45 / 46
第43話 さらば愛しき日々よ
しおりを挟む
カトルは白波に消えた。
懸命な捜索にも関わらず、遺留品は一つも見つかっていた。
まるで彼女が存在していたという痕跡すら、全て消してしまったかのように……。
お兄ちゃんを襲撃した聖騎士は、サンセールという名の青年だった。
エマ率いる聖騎士第四隊の中でも古株の騎士団員で名前の通り、人柄を慕われるムードメーカーとして信を置かれていた人物らしい。
ところがその名すら、偽りだった。
生粋のサン・フラン人という経歴も偽り。
そもそもがサン・フランに所縁のある人間ですら、なかったのだ。
本当の名はフェアラート。
同胞であるはずの自由都市同盟の一角を占めるリュービッケから、送り込まれた工作員だった。
目的はサン・フランが有する三本の剣の奪取。
奪取が無理と判断された場合、破壊もしくは使えないように何らかの手段を取る。
手段は問わず、どうすべきかは現地の工作員に一任される。
それでデュランダルの所持者であるお兄ちゃんを排除するという直接的な行動に出た。
もう少しのところで成功だったのにカトルというイレギュラーの介入によって、失敗したのだ。
フェアラートは取り押さえられた時点で自決用の毒を仰いでいた。
ではなぜ、これらの詳しいことが分かったのか?
ギャスパル王太子が全ては把握していたのだ。
王太子は他国の工作員に潜入されている現状を知りながら、わざと泳がせていた。
その結果があのざまだった。
「私のせいだ。すまない」と頭を下げられたところで失われたものは二度と戻らない。
王太子が苦渋の決断を下したということも分かる。
それだけの闇が蔓延っているのが、この世界というものだとも分かる。
それでもあたし達は生きていかなくてはならない。
あたしとお兄ちゃんを結び付けていたカトルはもういない。
もう逃げる訳にもいかない。
あたしは覚悟を決めた。
寄せては返す波の音だけが聞こえる。
水平線の彼方に沈みゆく太陽に照らされたビーチはどこか、郷愁を誘う。
いつの日だったか、お兄ちゃんとカトルと一緒に見た夕焼け空を思い出した。
頬を涙が一筋、伝っていった。
「なあ。お嬢ちゃん。本当によかったのかい?」
「いいのよ。これで」
お父様の姿をしたオートクレールと二人、夕焼けに照らされた海を眺めているのは不思議な気分だ。
勿論、現実の世界ではなく、オートクレールが創った仮初の意識の中の世界ではあっても……。
「何もお嬢ちゃんが全部、背負うことはなかったんじゃねえか」
「あたしの罪だから」
そう。
あの時、本当はカトルを救えた。
体が動かなかったのはあたしの中に邪な気持ちがあったからだ。
もしも、カトルがいなければ。
そう思ってしまったから、彼女を助けられなかったんだっ。
全て、あたしが悪い……。
「まあ。お嬢ちゃんがそう決めたんだ。俺様がとやかく、言うことではないか」
「ありがとう。オートクレール」
「ああ」
オートクレールもそれを分かってくれている。
自己愛が強くて、変な剣だけどこんなにも分かってくれるのはオートクレールだけだろう。
「これでお別れだね」
「ああ」
「今までありがとう……さようなら……お父様」
「ああ。達者でな。ロザリー」
何となく、分かってはいた。
オートクレールの中にお父様の意識が微かにあると……。
だから、お別れする時にこれまでの感謝の気持ちを表そうと思っていた。
オートクレールと初めて、ハグをした。
今まで守ってくれて、ありがとう。
そして、さようなら。
懸命な捜索にも関わらず、遺留品は一つも見つかっていた。
まるで彼女が存在していたという痕跡すら、全て消してしまったかのように……。
お兄ちゃんを襲撃した聖騎士は、サンセールという名の青年だった。
エマ率いる聖騎士第四隊の中でも古株の騎士団員で名前の通り、人柄を慕われるムードメーカーとして信を置かれていた人物らしい。
ところがその名すら、偽りだった。
生粋のサン・フラン人という経歴も偽り。
そもそもがサン・フランに所縁のある人間ですら、なかったのだ。
本当の名はフェアラート。
同胞であるはずの自由都市同盟の一角を占めるリュービッケから、送り込まれた工作員だった。
目的はサン・フランが有する三本の剣の奪取。
奪取が無理と判断された場合、破壊もしくは使えないように何らかの手段を取る。
手段は問わず、どうすべきかは現地の工作員に一任される。
それでデュランダルの所持者であるお兄ちゃんを排除するという直接的な行動に出た。
もう少しのところで成功だったのにカトルというイレギュラーの介入によって、失敗したのだ。
フェアラートは取り押さえられた時点で自決用の毒を仰いでいた。
ではなぜ、これらの詳しいことが分かったのか?
ギャスパル王太子が全ては把握していたのだ。
王太子は他国の工作員に潜入されている現状を知りながら、わざと泳がせていた。
その結果があのざまだった。
「私のせいだ。すまない」と頭を下げられたところで失われたものは二度と戻らない。
王太子が苦渋の決断を下したということも分かる。
それだけの闇が蔓延っているのが、この世界というものだとも分かる。
それでもあたし達は生きていかなくてはならない。
あたしとお兄ちゃんを結び付けていたカトルはもういない。
もう逃げる訳にもいかない。
あたしは覚悟を決めた。
寄せては返す波の音だけが聞こえる。
水平線の彼方に沈みゆく太陽に照らされたビーチはどこか、郷愁を誘う。
いつの日だったか、お兄ちゃんとカトルと一緒に見た夕焼け空を思い出した。
頬を涙が一筋、伝っていった。
「なあ。お嬢ちゃん。本当によかったのかい?」
「いいのよ。これで」
お父様の姿をしたオートクレールと二人、夕焼けに照らされた海を眺めているのは不思議な気分だ。
勿論、現実の世界ではなく、オートクレールが創った仮初の意識の中の世界ではあっても……。
「何もお嬢ちゃんが全部、背負うことはなかったんじゃねえか」
「あたしの罪だから」
そう。
あの時、本当はカトルを救えた。
体が動かなかったのはあたしの中に邪な気持ちがあったからだ。
もしも、カトルがいなければ。
そう思ってしまったから、彼女を助けられなかったんだっ。
全て、あたしが悪い……。
「まあ。お嬢ちゃんがそう決めたんだ。俺様がとやかく、言うことではないか」
「ありがとう。オートクレール」
「ああ」
オートクレールもそれを分かってくれている。
自己愛が強くて、変な剣だけどこんなにも分かってくれるのはオートクレールだけだろう。
「これでお別れだね」
「ああ」
「今までありがとう……さようなら……お父様」
「ああ。達者でな。ロザリー」
何となく、分かってはいた。
オートクレールの中にお父様の意識が微かにあると……。
だから、お別れする時にこれまでの感謝の気持ちを表そうと思っていた。
オートクレールと初めて、ハグをした。
今まで守ってくれて、ありがとう。
そして、さようなら。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
待ち遠しかった卒業パーティー
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。
しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。
それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる