星の堕ちた世界で~終末世界のエルフ~

黒幸

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35 いさ、鎌倉デート②

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 車があったら、海岸線を進む海ルートも景色がいいから、オススメだった。
 だけど、これは選べない。
 もしも、そのルートを選んだとしたら、別の問題が発生しちゃうのだ。

 今日は日曜日。
 これがまず、厳しいとしか言えない。
 テレビでも散々、小町通が紹介されていることもあって、休日ともなると人がえぐいほどに増える。
 そうなると困るのが渋滞と駐車スペースって訳。
 特に駐車場は少ないから、大いに困る。
 それに渋滞もほぼ既定事項で絶対、混むと分かっていた。

「だから、バスで逗子ハイランドを抜けていくのが、最善だと思うのよ」
「分かった。それで行こう」

 ユーくんが素直過ぎるからだろうか。
 少し不安になるのだ。
 こんなにわたしの言うことを信じてくれて、と妙な罪悪感が心を過ぎる。
 考え過ぎなのかもしれないけど、彼がいい子だから、余計にそう思ってしまう。

「実はこっちの道も混むんだけどね」
「マジで?」
「うん。残念ながら」

 渋滞するから、それを回避しようと考えるのは誰しも同じなのよね。
 だから、当然のように山ルートも混む時は混む。
 道が狭くて、おまけに逃げ場がない分、海ルートよりも混んだ時の絶望感は強いかもしれない。

 もっともわたしは勝手知ったるで慣れっこになっているんだけど。
 それというのもハイランドを抜けると三叉路になっていて、右に曲がると朝比奈峠がある。
 そこには鎌倉霊園と言う墓地があって、祖父母が眠っているからだ。
 祖父母が生きていた頃から、盆や彼岸ともなるとお墓参りに行っていた。
 それもあって、海ルートよりもこちらを選ぶ方が多かった。

「渋滞し始めたみたいね」
「まあ、これも観光ぽくていいと思うんだ」

 案の定、混み始めた。
 ユーくんは優しいから、観光気分が味わえると言ってくれるけど、ハイランドは単なる住宅地だから何も面白い要素がないのだ。
 ちょっと景色がいいくらいでそれもしまいに飽きるくらいに普通とも言える。

「次で降りて、歩きましょうか」
「その方がいいかな」
「うん。時間勿体ないかなって」
「分かった」

 のんびりと路線バスの旅もいいんだけど、そこまでの時間の余裕はない。
 そういう場合、さくっと次のプランに移るべきだと思う。
 幸いなことにわたしとユーくんはプレイヤーであって。
 下手すると歩いた方が遥かに速いんだから。



『こういうのは歩くとは言わないと思うよ』

 バルディエルがそんなツッコミを入れてくるのも仕方ない。
 でも、真面目に歩道を歩くプレイヤーなんて、いないと思う。

「まずは若宮大路を目指して、そこから大仏さんの方に行きましょ」
「おう!」

 やっぱり、ピョンピョンと屋根から屋根を跳んでいくのが一番だよ。
 もっともこれって、ギルドの方でも最近、問題視されつつあるようだ。
 苦情が入っているなんて、実しやかな噂もあって、そのうち規制されるんじゃないかっていう話もちらほらと出ている。
 ただ、今のところはまだ、グレーだけどセーフ。
 バルディエルもツッコミを入れるだけなのがその証拠だ。
 グリゴリはプレイヤーがルールを守るよう見張っている訳だし。
 バルディエルよりもルールに厳しそうなユーくんのメルキセデクも静観しているから、今は目を瞑っておいて欲しい。

 民家だから壊して、問題にならないようにちゃんと配慮して、跳んでいるしね。

『そんなこと言って、この前地元で民家の瓦を破損しませんでしたか』

 そ、そういうことも偶にないとは言えないよね……。

 ユーくんが見に行きたいお店、ちょっと遠いんだよね。
 何事もなければ、いいんだけど。
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