13 / 46
第11話 烏令嬢と泣き虫殿下①
しおりを挟む
あたしも十二歳になった。
オークであんなにもひいひいと言っていたジェシーが、オークを相手にしても余裕になるほどに成長した。
あたしの特訓のお陰に違いない。
十二歳になったので本来なら、貴族の子女としてアカデミーに通わなければならないあたしである。
だが、そんなことはしない。
いや、出来ない。
お金がない!
アカデミーに通う余裕など、あろうはずがあろうか? いや、ない。
ジェシーは鉄ランクを卒業した。
もうすぐ銀のランクに手が届くかもしれない領域まで辿り着いているが、それでようやくトントンなのだ。
何といってもこのバール屋敷が金食い虫のせいでどうにもいけない。
屋敷を手放して、爵位も返上しようとしたら、そんなことをするのなら殺してくださいと脅されたので出来ない。
ベラとジェシーには世話になっているだけに無碍にする訳にいかないし、むしろ、今までの忠節に報いたいと思っているくらいだ。
だから、アカデミーには行かないが十二歳なので出来ることがある。
それが正式な冒険者登録だった。
ようやく、あたし、ロザリー・ド・バールが冒険者としてデビュー出来るのだ。
ここまで長かった……。
この一年の間に考えもしていなかった出来事が、起きてしまったのだ。
会いたくないのに会ってしまった。
出来るなら、距離を置いて無関係のままに過ごしたかったんだけど。
オートクレールがはぐらかすように「そのうち会える」という意味を嫌というほどに知ることになった。
そう。
アレはまだ、太陽が燦々と輝いていて、薄着でなければ過ごしにくい夏の日の出来事だった。
「オーク! お前は私の……」「つべこべ言わずにやるっ」と何か、うるさいジェシーのお尻を蹴り飛ばして、オークの巣窟を掃討した帰り道だった。
オークはゴブリンよりはましではあるもののあまり、金目の物を持ってい……コホン。
冒険者とはえてして、現実的で合理的に生きなくてはいけないのであって、あたしが金の亡者な訳ではない。
皆、やっていることだから!
死者に金目の物は不要なのよ?
話が脱線したわ。
その日のオークは持っていなかったのであたしの機嫌はすこぶる悪かった。
オーク程度ではオートクレールを使うのが勿体ないくらいにあたしの力は上がっている。
どうやら、前世の分が上乗せされているのではないかと睨んだ。
(おっと、お嬢ちゃん。もう一度、死んで巻き戻ったら、もっと強くなれるとでも思ったかい? 何度も巻き戻しは出来んよ)
オートクレールに見透かされていて、機嫌がさらに悪くなったのは言うまでもない。
そんな帰り道のさ中、「ぎょえええ」とか、「うびゃあああ」といった表現するのが難しい泣き叫ぶような声が森に響いたのだ。
どこかで聞き覚えのある声のような気がしたので行くべきではなかったのかもしれない。
もしも、あたしが考えている人で間違いがなければ、見捨てた方がいい。
明るい未来を考えるとそういう結論に達するのだが、それでも見捨てることが出来なかった。
前世であれほど抱いていた彼への恋だの愛だのといった感情は今となっては微塵も残っていないのに……。
「お嬢様。アレはもしや?」
「遺憾ではあるけど、アレだわ」
あんなにも恋焦がれていた人の声だから、間違えてなかった。
予想した通りの人物がたくさんのゴブリンに囲まれて、意味不明の叫び声を上げながら、剣を振るっていた。
顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていて、あたしの大好きだったお兄ちゃんが色々と台無しである。
あの顔を見たら、百年の恋が冷める人もいそうだ。
でも、前世のあたしは「あたしだけに見せてくれるのね~」とさらに暴走出来た自信がある。
ないない。
もう、そんなことはしない。
だけど、仕方ないかな?
ここは人助けと思って、助けてあげましょうか。
オークであんなにもひいひいと言っていたジェシーが、オークを相手にしても余裕になるほどに成長した。
あたしの特訓のお陰に違いない。
十二歳になったので本来なら、貴族の子女としてアカデミーに通わなければならないあたしである。
だが、そんなことはしない。
いや、出来ない。
お金がない!
