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第11話 烏令嬢と泣き虫殿下①

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 あたしも十二歳になった。

 オークであんなにもひいひいと言っていたジェシージュスタンが、オークを相手にしても余裕になるほどに成長した。
 あたしの特訓のお陰に違いない。

 十二歳になったので本来なら、貴族の子女としてアカデミーに通わなければならないあたしである。
 だが、そんなことはしない。
 いや、出来ない。

 お金がない!
 アカデミーに通う余裕など、あろうはずがあろうか? いや、ない。

 ジェシーは鉄ランクを卒業した。
 もうすぐ銀のランクに手が届くかもしれない領域まで辿り着いているが、それでようやくトントンなのだ。
 何といってもこのバール屋敷が金食い虫のせいでどうにもいけない。

 屋敷を手放して、爵位も返上しようとしたら、そんなことをするのなら殺してくださいと脅されたので出来ない。
 ベラベランジェールとジェシーには世話になっているだけに無碍にする訳にいかないし、むしろ、今までの忠節に報いたいと思っているくらいだ。

 だから、アカデミーには行かないが十二歳なので出来ることがある。
 それが正式な冒険者登録だった。
 ようやく、あたし、ロザリー・ド・バールが冒険者としてデビュー出来るのだ。
 ここまで長かった……。



 この一年の間に考えもしていなかった出来事が、起きてしまったのだ。
 会いたくないのに会ってしまった。
 出来るなら、距離を置いて無関係のままに過ごしたかったんだけど。
 オートクレールがはぐらかすように「そのうち会える」という意味を嫌というほどに知ることになった。

 そう。
 アレはまだ、太陽が燦々と輝いていて、薄着でなければ過ごしにくい夏の日の出来事だった。
 「オーク! お前は私の……」「つべこべ言わずにやるっ」と何か、うるさいジェシーのお尻を蹴り飛ばして、オークの巣窟を掃討した帰り道だった。
 オークはゴブリンよりはましではあるもののあまり、金目の物を持ってい……コホン。
 冒険者とはえてして、現実的で合理的に生きなくてはいけないのであって、あたしが金の亡者な訳ではない。
 皆、やっていることだから!
 死者に金目の物は不要なのよ?

 話が脱線したわ。
 その日のオークはのであたしの機嫌はすこぶる悪かった。
 オーク程度ではオートクレールを使うのが勿体ないくらいにあたしの力は上がっている。
 どうやら、前世の分が上乗せされているのではないかと睨んだ。

(おっと、お嬢ちゃん。もう一度、死んで巻き戻ったら、もっと強くなれるとでも思ったかい? 何度も巻き戻しは出来んよ)

 オートクレールに見透かされていて、機嫌がさらに悪くなったのは言うまでもない。
 そんな帰り道のさ中、「ぎょえええ」とか、「うびゃあああ」といった表現するのが難しい泣き叫ぶような声が森に響いたのだ。

 どこかで聞き覚えのある声のような気がしたので行くべきではなかったのかもしれない。
 もしも、あたしが考えている人で間違いがなければ、見捨てた方がいい。
 明るい未来を考えるとそういう結論に達するのだが、それでも見捨てることが出来なかった。

 前世であれほど抱いていた彼への恋だの愛だのといった感情は今となっては微塵も残っていないのに……。

「お嬢様。アレはもしや?」
「遺憾ではあるけど、アレだわ」

 あんなにも恋焦がれていた人の声だから、間違えてなかった。
 予想した通りの人物カミーユがたくさんのゴブリンに囲まれて、意味不明の叫び声を上げながら、剣を振るっていた。
 顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていて、あたしの大好きだったお兄ちゃんが色々と台無しである。

 あの顔を見たら、百年の恋が冷める人もいそうだ。
 でも、前世のあたしは「あたしだけに見せてくれるのね~」とさらに暴走出来た自信がある。
 ないない。
 もう、そんなことはしない。

 だけど、仕方ないかな?
 ここは人助けと思って、助けてあげましょうか。
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