嫌われ者のハシビロコウキャラに転生した俺、どうすればいい?

黒幸

文字の大きさ
上 下
14 / 37

捨肆 バドの秘密②

しおりを挟む
「もう、こっちを向いてもいいわ」

 隠す気もないのか、普通に女の子の言葉遣いをしているバドにコーネリアスは激しく、惑う。
 三十路まで生きた経験が何の役にも立たず、さすがに戸惑いを隠せないでいた。

 これまで仲の良い友達と思っていた男の子が、本当は女の子だった。
 さらに肌の色を偽っていたことも大きい。
 シルバーブロンド、バイオレットカラーの瞳、白い肌が三位一体となり、バドがまるで妖精のように見えたからだ。

「ああ。そうか。塗ってたのか」
「そういうこと」

 そこにはいつもの泥を塗ったかの如く、日焼けにしては黒過ぎる肌の色をしたバドが立っていた。
 彼女の手には軟膏を入れる金属製の小さな容器が握られている。

「これはの薬なんだよ」
「へえ」

 コーネリアスは日本の戦国時代に似た不思議な異世界へ転生したのだと自覚していた。
 しかし、いまいち異世界にいる実感は得ていなかった。
 その理由は人々の見た目が西欧の人種に似ていることもあり、外国で暮らしているといった程度の認識しかなかったのだ。

 異世界であるはずなのにそれらしき、魔物を見かけたこともなければ、不思議なことが起こる魔法をその目で見たこともない。
 これは彼の生まれ育ったストンパディ村が田舎の小さな村であったことも影響している。
 まず、治安が良く、人に害をなす魔物や野盗の類が幅を利かせていることがない。
 魔法も持って生まれた素質がかなり重要視されており、高度な魔法を使える高い魔力を持つ人間はどうしても王族や貴族といった限られた階層に多かった。

 そうとはいえ、実はコーネリアスは知らず知らずのうちに魔法の恩恵を受けていることに気付いていない。
 台所で鍋を温めるのも浴室の湯を温めるのも、炎の魔石を利用した魔道具が使われている。
 魔法を気軽に使えない平民階級でも気軽に快適な生活を送れるようにと開発されたものだった。

「魔法ってことは君は……」
「あっ。違うよ。あたしは貴族じゃないの」
「そうなんだ」
「うん。そうなの。あたしはね。妖精族アールヴなんだよ。秘密だからね?」

 それから、バドが語り始めた内容は大概の事柄に冷静な対処で応じるコーネリアスですら、驚きを隠せないものだった。

 アールヴの名はコーネリアスも知っていた。
 父トマスの蔵書を読み漁った時、その名を目にしていたからだ。
 半神と呼ばれることがあるアールヴは神々の眷属と考えられている。
 美しい容姿。
 不思議な力。
 地方によってはアールヴを神と崇めるところさえ、あったと記されているほどだ。

 アールヴの記述でコーネリアスが思い出したのは、前世で見た記憶があるファンタジー作品に出てくるエルフだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...