アカデミーに通う余裕など、あろうはずがあろうか? いや、ない。
ジェシーは鉄ランクを卒業した。
もうすぐ銀のランクに手が届くかもしれない領域まで辿り着いているが、それでようやくトントンなのだ。
何といってもこのバール屋敷が金食い虫のせいでどうにもいけない。
屋敷を手放して、爵位も返上しようとしたら、そんなことをするのなら殺してくださいと脅されたので出来ない。
ベラとジェシーには世話になっているだけに無碍にする訳にいかないし、むしろ、今までの忠節に報いたいと思っているくらいだ。
だから、アカデミーには行かないが十二歳なので出来ることがある。
それが正式な冒険者登録だった。
ようやく、あたし、ロザリー・ド・バールが冒険者としてデビュー出来るのだ。
ここまで長かった……。
この一年の間に考えもしていなかった出来事が、起きてしまったのだ。
会いたくないのに会ってしまった。
出来るなら、距離を置いて無関係のままに過ごしたかったんだけど。
オートクレールがはぐらかすように「そのうち会える」という意味を嫌というほどに知ることになった。
そう。
アレはまだ、太陽が燦々と輝いていて、薄着でなければ過ごしにくい夏の日の出来事だった。
「オーク! お前は私の……」「つべこべ言わずにやるっ」と何か、うるさいジェシーのお尻を蹴り飛ばして、オークの巣窟を掃討した帰り道だった。
オークはゴブリンよりはましではあるもののあまり、金目の物を持ってい……コホン。
冒険者とはえてして、現実的で合理的に生きなくてはいけないのであって、あたしが金の亡者な訳ではない。
皆、やっていることだから!
死者に金目の物は不要なのよ?
話が脱線したわ。
その日のオークは持っていなかったのであたしの機嫌はすこぶる悪かった。
オーク程度ではオートクレールを使うのが勿体ないくらいにあたしの力は上がっている。
どうやら、前世の分が上乗せされているのではないかと睨んだ。
(おっと、お嬢ちゃん。もう一度、死んで巻き戻ったら、もっと強くなれるとでも思ったかい? 何度も巻き戻しは出来んよ)
オートクレールに見透かされていて、機嫌がさらに悪くなったのは言うまでもない。
そんな帰り道のさ中、「ぎょえええ」とか、「うびゃあああ」といった表現するのが難しい泣き叫ぶような声が森に響いたのだ。
どこかで聞き覚えのある声のような気がしたので行くべきではなかったのかもしれない。
もしも、あたしが考えている人で間違いがなければ、見捨てた方がいい。
明るい未来を考えるとそういう結論に達するのだが、それでも見捨てることが出来なかった。
前世であれほど抱いていた彼への恋だの愛だのといった感情は今となっては微塵も残っていないのに……。
「お嬢様。アレはもしや?」
「遺憾ではあるけど、アレだわ」
あんなにも恋焦がれていた人の声だから、間違えてなかった。
予想した通りの人物がたくさんのゴブリンに囲まれて、意味不明の叫び声を上げながら、剣を振るっていた。
顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていて、あたしの大好きだったお兄ちゃんが色々と台無しである。
あの顔を見たら、百年の恋が冷める人もいそうだ。
でも、前世のあたしは「あたしだけに見せてくれるのね~」とさらに暴走出来た自信がある。
ないない。
もう、そんなことはしない。
だけど、仕方ないかな?
ここは人助けと思って、助けてあげましょうか。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
トリスタン
下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。
彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。
小説家になろう様でも投稿しています。
恋心を埋めた
下菊みこと
恋愛
双方ともにヤンデレ。
ヒーローは紛うことなきヤンデレにつきご注意下さい。ヒロインは少しだけ病んじゃってる程度のヤンデレです。
巻き込まれた人が一番可哀想。
ヤンデレお好きな方はちらっと読んでいってくださると嬉しいです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる