星の堕ちた世界で～終末世界のエルフ～

２５ 次の冒険に向けて

　それから、暫くはこれといってイベントの無い平穏な日々が舞っていた。

　週末にはかねてから推している『歌姫』のライブがあった。
　今回は唄ではなくて、ダンジョンを冒険するライブ配信だ。

　彼女の唄に力を貰った。
　辛い時、言い知れない力を貰った気がした。
　元気が湧いたのは事実だったし、だからこそ聞きたかったんだけど……。
　今回は仕方ないかと諦め気分が大きかった。

　でも、悪くなかった。
　ううん。
　むしろ、いい。
　全く、参考になるダンジョン攻略配信ではないだろう。
　あんなの誰にも真似できないし、しようとも思えない。
　人であるとか、ないとか。
　そういう枠組みの問題ではなく、次元が違う何かなんだよね。

　それにパートナーである旦那さんとの連携が素晴らしかった。
　見ているだけで互いに思い合っているのが分かるし、あれでは誰も入る余地なんてないだろうというのが肌で感じられた。
　あれくらいに心を許せる相手がわたしにも見つかるだろうか？
　そう自問してみるけど、いくら考えても出て来るビジョンが浮かばない。
　カエルの子はどうなんだろうと考えてみるけど、はっきりした未来地図なんて思い浮かばない。
　今の関係はそこまではっきりとした絆を築けてるとは思えないからだ。



　ライブ終了後、ＳＮＳも大盛り上がりだった。
　興奮の熱が冷めやらないとはこのことだと思った。

「ユーくんはどう思う？」
「やっぱり、アレじゃないかな」
「そうだよね」

　カイさん達ともＳＮＳで盛り上がったのが、『歌姫』のライブで見たあの圧倒的なプレイヤーとしての力だ。
　噂は前からあった。
　プレイヤーネームは『リトリー・オンライン』での通例通り、実名からもじっている人が圧倒的に多い。
　運営のアンケート結果でも九割以上のプレイヤーがそうだった。
　運営の思惑通り、もじっている名が大多数を占めている訳だ。

　ライブで『歌姫』はパートナーのことを”レオ”と呼んでいた。
　そして、『歌姫』の名は”リリー”。
　この二つの事実から導き出された推理がとあるトップランカーのプレイヤーなのだ。

　一人は『レオンハルト』。
　通の間では”黒騎士”なんて呼ばれ方もしている圧倒的な攻撃力を誇るアタッカーで日本エリアでは五本の指に入るプレイヤー。
　もう一人が『リリス』。
　”妖精姫”とか、”白の聖女”と一部プレイヤーから、呼ばれている日本エリア屈指のヒーラーで五本の指に入るプレイヤー。

　リリーとリリス。
　レオとレオンハルト。
　こんな偶然、そうそうあるはずもない。
　それに湘南のＰホテルは、未踏破で最難関に位置づけられるダンジョンだった。
　十人以上のプレイヤーが挑んでエントランスにすら、辿り着かず逃げたと言われている。
　それをたった二人で踏破したのが『歌姫』。
　これは絶対、そういうことに違いない。

「でも、絶対無理よね。あんなの真似できないし」
「それは言えてる。だけどさ。無理することはないと思うんだ。人は人だしさ」
「そだね」

　ユーくんは偶に何歳の子なのか、忘れるくらい大人を感じさせる。
　本当は同い年なんじゃ？
　そんな風に思えるくらい頼り甲斐があったりもするし。
　でも、しっかりしているようで案外、抜けているから可愛いんだけどね。

「次はどこ行こうか」
「カイさん達とも遊びたいな」
「中々、難しいけどね。ほら、お金というか、かかっちゃうから」
「だよね。厳しいなあ」

　『リトリー・オンライン』の時は海外組の仲間とも案外、簡単に遊べた。
　しかし、現実はやはり、現実であって。
　やはり厳しいものがあるのだ。
　そこまでの自由はないと言えば、それまでなんだけど。

　ユーくんと「次に何するか」「どこに行くか」ととりとめのないお喋りをしているだけでいつの間にか、夜は更けていた。