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第37話 四番目に隠された意味
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「ねぇ、馬鹿なの? 馬鹿なんだよね?」
後ろでバキッという音がした。
ベラが手にしていた箒をへし折った音だ。
あのおとなしいベラが怒っている。
彼女が腹を立てることは滅多にないし、物を大事にする子だから、あとで箒が駄目になったと知ったら、落ち込むんじゃないだろうか。
「可哀想だと思ったんだ。だから、連れてきた」
「俺は増やそうとしたんですよ? だが、減っていたんだ! 何を言っているか分からないが俺も分からない」
雁首を並べて、何とも阿呆なことをのたまっている二人の男。
お兄ちゃんとジェシーだった。
無駄に二人とも整った顔立ちをしているので始末が悪い。
お兄ちゃんはペルダンを勝手に連れ出した挙句、変な女の子を拾ってきた。
あたしの髪の色に似たワンピースを着ていて、ボーイッシュな印象を受ける小さな女の子だ。
身なりからすると庶民にしか見えないのにこんな邸宅に連れてこられても動じた様子が見られない。
そして、何とも変な感覚を覚えているのが気になる。
ジェシーはお兄ちゃんに負けず劣らず、阿呆なことをしでかしてくれた。
お兄ちゃんは可哀想な女の子に奢ったので人助けと言えなくもないけど、この男のはもっと酷い。
お小遣いをきれいに使い切ったのだ。
それも賭け事できれいさっぱりと使いきってくれた。
彼の言い訳によれば、最初は勝っていたので増えていたらしい。
ところが終わってみたら、財布の中身が無かった。
それ、見事に騙されただけではないだろうか。
借金をしてまで賭け事をしなかっただけ、ましではあるけど。
「全くもう! 掃除はしないし、ろくなことしないんだから」
「「申し訳ありませんでした」」
反省しているようだし、どうやって調教するかはベラと相談して決めた方がよさそうだ。
「あれ???」
「よう。お嬢ちゃん。ここは久しぶりだったなあ」
さっきまでルアンの領主屋敷にいたはずなのにおかしい。
今、あたしの目の前に広がっているのは凪いで星空を映す闇色の大海原。
そして、砂浜。
何度か来たことがあるオートクレールの創った空間だった。
「ここにあたしを呼び出したということは何か、あるのね?」
「察しがいいねえ。そういうこと」
オートクレールも相変わらず、無駄に外面だけはよく出来ている。
父親にそっくりで色違いなだけだから、惹かれることはないが……。
「お嬢ちゃん。あの女の子から、何か、感じてやしないかい? それにあの名前だ」
「変な感じがするわ。ザラザラしたような妙な感覚。今までに感じたことがない。この感覚は何だろう」
「そりゃあ、あれだよ。あれ。あの子の名は四番目だろう?」
「はぁ? どういうこと?」
オートクレールの勿体付けた言い回しもいつものことだった。
もう長い付き合いになっているから、慣れてきた。
「一番目と二番目、三番目もいたってことだろうよ」
「んんん? だから、どういうことなの?」
そして、夜空を見上げて、ふっと溜息を吐くオートクレール。
そういう余計な演出はしないでいいと口にしたら、もっと面倒になるのでぐっと我慢する。
前に下手に口を出して、壁ドンや顎クイなるものを実演されて、全身に鳥肌が立ったのを忘れてはいない。
「一番目はかつて竜の聖女によって、倒された」
「え?」
「二番目はアロンダイトを持つ者に倒された」
「まさか……」
「三番目は俺様を使ったジャン=ジャックに倒された」
「じゃあ、あの子はもしかして」
「本人はまだ分かっていないようだが、あれは間違いねえだろうよ。アレだ」
もはや昔話や伝説になっている古に現れた悪しき竜の物語。
それはサン・フランを生きる者にとっては決して他人事では済ませられない話だった。
後ろでバキッという音がした。
ベラが手にしていた箒をへし折った音だ。
あのおとなしいベラが怒っている。
彼女が腹を立てることは滅多にないし、物を大事にする子だから、あとで箒が駄目になったと知ったら、落ち込むんじゃないだろうか。
「可哀想だと思ったんだ。だから、連れてきた」
「俺は増やそうとしたんですよ? だが、減っていたんだ! 何を言っているか分からないが俺も分からない」
雁首を並べて、何とも阿呆なことをのたまっている二人の男。
お兄ちゃんとジェシーだった。
無駄に二人とも整った顔立ちをしているので始末が悪い。
お兄ちゃんはペルダンを勝手に連れ出した挙句、変な女の子を拾ってきた。
あたしの髪の色に似たワンピースを着ていて、ボーイッシュな印象を受ける小さな女の子だ。
身なりからすると庶民にしか見えないのにこんな邸宅に連れてこられても動じた様子が見られない。
そして、何とも変な感覚を覚えているのが気になる。
ジェシーはお兄ちゃんに負けず劣らず、阿呆なことをしでかしてくれた。
お兄ちゃんは可哀想な女の子に奢ったので人助けと言えなくもないけど、この男のはもっと酷い。
お小遣いをきれいに使い切ったのだ。
それも賭け事できれいさっぱりと使いきってくれた。
彼の言い訳によれば、最初は勝っていたので増えていたらしい。
ところが終わってみたら、財布の中身が無かった。
それ、見事に騙されただけではないだろうか。
借金をしてまで賭け事をしなかっただけ、ましではあるけど。
「全くもう! 掃除はしないし、ろくなことしないんだから」
「「申し訳ありませんでした」」
反省しているようだし、どうやって調教するかはベラと相談して決めた方がよさそうだ。
「あれ???」
「よう。お嬢ちゃん。ここは久しぶりだったなあ」
さっきまでルアンの領主屋敷にいたはずなのにおかしい。
今、あたしの目の前に広がっているのは凪いで星空を映す闇色の大海原。
そして、砂浜。
何度か来たことがあるオートクレールの創った空間だった。
「ここにあたしを呼び出したということは何か、あるのね?」
「察しがいいねえ。そういうこと」
オートクレールも相変わらず、無駄に外面だけはよく出来ている。
父親にそっくりで色違いなだけだから、惹かれることはないが……。
「お嬢ちゃん。あの女の子から、何か、感じてやしないかい? それにあの名前だ」
「変な感じがするわ。ザラザラしたような妙な感覚。今までに感じたことがない。この感覚は何だろう」
「そりゃあ、あれだよ。あれ。あの子の名は四番目だろう?」
「はぁ? どういうこと?」
オートクレールの勿体付けた言い回しもいつものことだった。
もう長い付き合いになっているから、慣れてきた。
「一番目と二番目、三番目もいたってことだろうよ」
「んんん? だから、どういうことなの?」
そして、夜空を見上げて、ふっと溜息を吐くオートクレール。
そういう余計な演出はしないでいいと口にしたら、もっと面倒になるのでぐっと我慢する。
前に下手に口を出して、壁ドンや顎クイなるものを実演されて、全身に鳥肌が立ったのを忘れてはいない。
「一番目はかつて竜の聖女によって、倒された」
「え?」
「二番目はアロンダイトを持つ者に倒された」
「まさか……」
「三番目は俺様を使ったジャン=ジャックに倒された」
「じゃあ、あの子はもしかして」
「本人はまだ分かっていないようだが、あれは間違いねえだろうよ。アレだ」
もはや昔話や伝説になっている古に現れた悪しき竜の物語。
それはサン・フランを生きる者にとっては決して他人事では済ませられない話だった。
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