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後日談
番外編12話 カオルの恋
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カオルは『あれから』女子の姿で生活することも外出することもなくなっていた。
『あれから』というのはタケルとアリスがオーストリアへと旅立ってからだ。
カオルが女の子の姿でいるようになったのは元はと言えば、母親が娘が欲しかったから、という理由だった。
半ば強制的にそうさせられていたのを本人が気に入ってしまっただけに過ぎなかった女装だが、幼馴染二人との関係が大きく影響していたのだ。
タケルはアリスのことが好き。
アリスもタケルのことが好き。
周囲の誰もがそれを分かっているのに当の本人たちがそれに気付いていないし、分かっていたとしても認めようとしない。
幼い頃から、そんな二人を見ていたカオルは二人のことが誰よりも好きだったし、幸せになってもらいたいと心から思っていた。
その為には自分が男の姿のままではアリスとの間にある壁を越えられないだろう。
ならば、自分が女子になればいいのだ。
これで壁はなくなる。
頭のいいカオルだが、変なところでポンコツなのだった。
そんな理由で小学生の頃から、女子として活動していたカオルだが見た目が完璧だった為にあっさり、受け入れられた。
むしろ女子からは好評だったのだ。
女子の姿になったカオルを最初は怪訝な顔で怪しんでいたアリスだったが元から、陽気で深く考えるより身体を動かすタイプの彼女は受け入れるのも早かった。
カオルの睨んだ通り、女子なカオルには壁がなくなったアリスは恋心を素直に語ってくれた。
本人の前に行くと正反対のことを言い出すのは相変わらずだったので頭を抱えることになるのだが……。
そんなカオルに新たな出会いが訪れたのは中学に入学してからだ。
アリスが同じクラスで仲良くなった子として、紹介されたのがスミカだった。
カオルはその時に受けた印象から、スミカは本を読むのが好きでおとなしく、あまり自分をさらけ出さない子と認識していた。
ところがその印象は付き合いが進むにつれ、誤りだと気付かされるのにさして、時間を要さなかった。
カオルは勉強だけではなく、スポーツも何でもござれな秀才である。
だが姿は女子として生活している訳だし、これといってのめり込むほど好きな競技がある訳でもない。
無理をして、運動部に所属しようとはしなかった。
意外なことにカオルが入部したのは文芸部だったのだ。
元より本が好きだったこともあり、興味本位で覗きに行ったところ、そこに見知ったスミカの姿があったから、『悪くない』選択しくらいの興味本位で選んだのだ。
放課後を文芸部で過ごすうち、カオルはスミカがおとなしそうでしっかりした印象というのは見えている部分で周りが勝手に判断しているだけだと知った。
意外と毒舌でいて、周囲を気遣い、何よりも友人との絆を大切にする優しい子だということを知り、スミカとともに時を過ごすことを楽しみにするようになった。
スミカも読書好きで話が合う同性の友達として、カオルと一緒に遊んだり、何もしないで一緒に過ごす日々を悪くないと思っているようだった。
アリスが二人にとって、共通の友人であると同時に幸せになって欲しいと願う大切な人であるのも一緒。
そんな二人が友人から、同士という特殊な関係になるのも自然なことだった。
どうすれば、あの両片思いの面倒な関係を両想いに出来るかと相談するのに二人きりなのも自然なことだったのだ。
その為、お互いを異性として意識することはなかった。
しかし、遅めの思春期を迎えたスミカが変わり始めた。
アリスの恋を応援していたスミカだが、自分が恋をするなどと考えていなかったからだ。
文学少女で本で知識を得るばかりだったスミカは恋とは自分とは関係ないものと考えるようになり、眺めて愛でることで満足するものだと思い込もうとしていた。
そんな彼女にも思春期が訪れた。
いつも側にいてくれる大切な友人を見ると胸が苦しくなることに気付いてしまったのだ。
本での知識でしか、恋愛を知らないスミカだったが、それがカオルに恋をしたからだと気付くまでにさして、時間が掛からなかった。
「あの……カオル。私……あなたのことが好きかもしれない」
「え? 僕も好きだよ」
カオルの言う好きとスミカの言う好きに違いがあることにカオルはまだ、気付いていなかった。
「その好きではなくって……その……やっぱり、無理です」
真っ赤な顔で脱兎の如く、走り去っていくスミカの姿を見て、ようやくカオルは気付いた。
「違う好きって、そういうことね」
ふふっと薄っすらと微笑むカオルの姿は男子生徒が見たら、好きになってしまいそうなくらいに妖しく、艶やかな美しいものだ。
幸いなことに拗らせまくって、カオルとスミカがどんなに手を回しても空回りしている幼馴染二人に比べれば、カオルは素直だったから。
🌺 🌺 🌺
「スミカ、ごめんね。こういうことは僕から、言わなきゃ、駄目だったのにね。僕は君が好きだ。付き合ってくれると嬉しいかな」
