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1 終末の世のエルフ
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何度、見ても慣れない。
慣れてはいけないものなんだと分かっている。
そのつもりだった。
それなりに長期間、見てきたせいだろうか。
十分過ぎるほど、頭にインプットされているはずなのに……。
そう、うまくはいかないようだ。
「まぁ、今日の稼ぎはしておきたいし」
別に言い訳を聞いてもらう相手がいる訳じゃない。
言い訳を言う必要もないのについ独り言を零すのは良くない癖であり、傾向だと思う。
誰かに聞かれたら、恥ずかしさで失神できる自信がある。
そんな自信、何にもならないけどね。
ちょっと自己逃避しながら、目標をパーンとやった。
そうでもしないとメンタルが持たないのだ。
まともでいたら、まともではいられなくなる。
まともでいたかったら、まともであることをやめなくてはいけない。
「でも、頭をやらないと駄目だしさぁ」
また、ついうっかりと言い訳を零す。
実によろしくない……。
パーンとやった。
その言い方もいわゆるオブラートに包んだ言い方をしたに過ぎない。
実際には照準器で捉えたモノの頭部に炎属性の爆発するボルトを撃ち込んだ。
文字通り、四散している。
それこそ、パーンとだ。
その様子は一度、見てしまうと二度と見たくないトラウマ級の凄まじさだ。
ザクロが破裂したとか、輪ゴムを巻いたスイカが爆発したとか、そんな生易しいものじゃない。
ただ、慣れとは恐ろしいもの。
それがお金になるのだとすれば、我慢できる。
『動く死体(ムービング・デッド)一体撃破確認』
『1ポイント加算』
愛用のスマートフォン……なのかどうかすら、もう定かではないわたしのスマートフォンだったモノが無機質な女性の声色と空中ディスプレイで教えてくれる。
しっかり者のわたしの相棒だ。
相棒というよりもお目付け役みたいなものかもしれないけど。
何しろ、あの日を境に全てが変わってしまった。
そう。
世界が変わった。
1ポイントは日本円にして、だいたい一万円の価値だ。
各々の国で流通する通貨に換金して、使う人が多い。
大多数の人はそうしているらしい。
わたしもその一人。
でも、実は換金しなくてもポイントとして、そのまま使えるのだ。
ポイントを使って、ポイントでしか購入できない専用ショップもあることにはある。
そこでしか買えない限定品も多いんだけど、ポイントが大量にいる。
わたしくらいの稼ぎでは厳しいのだ。
そんなことを考えていたら、スマホもどきのグリゴリ(監視者の意)・バルディエルが再び、教えてくれた。
軽い警告とまでいかない注意喚起といったところだろうか。
「一日にムービング・デッドが二体か。珍しいわね」
現状のバルディエルはあくまでお目付け役だからか、わたしの独り言に受け答えしない。
人によっては軽妙なジョークを言ってくる相棒もいるらしい。
そういう話をSNSに上げている人もいるし。
それはそれで相手するのが疲れそうだ。
かつての相棒はそれはそれは口が悪かった。
でも、それなりに楽しい会話ができたのも事実だけど。
さてと……距離はおおよそ百メートルくらい?
