上 下
22 / 46

第15話 先生と馬鹿弟子

しおりを挟む
 私はユウカ。
 元ド・プロット軍の将軍
 今はユウカ・フォン・デルベルク。
 ゲレオーア養父様とうさまと正式な養子縁組をしたんです。
 デルベルク辺境伯のお兄ちゃん……フレデリクはまだ、リンブルクの姓を名乗るつもりみたい。
 自分がデルベルクを名乗るにはまだ、禊が足りないとか、言っていたっけ。
 変なところで頑固だからね、お兄ちゃんは。

 お兄ちゃんは昔から、そうでした。
 私がまだ、伴 夕夏ばん ゆうかと呼ばれていて、日本で生きていた頃から、そうだったのです。
 自分のことは二の次の人なんです。
 お父さんとお母さんが旅行から戻れなくなった時だって、『二人が帰るまで俺がお前を守るから』とすぐに分かるような嘘をついて、高校に通いながら、バイトで夜遅くまで働いていたんだから。

 私がお兄ちゃんを助けることが出来たら、どんなに幸せなことか。
 でも、私の存在自体がお兄ちゃんの枷になるって分かっている。
 迷惑を掛けたくはない。
 だから、戦場に立つのをやめた。
 私は私に出来ることをやろうって、決めたのだ。

 付け焼き刃のにわか令嬢だし、馬子にも衣裳でこんなきれいなドレスを着ても全然、似合ってないかもしれないけど、少しでもお兄ちゃんの助けになるのなら、私はいくらでも道化になる。

「ごきげんよう、お初にお目にかかります。ユウカ・フォン・デルベルク、殿下のお力添えになるべく、推参致しました」



 先生が寝てから、どれくらいの時間が経ったんだろうか?

 ただ、ボッーと立っているのも暇だし、芸がないってもんだ。
 先生の部屋をじっくり観察するいい機会だろう。
 ぐるっと部屋を眺めると物に対する執着がない人だと良く分かる。

 ミニマリストなんて言葉はこの世界にないだろうが、それと同じくらいに物が置かれていない部屋なのだ。
 必要最低限の机、椅子、戸棚と書棚。
 戸棚はお茶を淹れるので確認したがきれいに整頓されていて、余計な嗜好品と言える物はお茶だけじゃないだろうか?
 その代わり、書棚には棚から溢れかえるほどの書物がある。
 まあ、確かに森の賢者の名にたがわない人ではあるな。

「ふわぁ、良く寝た。む? 何だ、貴様。誰だ? いや、待て、今、考える。言うんじゃないぞ」

 ロッキングチェアに腰掛けたまま、難しい顔でシンキングタイムに入ったらしいキアフレード先生。
 さっきですよね?
 俺と会ってから、そんなに経ってませんが大丈夫ですか?
 いや、待てよ、慌てるな。
 これはもしや、先生の罠だな?
 ここで慌てたり、先生分からないんですかpgrみたいなことを言うか、どうかを試されている訳だ。

「ううむ、分からん。貴様、誰だ?」

 ええ? マジで分からないんですか、罠じゃなくてですか?

「フレデリクです」
「どこのフレデリクだ。フレデリクなどいう名のやつはごまんとおるだろうよ」
「フレデリク・フォン・リンブルクです」
「ああ、お前がか。思ったよりも素直なようだな」
「ええ、です。お褒めに預かり、光栄です」
「誰も褒めておらんわ、たわけ。それでがこの俺に何の用だ?」
「先生、どうか、未熟で才の足りないこの私にお知恵をお借り出来ないでしょうか」

 直球で先生の力を借りたいと言って、さらに伝家の宝刀の土下座をする。
 土下座には自信があるんだ。
 バイトの鬼である俺にとって、土下座は必須スキルとなっていたからなぁ。
 とんだブラックバイトだったよ……。
 遠い目をしたくなる辛い思い出だ。

「貴様、どうして、そこまで俺にこだわる? 俺でなくても貴様が望めば、良い師など腐る数いるだろうよ」
「俺は先生に導いてもらいたいのです。誰よりも痛みに敏感である先生に導いてもらわねば、ならんのです」
「貴様、なぜそれを……ふん、そうか。痛みか、俺には良く分かるさ。では貴様は目指すと言うのか、痛みの無い世界を」
「先生がともに歩んでくだされば、必ずや道は開けると信じております」

 先生はハーフだ。
 それも両者から忌み嫌われるハーフエルフ。
 だから、年齢に合わない少年のような容姿のまま、高い知識と教養を身に着けているし、その有用性を知らない愚か者に馬鹿にされた偉大な魔術師でもある。
 そんなのが重なって、森に引き籠っていたんだろう。

「ふむ、夢を見るのはやめようと思っていたのだが……貴様と行くと面白そうな夢を見れそうだ」
「先生! ありがとうございます」
「ええい、こそばゆいわ。先生と呼ぶな。俺はキアフレードだ。キアと呼ぶがいい」
「いえ、先生は先生です。ではキア先生」
「お前、強情なやつだな……。分かった、行こうか、馬鹿弟子よ」
「はい、キア先生」

 これ、ゲームだったら、ファンファーレがなって『キアフレードが仲間になりました』と出ているんだろうな。
 いやっほおおお!
 これで俺の仲間に足りない智恵が強化されたね。
 こう言っちゃなんだが、俺も含めて、養父殿を筆頭に脳筋しか、いないからな。
 直接殴り合うだけなら、最強かもしれないが世の中、それだけじゃ、駄目なんだ。

 キア先生の荷造りというほど、物がなかったので必要なものだけを先生は自分の収納ストレージに放り込んだ。
 ほくほく顔で庵を出た俺の前には不思議な光景が広がっていた。

 うさぎちゃんがもふもふした真っ白なうさぎ軍団に囲まれて、恍惚とした表情をしている。
 それを冷ややかな目で見ているシュテルンくんだが、目は冷ややかを装っているようだが涎が垂れているぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ
ファンタジー
 中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。  蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。 [未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]  と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。  ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。  ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎    

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...