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弐捨陸 ヤンの真骨頂①
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偶然ではなく、必然。
かくして何の因果か、運命の邂逅を果たした二人の少年の奇妙な同居生活は開始された。
そして、一年間、何事もなく続いている。
この間、コーネリアスはヤンが何者であるのかを考察しなかった訳ではない。
コーネリアスとして、この世界で十六年間生きている。
この世界の言葉で普通に会話が成り立っているだけでなく、ヤンが前世でも日本語が堪能だったこともあり、気が付かなかっただけでエリアル・フェローはカーディフ出身のウェールズ人だった。
学生時代、留学生として日本を訪れていたエリアルはすっかり、日本の文化――サブカルチャーにはまった。
元より、のめり込みやすい性質だったことも影響した。
社会に出て、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた彼女だが、仕事に追われるような毎日で次第に疲弊していく中、かつて生活した日本への憧憬の念が強くなった。
エリアルが日本へ移住を決意したのは二十五歳の時だった。
関西の食い倒れの都市に移り住み、サブカルチャーにどっぷりと浸かり、暮らしながら幸せな毎日を満喫していたエリアルだが不運な事故に巻き込まれ、前世が終わりを告げた。
その日、普段通り、職場への道を急いでいたエリアルが「危ない!」という声に首を傾げたのと頭上から、ソレが降って来たのは同時だった。
この時、皮肉なことに死を望んだ者の命が助かり、死を望まぬ憐れな者の命が失われた。
エリアルだった前世の話を聞いたコーネリアスは首を捻る。
ヤンが何者であるのかには行き当るヒントにすらならないとすぐに気が付いた。
やはり頼りになるのは自分の記憶しかないと彼が思い知ったのはこの時である。
リヒテルやキリアコスの例もある。
何より、己が石田三成の歩んだ軌跡を辿りながらも違った方角へと舵を切った自覚があった。
歴史通りに世界の歯車は回っていないのだ。
しかし、コーネリアスが一つ気付いたのは、異なる歴史の時を刻み始めているこの世界でも生年は変わっていないという動かしようのない事実だった。
ヤンとの年齢差が五歳あることは大きなヒントになりえるとコーネリアスは考えた。
さらに鍵となるのがヤンの母親である。
エストという名でとある国の領主夫人に仕える侍女だった。
このエストが領主夫人ネリーの母親の縁者にあたる女性であり、それなりに高い発言力を持っていた。
そして、ネリーの夫がディオン・プリュムラモー伯爵。
ノエル王に仕え、かつてサンジュと呼ばれた下働きの身分に過ぎない小身の者から、成り上がった男である。
サンジュとは現地の言葉で猿を意味する……。
「いや、そこは猿ではなく、ハゲネズミでラショーブと呼ぶべきじゃないか?」
「それをボクに言われても困るなぁ、コウ兄さん」
これらのことをまとめて考えた結果、コーネリアスの中でヤンの正体が朧気に見えてきた。
本来は青年時代に出会い、血で血を洗う戦国の世でありながら、深い友情で結ばれた友人。
三成にとって、真の友と言うべき男。
その名は大谷吉継。
「それなら、合点がいくな」
「勝手に納得されても困るけどね!」
ヤンは白い歯を隠そうともせず、大きく口を開け「ニッシシシ」と豪快に笑って見せる。
コーネリアスは前世の光汰の時から、引っ込み思案なところがあり、それが思慮深いと勘違いされていたことを思い出した。
今世でもその癖は抜けていない。
年齢よりも落ち着いた子供に見えたのはそのせいでもあった。
ヤンの様子を見ると恐らく、前世でも快活な人柄だったのに違いないとコーネリアスは考えた。
もし、神様とやらが本当に存在するのであれば、ヤンのような人物にこそ、あのような力が相応しいのだろうと……。
コーネリアスは一人、そう合点したのである。
かくして何の因果か、運命の邂逅を果たした二人の少年の奇妙な同居生活は開始された。
そして、一年間、何事もなく続いている。
この間、コーネリアスはヤンが何者であるのかを考察しなかった訳ではない。
コーネリアスとして、この世界で十六年間生きている。
この世界の言葉で普通に会話が成り立っているだけでなく、ヤンが前世でも日本語が堪能だったこともあり、気が付かなかっただけでエリアル・フェローはカーディフ出身のウェールズ人だった。
学生時代、留学生として日本を訪れていたエリアルはすっかり、日本の文化――サブカルチャーにはまった。
元より、のめり込みやすい性質だったことも影響した。
社会に出て、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた彼女だが、仕事に追われるような毎日で次第に疲弊していく中、かつて生活した日本への憧憬の念が強くなった。
エリアルが日本へ移住を決意したのは二十五歳の時だった。
関西の食い倒れの都市に移り住み、サブカルチャーにどっぷりと浸かり、暮らしながら幸せな毎日を満喫していたエリアルだが不運な事故に巻き込まれ、前世が終わりを告げた。
その日、普段通り、職場への道を急いでいたエリアルが「危ない!」という声に首を傾げたのと頭上から、ソレが降って来たのは同時だった。
この時、皮肉なことに死を望んだ者の命が助かり、死を望まぬ憐れな者の命が失われた。
エリアルだった前世の話を聞いたコーネリアスは首を捻る。
ヤンが何者であるのかには行き当るヒントにすらならないとすぐに気が付いた。
やはり頼りになるのは自分の記憶しかないと彼が思い知ったのはこの時である。
リヒテルやキリアコスの例もある。
何より、己が石田三成の歩んだ軌跡を辿りながらも違った方角へと舵を切った自覚があった。
歴史通りに世界の歯車は回っていないのだ。
しかし、コーネリアスが一つ気付いたのは、異なる歴史の時を刻み始めているこの世界でも生年は変わっていないという動かしようのない事実だった。
ヤンとの年齢差が五歳あることは大きなヒントになりえるとコーネリアスは考えた。
さらに鍵となるのがヤンの母親である。
エストという名でとある国の領主夫人に仕える侍女だった。
このエストが領主夫人ネリーの母親の縁者にあたる女性であり、それなりに高い発言力を持っていた。
そして、ネリーの夫がディオン・プリュムラモー伯爵。
ノエル王に仕え、かつてサンジュと呼ばれた下働きの身分に過ぎない小身の者から、成り上がった男である。
サンジュとは現地の言葉で猿を意味する……。
「いや、そこは猿ではなく、ハゲネズミでラショーブと呼ぶべきじゃないか?」
「それをボクに言われても困るなぁ、コウ兄さん」
これらのことをまとめて考えた結果、コーネリアスの中でヤンの正体が朧気に見えてきた。
本来は青年時代に出会い、血で血を洗う戦国の世でありながら、深い友情で結ばれた友人。
三成にとって、真の友と言うべき男。
その名は大谷吉継。
「それなら、合点がいくな」
「勝手に納得されても困るけどね!」
ヤンは白い歯を隠そうともせず、大きく口を開け「ニッシシシ」と豪快に笑って見せる。
コーネリアスは前世の光汰の時から、引っ込み思案なところがあり、それが思慮深いと勘違いされていたことを思い出した。
今世でもその癖は抜けていない。
年齢よりも落ち着いた子供に見えたのはそのせいでもあった。
ヤンの様子を見ると恐らく、前世でも快活な人柄だったのに違いないとコーネリアスは考えた。
もし、神様とやらが本当に存在するのであれば、ヤンのような人物にこそ、あのような力が相応しいのだろうと……。
コーネリアスは一人、そう合点したのである。
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