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後日談

番外編14話 ミサの好きな人

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 私、北条美彩ほうじょう みさはいわゆる旧家に生まれました。
 いわゆるお嬢様と呼ばれる部類に入る私です。
 しかし、正直に申しまして、それほど幸せであると感じたことはあまり、ないのです。
 幼い頃から、厳しく礼儀作法に躾け、習い事に追われる日々。
 それは幸せになるべく努力しなければならないことだったのかもしれません。
 私にとっては単なる苦行にしか、感じられなかったのですが……。

 そんな私には学校もあまり好ましい場ではありませんでした。
 なぜかと申しますと北条美彩ほうじょう みさというお嬢様を利用したいから、近付いてくる者が跳梁跋扈する場だったから。
 私という人間を肩書なしで理解しようとしてくれる人など誰もいやしなかったのです。

 私の苦しみは高校生になるまで続きました。
 そんな中、私は一つの癒しを見つけたのです。
 それが文芸部という存在でした。
 そこでは私を肩書と関係なく、受け入れてもらえました。
 好きな文学作品について語り合い、ただ好きな本を読み合い、自由に振舞える。
 私は初めて、喜びを感じました。

 そこから、私はちょっとだけ、変われた気がするのです。
 まず、人目をあまり気にしなくなりました。
 それまで自分はこうあらねばならないという思いが強く、疲れるくらいに心がすり減っていました。
 気にしなくなると楽なものです。
 不思議なことが起こりまして、私は友人というものに恵まれるようになったのです。
 そこで私はまた、気付いてしまいました。
 肩書を気にして壁を作っていたのは自分自身だったのだと。

 文芸部が居心地のいい場所になって、二年。
 部長を任されました。
 その頃の私は『近寄りがたいお嬢様』から、『ちょっと変わったお嬢様』へと良くなったのか、悪くなったのか、分からない評価をされていたのです。
 私は『それがどうしたの?』と気にしなくなっていました。
 人とは成長する生き物だというのを実感出来ますわ。

 部長になってから、私を補佐してくれる優秀な一年生が二人も入部してくれたのがこの頃のことです。
 二人は優秀なだけでなく、友人としても信頼出来る人間でした。
 それに心から一緒にいて楽しいと感じられる。
 そんな風に感じたのは初めての経験だったのです。

「二人は付き合っているのね?」
「「はい(ええ)」」

 ああ、これがいわゆる百合なのね、と思った私でしたがそれは勘違いでした。
 女子だと思っていたカオルさんが、女子ではないので普通にお付き合いしているだけなのです。
 それなのに二人が見つめ合っていると倒錯的な雰囲気が漂ってくるのは何なのでしょうね?
 こうして、私はまた、新たなページを開いたのでした。

 🌺 🌺 🌺

 ある日、二人が神妙な顔をして、私に紹介したい人がいるといって、連れてきた少女を見て、私の中で何かが目覚めました。

「よ、よろしくお願いします、北条先輩」

 そう言って、挨拶をする少女の姿を見た瞬間、私の身体を電撃が貫きました。
 桃色のようにも見える金色の髪。
 いわゆるストロベリーブロンドの長い髪だけでも神秘的なのにその瞳は単なるブルーではなく、瑠璃色なのです。
 リップを塗ってもいない桜色の唇はぷっくらとしていて、何とも魅惑的でした。
 肌は白磁のように白く、滑らかでその姿はまるで天使のよう。
 私は気付きました。
 そうです、愛です!
 愛でたい方の愛ではありません。
 この少女を私の力で幸せにしてあげたいのではなく、導いてあげたい……そんな愛なのです。

 私は運命を感じた少女・北畠亜莉子きたばたけ ありすを全力で応援することを決めました。
 彼女の幼馴染でもあり、文芸部におけるであるカオルくんとスミカさんも同じ思いを抱いていると知りました。
 そうなれば、私と彼らが手を結ぶのは運命の必定!
 そして、導かれた答えは彼女を幸せにするには幼馴染との恋を成就させるのが一番というもの。

 自分が使える手は全て、使いました。
 それこそ羞恥心など省みずに!
 しかし、なぜか、うまくいかないのです。
 スミカさんに言わせると『部長のアイデアはどれも絵に描いた餅です』だそうです。
 私にはどこが悪いのか、全く分かりません。
 完璧な作戦だったのです。
 そこで私は良く考えてみました。
 うまくいかない理由にはたと気付いたのです。
 私自身が恋愛経験もないのにアリスちゃんの恋を応援出来ようはずがありません。
 そうと決まれば、話は早いのです。
 私はありとあらゆる恋愛小説を読みまくりました。
 それでは足りないとばかりに乙女ゲームにも手を出したのです。
 これだけではまた、失敗すると思った私は成人指定ゲームにまで手を出しました。
 これで完璧です。
 カオルくんとスミカさんには呆れ顔をされましたがなぜでしょうね?

 しかし、想いは通じるものですね。
 勿論、私の重いお……もとい想いではなく、アリスちゃんの想いが通じたのです。
 思えば、今回の作戦は完璧だったのです。
 VRMMOを使って、素直になれない二人をそれとなく、良い雰囲気に持っていくという柔らかなオブラートに包んだのが良かったのでしょう。
 『将を射んとする者はまず馬を射よ』と言いますものね。

 私の宿願は卒業する前に果たされました。
 アリスちゃんが幸せになった顔を見せてくれたのですから、心おきなく学校を去れるというものです。
 あとのことはカオルくんに任せておきましたが彼なら、きっといい方向に導いてくれることでしょう。
 それに卒業してもVRMMOでまた、皆で集まることも出来るのですから、少しくらい会えなかったとしても寂しくはないでしょう。
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