ゆっくりとした足取りで片足を引き摺るようにして、歩いているのが見える。
ムービング・デッドになって、日が浅いのだろうか。
身なりはまだきれいに見える。
肌の血色が悪いだけの生きている人間に見えなくもない。
間違えて声をかける人がいてもおかしくないだろう。
もし、そうなったら一般の人に被害の及ぶ可能性がある。
それは避けたい。
「これも仕事なのよ。ごめんね」
誰に謝るでもなく、謝る必要はないのだがそう言いたくもなってくる。
いくら命のない存在だと頭で理解しようとも……。
単なる動く死体。
命なきモノとはいえ、人間の姿をしたモノである事実は変わらない。
こう思うことができなくなった時、わたしは本当の意味でヒトではなくなったということだろう。
もう一人の相棒『アーバレスト』を構え、ただ作業をするように本日の2ポイント目をゲットした。
わたしはミレイユ。
この馬鹿馬鹿しくも滑稽な終末の世を生きる平凡なエルフである。
慣れてはいけないものなんだと分かっている。
そのつもりだった。
それなりに長期間、見てきたせいだろうか。
十分過ぎるほど、頭にインプットされているはずなのに……。
そう、うまくはいかないようだ。
「まぁ、今日の稼ぎはしておきたいし」
別に言い訳を聞いてもらう相手がいる訳じゃない。
言い訳を言う必要もないのについ独り言を零すのは良くない癖であり、傾向だと思う。
誰かに聞かれたら、恥ずかしさで失神できる自信がある。
そんな自信、何にもならないけどね。
ちょっと自己逃避しながら、目標をパーンとやった。
そうでもしないとメンタルが持たないのだ。
まともでいたら、まともではいられなくなる。
まともでいたかったら、まともであることをやめなくてはいけない。
「でも、頭をやらないと駄目だしさぁ」
また、ついうっかりと言い訳を零す。
実によろしくない……。
パーンとやった。
その言い方もいわゆるオブラートに包んだ言い方をしたに過ぎない。
実際には照準器で捉えたモノの頭部に炎属性の爆発するボルトを撃ち込んだ。
文字通り、四散している。
それこそ、パーンとだ。
その様子は一度、見てしまうと二度と見たくないトラウマ級の凄まじさだ。
ザクロが破裂したとか、輪ゴムを巻いたスイカが爆発したとか、そんな生易しいものじゃない。
ただ、慣れとは恐ろしいもの。
それがお金になるのだとすれば、我慢できる。
『動く死体(ムービング・デッド)一体撃破確認』
『1ポイント加算』
愛用のスマートフォン……なのかどうかすら、もう定かではないわたしのスマートフォンだったモノが無機質な女性の声色と空中ディスプレイで教えてくれる。
しっかり者のわたしの相棒だ。
相棒というよりもお目付け役みたいなものかもしれないけど。
何しろ、あの日を境に全てが変わってしまった。
そう。
世界が変わった。
1ポイントは日本円にして、だいたい一万円の価値だ。
各々の国で流通する通貨に換金して、使う人が多い。
大多数の人はそうしているらしい。
わたしもその一人。
でも、実は換金しなくてもポイントとして、そのまま使えるのだ。
ポイントを使って、ポイントでしか購入できない専用ショップもあることにはある。
そこでしか買えない限定品も多いんだけど、ポイントが大量にいる。
わたしくらいの稼ぎでは厳しいのだ。
そんなことを考えていたら、スマホもどきのグリゴリ(監視者の意)・バルディエルが再び、教えてくれた。
軽い警告とまでいかない注意喚起といったところだろうか。
「一日にムービング・デッドが二体か。珍しいわね」
現状のバルディエルはあくまでお目付け役だからか、わたしの独り言に受け答えしない。
人によっては軽妙なジョークを言ってくる相棒もいるらしい。
そういう話をSNSに上げている人もいるし。
それはそれで相手するのが疲れそうだ。
かつての相棒はそれはそれは口が悪かった。
でも、それなりに楽しい会話ができたのも事実だけど。
さてと……距離はおおよそ百メートルくらい?
ゆっくりとした足取りで片足を引き摺るようにして、歩いているのが見える。
ムービング・デッドになって、日が浅いのだろうか。
身なりはまだきれいに見える。
肌の血色が悪いだけの生きている人間に見えなくもない。
間違えて声をかける人がいてもおかしくないだろう。
もし、そうなったら一般の人に被害の及ぶ可能性がある。
それは避けたい。
「これも仕事なのよ。ごめんね」
誰に謝るでもなく、謝る必要はないのだがそう言いたくもなってくる。
いくら命のない存在だと頭で理解しようとも……。
単なる動く死体。
命なきモノとはいえ、人間の姿をしたモノである事実は変わらない。
こう思うことができなくなった時、わたしは本当の意味でヒトではなくなったということだろう。
もう一人の相棒『アーバレスト』を構え、ただ作業をするように本日の2ポイント目をゲットした。
わたしはミレイユ。
この馬鹿馬鹿しくも滑稽な終末の世を生きる平凡なエルフである。
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