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第41話 消えたカトル
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カトルはお兄ちゃんとあたしを兄姉のように慕ってくれた。
ちょっと生意気でかなりの食いしん坊でとても手のかかる妹。
このまま、何も起きず、平穏な日々が送れると思っていたのに……。
書置きを残して、カトルがいなくなった。
『ありがとう さようなら』とだけ、書かれた文字が滲んでいる。
泣きながら、袖で涙を拭って書いたんだろう。
カトルはこの三年で文字をようやく覚えたのだ。
蛇がのたくったような下手な文字だけど、悩みに悩んだ末にようやく書き上げたものだと分かった。
「どうすりゃいいんだ」
頭を抱えて、猫背の姿勢で椅子に腰掛けたまま、そんなことを呟くお兄ちゃん。
見ていると普段の無駄に動く行動力を何でこういう時に発揮出来ないのかと頭が痛くなってくる。
その頭をすぱこーんと鈍器で殴りつけてやりたいところではある。
時間の無駄だし、そんなことをしても解決しないのでやめておく。
今までお兄ちゃんの頭は散々、すぱこーんしているのでかなり、脳細胞がやられたせいでああなっているのかもしれない……。
これ以上、アレになられて、「聞こえるだろ。世界の声が! 世界は叫んでいるんだ」とか、言い始めたらさすがに困る。
「お兄ちゃん。悩んでいる暇があったら、カトルを探しに行くよ」
「ロザリー……そうだな。そうするか」
何もしていないのに「真っ白に燃え尽きたぜ」みたいなやつれた顔をしている。
たかだか、昼食を抜いたくらいで本当に何もしてないんだが……。
お兄ちゃんはもしかしたら、悲劇の主人公として自分に酔いしれるタイプだったんだろうか?
むしろ、あたしの方が悲劇のヒロインそのものじゃないの?
花の盛りで呪われるだけ、呪われて死んじゃって。
そこから、時間を逆行して全く、違う人生を歩んでいるのだ。
これが悲劇……いや?
喜劇なんだろうか?
「しかし、どうやって探すんだ」
「自分の足で探すに決まってるでしょ。足よ、足」
「う、馬は?」
「ペルダンはもうおじいちゃんだから、そっとしておいて」
「はい……」
三年前まではお兄ちゃんを乗せて、野山を自由自在に駆け回っていた老馬ペルダンはすっかり、老いてしまった。
元気でご飯もよく食べているから、健康に問題はない。
だけど、ゆっくりと余生を過ごさせてあげたいと思うのだ。
お兄ちゃんはどうせ考えなしに走らせるだけだし……。
「エマに見つかる前に絶対に先に探すのよ」
「分かってるさ。そんなヘマするものか」
お兄ちゃんは決して、口だけではないのにどうも口が達者でよろしくない。
デュランダルもあるんだし、実力だってジェシーはともかくとして、あたしよりも上なのは間違いないのだ。
それなのにああなのはもうボンクラだから、と諦めるしかないのだろうか。
お兄ちゃんを頼りにしてはいけない。
あれはちょっと物覚えが悪くて、言うことを聞かないことがたまにではないほどにあるけど、お馬鹿なところが憎めないよね! みたいな大きな犬と同じようなものだ。
そう考えたら、愛せないこともないこともないこともないこともない。
つまり、よく分からない……。
人としては好きかもしれないけど、愛せるかどうかはどこか、遠い所へ置いてきてしまった。
今、優先すべきはカトルを見つけることだ。
聖騎士のエマ達に見つかったら、面倒なことになるのは間違いないのだから。
ちょっと生意気でかなりの食いしん坊でとても手のかかる妹。
このまま、何も起きず、平穏な日々が送れると思っていたのに……。
書置きを残して、カトルがいなくなった。
『ありがとう さようなら』とだけ、書かれた文字が滲んでいる。
泣きながら、袖で涙を拭って書いたんだろう。
カトルはこの三年で文字をようやく覚えたのだ。
蛇がのたくったような下手な文字だけど、悩みに悩んだ末にようやく書き上げたものだと分かった。
「どうすりゃいいんだ」
頭を抱えて、猫背の姿勢で椅子に腰掛けたまま、そんなことを呟くお兄ちゃん。
見ていると普段の無駄に動く行動力を何でこういう時に発揮出来ないのかと頭が痛くなってくる。
その頭をすぱこーんと鈍器で殴りつけてやりたいところではある。
時間の無駄だし、そんなことをしても解決しないのでやめておく。
今までお兄ちゃんの頭は散々、すぱこーんしているのでかなり、脳細胞がやられたせいでああなっているのかもしれない……。
これ以上、アレになられて、「聞こえるだろ。世界の声が! 世界は叫んでいるんだ」とか、言い始めたらさすがに困る。
「お兄ちゃん。悩んでいる暇があったら、カトルを探しに行くよ」
「ロザリー……そうだな。そうするか」
何もしていないのに「真っ白に燃え尽きたぜ」みたいなやつれた顔をしている。
たかだか、昼食を抜いたくらいで本当に何もしてないんだが……。
お兄ちゃんはもしかしたら、悲劇の主人公として自分に酔いしれるタイプだったんだろうか?
むしろ、あたしの方が悲劇のヒロインそのものじゃないの?
花の盛りで呪われるだけ、呪われて死んじゃって。
そこから、時間を逆行して全く、違う人生を歩んでいるのだ。
これが悲劇……いや?
喜劇なんだろうか?
「しかし、どうやって探すんだ」
「自分の足で探すに決まってるでしょ。足よ、足」
「う、馬は?」
「ペルダンはもうおじいちゃんだから、そっとしておいて」
「はい……」
三年前まではお兄ちゃんを乗せて、野山を自由自在に駆け回っていた老馬ペルダンはすっかり、老いてしまった。
元気でご飯もよく食べているから、健康に問題はない。
だけど、ゆっくりと余生を過ごさせてあげたいと思うのだ。
お兄ちゃんはどうせ考えなしに走らせるだけだし……。
「エマに見つかる前に絶対に先に探すのよ」
「分かってるさ。そんなヘマするものか」
お兄ちゃんは決して、口だけではないのにどうも口が達者でよろしくない。
デュランダルもあるんだし、実力だってジェシーはともかくとして、あたしよりも上なのは間違いないのだ。
それなのにああなのはもうボンクラだから、と諦めるしかないのだろうか。
お兄ちゃんを頼りにしてはいけない。
あれはちょっと物覚えが悪くて、言うことを聞かないことがたまにではないほどにあるけど、お馬鹿なところが憎めないよね! みたいな大きな犬と同じようなものだ。
そう考えたら、愛せないこともないこともないこともないこともない。
つまり、よく分からない……。
人としては好きかもしれないけど、愛せるかどうかはどこか、遠い所へ置いてきてしまった。
今、優先すべきはカトルを見つけることだ。
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