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第31話 烏令嬢、因縁の地へ

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 悩んだけども、ルテティアのバール邸はアロイス殿下に貸すことにした。
 住居は人が住まなくなると途端に傷むと聞いたからだ。

 管理も兼ねて誰かに委ねるのが一番だとは思っていた。
 どうせ任せるのなら、気心が知れたとまではいかなくても知り合いの方がまし。

 アロイス殿下のいいところは友人がいないところだ。
 魔法の探求をしていれば、それで満足な人である。
 家を荒らされる心配はそれほど高くないだろうと踏んでのことなのだけど。
 フラヴィさんがいれば、最悪の事態は免れると信じている。

 信じる者は救われる。
 ……とは思わない。
 そんなので救われているのなら、あたしが前世であんな死に方をしてないと思うのだ。
 これは希望。
 そうであって欲しいと願うだけのもの。



 荷造りというほどに特に用意する物はなく、ちょっとした旅をする程度の荷物しかなかった。
 ジェシージュスタンベラベランジェールもあたしと同じくらいの軽い手荷物で済んでいる。

お兄ちゃんカミーユはまた、それを持っていくのね?」
「ああ。これが無いと寝られないんだ」

 お兄ちゃんも荷物自体はあたし達と同じで少ない。
 後生大事に持っている枕を除けば!

 愛用の枕が無いと寝られないとギルドの依頼で旅をしていても持ち歩くお兄ちゃんの繊細さは、どうにかならないものだろうか。
 令嬢として生きた前世のあたしよりもナイーブでメンタルが弱い気がしてならない。

 そのナイーブなところを少しばかり、お財布の方に向けてくれないものかと思うのだけど。
 枕に頬ずりをして、まだ夢の世界に半分、足を踏み入れたままじゃないの?

「はいはい。枕が一つ増えたくらいでは問題ないから、さっさと乗ってくださいね」

 まだ、夢現ゆめうつつでふらふらしているお兄ちゃんのお尻を蹴飛ばして、馬車に放り込み、出発することにした。



 ルアンの町への定期馬車は就航していないし、乗合馬車もない。
 だから、馬車は自前で用意した。
 豪華である必要はないのでそれなりに見栄えがして、雨露が凌げれば十分なのだ。
 一頭立てで考えたら、ほぼ荷馬車のような物を勧められたが、問題はないと判断した。
 トラディシオンとして、行動している時、荷馬車での移動なんてざらにあった。
 これくらいで音を上げているようでは冒険者稼業など出来やしない。
 お兄ちゃんも枕があれば、どこでも寝られるのだから案外、肝が据わっているのだ。

 ルアンまでの旅程は多く見積もっても二日程度。
 無理をすれば、一日でも行ける距離だが馬に無理をさせたくない。
 それに夕方、目的地に到着するというのはあまり、よろしくないと判断した。

 何より、ルアンの町は十五年前に起きたガルグイユの襲撃で甚大な被害を受けて、離れる人が多かったと聞いている。
 町と言っても住んでいる人がいるのかが分からない。
 過疎で寂れたゴーストタウンのような状況なら、まだいいと思う。

 一番、最悪な想定をするとならず者が、根城にしていることだろうか。
 負ける気はしない。
 オートクレールとデュランダルがあって、ジェシーも実力はそこそこに高いのだ。
 ベラも調理器具や掃除用具を使って、身を護る技術に長けている。
 ちょっと山賊をかじった程度のならず者に後れを取ることはないだろう。

 だからといって、わざわざ危険にさらされる行動を取る必要はないので旅程を二日にしたのだ。
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