大したことないに違いないと反論する者もいた。
しかし、一度彼女が歌い始めるとそのようなことで言い争いをしていた者らも口を閉じる。
誰もが聞き惚れる天性の歌姫と言うべき、歌声だったからだ。
アーカイブに残らない以上、リアルタイムでしか、彼女の姿と歌は拝めない。
そのことから、いつしか、リリーは『幻の歌姫』と呼ばれるようになっていった。
だが、同時に不穏な噂が流れていたことを忘れてはならない。
意識不明に陥り、目覚めない謎の奇病が多発していた。
患者が発見された時に共通しているのは週末であり、ヨーチューブを開いたままだったということだ。
何の動画を見ていたのかまでは誰も調べようがなかった。
ところが妙な噂が流れ始める。
歌姫リリーの歌を聞けば、安らかな眠りにつけると……。
それがどういう意味なのか。
知りたければ、彼女の配信を見るしかない。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる