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参捨陸 コーネリアス、思索する①
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コーネリアスとヤンの屋敷に新たな住人が増えた。
ノウスである。
コーネリアスが幸運だったのはヤンと知己になり、協力関係にあったことだろう。
少なくとも雨露をしのぐ場所に困る事態にはならなかった。
石田三成は渡辺新之丞を召し抱えるにあたって、「全ての禄を手放せば、住む場所がなくなるがどうするのか」と問われ、「新之丞のところで厄介になればいい」と笑いながら答えている。
彼の豪胆と漢気が知れる逸話である。
だがコーネリアスはこの考えに全く、同意できなかった。
己の全てを投げ打つ姿は確かに誰にでも真似できるものではない。
決断力だけで片付けられるものでもない。
しかし、石田三成という男が何の考えもなしにそのようなことを言い出す人間ではないと思ったからだ。
コーネリアスは三成のことを過去の歴史として知っていながらも決して、真似は出来ないと悟った。
自分は厄介になれる場所があったからこそ、動くことが出来たのに過ぎない。
そう悟ったのである。
「いやはや。コウ殿もヤン殿も中々、どうしてでござるケロ」
屋敷を一瞥したノウスの第一声がこれだった。
ノウスは蛙人である。
見た目は二足歩行する大きなカエル。
実に表情が分かりにくい。
特に感情の変化が読み取りにくかった。
辛うじて怒っているかどうかは読み取れるが、それ以外の感情がさっぱり読めない。
唯一、彼の感情を表現していると思われるのは特徴的な大きい目だけだが、それも注意深く観察しない限りは感情の発露に気付けないものだ。
そこに着目するコーネリアスは十分に異能の持ち主と言えるのだが、本人は無自覚だった。
「ノウス殿、気になることを一つだけ、よろしいか?」
「何でござるケロ?」
コーネリアスは迷った。
突然、出来た部下である。
前世でも部下はいたが新卒の若手。
上司のような貫禄があり、年齢も親ほどに開いた部下では決してない。
「召し抱えられた者ゆえ」と当人に気を遣う必要はないと言われても気になって仕方がなかった。
彼は妥協案を提示した。
『ノウス殿』と呼ぶことである。
その代わりにノウスからも『コウ殿』と呼んでもらう。
相子になれば、いいという訳でもあるまいにコーネリアスはなぜか、そこに拘った。
「あなたに提示されたのがどれくらいなのか、気になりまして……」
「おお。そのことでござるケロか。ざっとこれくらいケロ」
ノウスは吸盤のような器官のついた指を二本立てた。
「二? 銀で二千ですか?」
「いやいや。違うケロ。白金で二ケロ」
「お、おっちゃんはそれ、断ったの!?」
コーネリアスよりもヤンの方が大きく食いついた。
額としては同じだった。
日本円でおよそ二千万円。
銀貨なら二千枚、金貨なら二百枚。
そして、白金貨なら二枚となる。
だが一般に普及している銀貨と比べ、金貨はそれほど普及していない。
金貨よりも希少な白金貨ともなれば、もはや目にする機会すらない代物である。
その白金貨で二枚と提示した。
意気込みの強さが知れようというものだ。
「拙者は己の姿を見せぬ者より、コウ殿を信じただけでござるケロ」
ケロリとした顔でそう語るノウスに対し、コーネリアスとヤンの考えることは対照的だった。
ヤンは現実的に考えた。
厚遇を逃がしたと残念に思ったのである。
コーネリアスは少し、異なる。
ノウスの言うことに一理あると考えたからだ。
ノウスである。
コーネリアスが幸運だったのはヤンと知己になり、協力関係にあったことだろう。
少なくとも雨露をしのぐ場所に困る事態にはならなかった。
石田三成は渡辺新之丞を召し抱えるにあたって、「全ての禄を手放せば、住む場所がなくなるがどうするのか」と問われ、「新之丞のところで厄介になればいい」と笑いながら答えている。
彼の豪胆と漢気が知れる逸話である。
だがコーネリアスはこの考えに全く、同意できなかった。
己の全てを投げ打つ姿は確かに誰にでも真似できるものではない。
決断力だけで片付けられるものでもない。
しかし、石田三成という男が何の考えもなしにそのようなことを言い出す人間ではないと思ったからだ。
コーネリアスは三成のことを過去の歴史として知っていながらも決して、真似は出来ないと悟った。
自分は厄介になれる場所があったからこそ、動くことが出来たのに過ぎない。
そう悟ったのである。
「いやはや。コウ殿もヤン殿も中々、どうしてでござるケロ」
屋敷を一瞥したノウスの第一声がこれだった。
ノウスは蛙人である。
見た目は二足歩行する大きなカエル。
実に表情が分かりにくい。
特に感情の変化が読み取りにくかった。
辛うじて怒っているかどうかは読み取れるが、それ以外の感情がさっぱり読めない。
唯一、彼の感情を表現していると思われるのは特徴的な大きい目だけだが、それも注意深く観察しない限りは感情の発露に気付けないものだ。
そこに着目するコーネリアスは十分に異能の持ち主と言えるのだが、本人は無自覚だった。
「ノウス殿、気になることを一つだけ、よろしいか?」
「何でござるケロ?」
コーネリアスは迷った。
突然、出来た部下である。
前世でも部下はいたが新卒の若手。
上司のような貫禄があり、年齢も親ほどに開いた部下では決してない。
「召し抱えられた者ゆえ」と当人に気を遣う必要はないと言われても気になって仕方がなかった。
彼は妥協案を提示した。
『ノウス殿』と呼ぶことである。
その代わりにノウスからも『コウ殿』と呼んでもらう。
相子になれば、いいという訳でもあるまいにコーネリアスはなぜか、そこに拘った。
「あなたに提示されたのがどれくらいなのか、気になりまして……」
「おお。そのことでござるケロか。ざっとこれくらいケロ」
ノウスは吸盤のような器官のついた指を二本立てた。
「二? 銀で二千ですか?」
「いやいや。違うケロ。白金で二ケロ」
「お、おっちゃんはそれ、断ったの!?」
コーネリアスよりもヤンの方が大きく食いついた。
額としては同じだった。
日本円でおよそ二千万円。
銀貨なら二千枚、金貨なら二百枚。
そして、白金貨なら二枚となる。
だが一般に普及している銀貨と比べ、金貨はそれほど普及していない。
金貨よりも希少な白金貨ともなれば、もはや目にする機会すらない代物である。
その白金貨で二枚と提示した。
意気込みの強さが知れようというものだ。
「拙者は己の姿を見せぬ者より、コウ殿を信じただけでござるケロ」
ケロリとした顔でそう語るノウスに対し、コーネリアスとヤンの考えることは対照的だった。
ヤンは現実的に考えた。
厚遇を逃がしたと残念に思ったのである。
コーネリアスは少し、異なる。
ノウスの言うことに一理あると考えたからだ。
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