42 / 46
第40話 あれから、三年
しおりを挟む
王命による婚約と因縁の地ルアンの拝領。
そして、四番目と名乗るカトルという子との衝撃的な出会いから、三年の月日が流れた。
本人の申告通りだとするとカトルは十二歳になった。
男の子のように短く刈られていたアイスシルバーのショートヘアは今ではミディアムボブの長さできれいに整えられている。
まるで枯れた枝のように痩せ衰えていた手足も幾分、肉が付いた。
どことなく、不健康な印象を受けるややこけた頬もふっくらとして、当時の面影を探す方が難しいくらいだ。
「ロザリー。どうした?」
「カトルさん! お嬢様にそういう言葉を遣っては駄目だと言ったでしょ」
「ベラ……うるさい」
「年上の人にそういう言葉遣いもいけませんっ」
ベラはうるさいくらいにまくし立てている。
面倒見のいいお姉さんというより、年の若い母親のように見えなくもない。
ベラがいて、よかったと思う。
もしも、彼女がいなかったらと考えるだけでも恐ろしい。
お兄ちゃんとジェシーしか、いなかったらどうなっていたことか。
ぞっとしない未来しか、思い描けないのは気のせいではない。
何かといっては仕事をしないで夢を追うのが男だ! などと言い張る二人を相手に疲れ果てている自分が容易に想像出来た。
ジェシーはあれ以来、賭け事に手を出さなくなった。
あたしとベラが目を光らせているのもあるし、お小遣いを減らしてやったのが大きいとは思う。
だけど、それだけではなく、彼自身がようやく己の身を省みる努力をしているからだ。
ジェシーは二十八歳。
ベラも二十六歳。
貴族であろうと庶民であろうと既に所帯を持っていて、おかしくない年齢になっている。
貴族だったら、十代。
それも前半で嫁ぐこともある。
二十代後半では行き遅れと揶揄されても仕方ないのだ。
ジェシーがようやく覚悟を決めた。
むしろ、ここまで文句も言わずに見守り続けてくれたベラに頭が上がらないのではないだろうか。
お兄ちゃんは良くも悪くもジェシーのように成長していない。
二十歳になっても未だに夢見る少年のような心を忘れていない。
なけなしのお金しか持っていなくても困っている人がいたら、助けずにはいられないところも変わっていない。
後先考えずに飛び込んでいくところも全く、変わっていない。
もう、それでいいんじゃないかなと思っているのだ。
お兄ちゃんがそういう人だから、好きになったということを思い出した。
あくまで前世の話……。
今世で色々と見てしまったあたしが、そうなるのかは分からない。
人間的に嫌いではない。
ボンクラだけど、真っ直ぐで悪い人ではないのはよく分かっている。
だから、どちらかと言えば、好きだ。
だけど、異性として好きになれるのかと聞かれたら、迷うことなく『否』と答えるつもり。
そして、あたしも十八歳。
あたしはロザリー・ド・バールとして、女侯爵になる。
お兄ちゃんは第三王子という肩書がなくなるということだ。
そして、四番目と名乗るカトルという子との衝撃的な出会いから、三年の月日が流れた。
本人の申告通りだとするとカトルは十二歳になった。
男の子のように短く刈られていたアイスシルバーのショートヘアは今ではミディアムボブの長さできれいに整えられている。
まるで枯れた枝のように痩せ衰えていた手足も幾分、肉が付いた。
どことなく、不健康な印象を受けるややこけた頬もふっくらとして、当時の面影を探す方が難しいくらいだ。
「ロザリー。どうした?」
「カトルさん! お嬢様にそういう言葉を遣っては駄目だと言ったでしょ」
「ベラ……うるさい」
「年上の人にそういう言葉遣いもいけませんっ」
ベラはうるさいくらいにまくし立てている。
面倒見のいいお姉さんというより、年の若い母親のように見えなくもない。
ベラがいて、よかったと思う。
もしも、彼女がいなかったらと考えるだけでも恐ろしい。
お兄ちゃんとジェシーしか、いなかったらどうなっていたことか。
ぞっとしない未来しか、思い描けないのは気のせいではない。
何かといっては仕事をしないで夢を追うのが男だ! などと言い張る二人を相手に疲れ果てている自分が容易に想像出来た。
ジェシーはあれ以来、賭け事に手を出さなくなった。
あたしとベラが目を光らせているのもあるし、お小遣いを減らしてやったのが大きいとは思う。
だけど、それだけではなく、彼自身がようやく己の身を省みる努力をしているからだ。
ジェシーは二十八歳。
ベラも二十六歳。
貴族であろうと庶民であろうと既に所帯を持っていて、おかしくない年齢になっている。
貴族だったら、十代。
それも前半で嫁ぐこともある。
二十代後半では行き遅れと揶揄されても仕方ないのだ。
ジェシーがようやく覚悟を決めた。
むしろ、ここまで文句も言わずに見守り続けてくれたベラに頭が上がらないのではないだろうか。
お兄ちゃんは良くも悪くもジェシーのように成長していない。
二十歳になっても未だに夢見る少年のような心を忘れていない。
なけなしのお金しか持っていなくても困っている人がいたら、助けずにはいられないところも変わっていない。
後先考えずに飛び込んでいくところも全く、変わっていない。
もう、それでいいんじゃないかなと思っているのだ。
お兄ちゃんがそういう人だから、好きになったということを思い出した。
あくまで前世の話……。
今世で色々と見てしまったあたしが、そうなるのかは分からない。
人間的に嫌いではない。
ボンクラだけど、真っ直ぐで悪い人ではないのはよく分かっている。
だから、どちらかと言えば、好きだ。
だけど、異性として好きになれるのかと聞かれたら、迷うことなく『否』と答えるつもり。
そして、あたしも十八歳。
あたしはロザリー・ド・バールとして、女侯爵になる。
お兄ちゃんは第三王子という肩書がなくなるということだ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる