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第40話 あれから、三年

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 王命による婚約と因縁の地ルアンの拝領。
 そして、四番目と名乗るカトルという子との衝撃的な出会いから、三年の月日が流れた。

 本人の申告通りだとするとカトルは十二歳になった。
 男の子のように短く刈られていたアイスシルバーのショートヘアは今ではミディアムボブの長さできれいに整えられている。
 まるで枯れた枝のように痩せ衰えていた手足も幾分、肉が付いた。
 どことなく、不健康な印象を受けるややこけた頬もふっくらとして、当時の面影を探す方が難しいくらいだ。

「ロザリー。どうした?」
「カトルさん! お嬢様にそういう言葉を遣っては駄目だと言ったでしょ」
ベラベランジェール……うるさい」
「年上の人にそういう言葉遣いもいけませんっ」

 ベラはうるさいくらいにまくし立てている。
 面倒見のいいお姉さんというより、年の若い母親のように見えなくもない。
 ベラがいて、よかったと思う。

 もしも、彼女がいなかったらと考えるだけでも恐ろしい。
 お兄ちゃんカミーユジェシージュスタンしか、いなかったらどうなっていたことか。
 ぞっとしない未来しか、思い描けないのは気のせいではない。
 何かといっては仕事をしないで夢を追うのが男だ! などと言い張る二人を相手に疲れ果てている自分が容易に想像出来た。



 ジェシーはあれ以来、賭け事に手を出さなくなった。
 あたしとベラが目を光らせているのもあるし、お小遣いを減らしてやったのが大きいとは思う。
 だけど、それだけではなく、彼自身がようやく己の身を省みる努力をしているからだ。

 ジェシーは二十八歳。
 ベラも二十六歳。
 貴族であろうと庶民であろうと既に所帯を持っていて、おかしくない年齢になっている。
 貴族だったら、十代。
 それも前半で嫁ぐこともある。
 二十代後半では行き遅れと揶揄されても仕方ないのだ。

 ジェシーがようやく覚悟を決めた。
 むしろ、ここまで文句も言わずに見守り続けてくれたベラに頭が上がらないのではないだろうか。



 お兄ちゃんは良くも悪くもジェシーのように成長していない。
 二十歳になっても未だに夢見る少年のような心を忘れていない。
 なけなしのお金しか持っていなくても困っている人がいたら、助けずにはいられないところも変わっていない。
 後先考えずに飛び込んでいくところも全く、変わっていない。

 もう、それでいいんじゃないかなと思っているのだ。
 お兄ちゃんがそういう人だから、好きになったということを思い出した。
 あくまで前世の話……。
 今世で色々と見てしまったあたしが、そうなるのかは分からない。

 人間的に嫌いではない。
 ボンクラだけど、真っ直ぐで悪い人ではないのはよく分かっている。
 だから、どちらかと言えば、好きだ。
 だけど、異性として好きになれるのかと聞かれたら、迷うことなく『いな』と答えるつもり。

 そして、あたしも十八歳。
 あたしはロザリー・ド・バールとして、女侯爵になる。
 お兄ちゃんは第三王子という肩書がなくなるということだ。
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