カオルは常に冷静であまり表情を変えないだけでなく、その整った顔立ちに男でもいいからと告白する男子も数知れなかった。
その度に『それで僕と君が付き合って、僕が得することがあるの?』と撃沈させていたから、氷の姫(ただし男の娘)と呼ばれていたのだ。
そんな彼にしては珍しく、その頬は赤く染まっており、語尾の言葉遣いも怪しくなっている。
「カオル……はい、お願いします」
こうして、二人は既に中学の頃から、付き合い始めていた。
ただ、恋人として付き合ってはいてもその関係や接し方が変わることはなく、一緒に本を読んだり、手を繋いで買い物に行く程度。
それ以上の関係を望んでいないという訳でもないのに清く正しい交際を続けていた。
それは高校生になっても変わらないままだ。
やがて、ようやく幼馴染二人が結ばれたことでカオルがスミカとの密やかなる関係を明らかなものとしたがそれでも変わることはなかった。
まるで金婚式を迎えた老夫婦みたいだと言われた恋人同士。
それがカオルとスミカだった。
『あれから』というのはタケルとアリスがオーストリアへと旅立ってからだ。
カオルが女の子の姿でいるようになったのは元はと言えば、母親が娘が欲しかったから、という理由だった。
半ば強制的にそうさせられていたのを本人が気に入ってしまっただけに過ぎなかった女装だが、幼馴染二人との関係が大きく影響していたのだ。
タケルはアリスのことが好き。
アリスもタケルのことが好き。
周囲の誰もがそれを分かっているのに当の本人たちがそれに気付いていないし、分かっていたとしても認めようとしない。
幼い頃から、そんな二人を見ていたカオルは二人のことが誰よりも好きだったし、幸せになってもらいたいと心から思っていた。
その為には自分が男の姿のままではアリスとの間にある壁を越えられないだろう。
ならば、自分が女子になればいいのだ。
これで壁はなくなる。
頭のいいカオルだが、変なところでポンコツなのだった。
そんな理由で小学生の頃から、女子として活動していたカオルだが見た目が完璧だった為にあっさり、受け入れられた。
むしろ女子からは好評だったのだ。
女子の姿になったカオルを最初は怪訝な顔で怪しんでいたアリスだったが元から、陽気で深く考えるより身体を動かすタイプの彼女は受け入れるのも早かった。
カオルの睨んだ通り、女子なカオルには壁がなくなったアリスは恋心を素直に語ってくれた。
本人の前に行くと正反対のことを言い出すのは相変わらずだったので頭を抱えることになるのだが……。
そんなカオルに新たな出会いが訪れたのは中学に入学してからだ。
アリスが同じクラスで仲良くなった子として、紹介されたのがスミカだった。
カオルはその時に受けた印象から、スミカは本を読むのが好きでおとなしく、あまり自分をさらけ出さない子と認識していた。
ところがその印象は付き合いが進むにつれ、誤りだと気付かされるのにさして、時間を要さなかった。
カオルは勉強だけではなく、スポーツも何でもござれな秀才である。
だが姿は女子として生活している訳だし、これといってのめり込むほど好きな競技がある訳でもない。
無理をして、運動部に所属しようとはしなかった。
意外なことにカオルが入部したのは文芸部だったのだ。
元より本が好きだったこともあり、興味本位で覗きに行ったところ、そこに見知ったスミカの姿があったから、『悪くない』選択しくらいの興味本位で選んだのだ。
放課後を文芸部で過ごすうち、カオルはスミカがおとなしそうでしっかりした印象というのは見えている部分で周りが勝手に判断しているだけだと知った。
意外と毒舌でいて、周囲を気遣い、何よりも友人との絆を大切にする優しい子だということを知り、スミカとともに時を過ごすことを楽しみにするようになった。
スミカも読書好きで話が合う同性の友達として、カオルと一緒に遊んだり、何もしないで一緒に過ごす日々を悪くないと思っているようだった。
アリスが二人にとって、共通の友人であると同時に幸せになって欲しいと願う大切な人であるのも一緒。
そんな二人が友人から、同士という特殊な関係になるのも自然なことだった。
どうすれば、あの両片思いの面倒な関係を両想いに出来るかと相談するのに二人きりなのも自然なことだったのだ。
その為、お互いを異性として意識することはなかった。
しかし、遅めの思春期を迎えたスミカが変わり始めた。
アリスの恋を応援していたスミカだが、自分が恋をするなどと考えていなかったからだ。
文学少女で本で知識を得るばかりだったスミカは恋とは自分とは関係ないものと考えるようになり、眺めて愛でることで満足するものだと思い込もうとしていた。
そんな彼女にも思春期が訪れた。
いつも側にいてくれる大切な友人を見ると胸が苦しくなることに気付いてしまったのだ。
本での知識でしか、恋愛を知らないスミカだったが、それがカオルに恋をしたからだと気付くまでにさして、時間が掛からなかった。
「あの……カオル。私……あなたのことが好きかもしれない」
「え? 僕も好きだよ」
カオルの言う好きとスミカの言う好きに違いがあることにカオルはまだ、気付いていなかった。
「その好きではなくって……その……やっぱり、無理です」
真っ赤な顔で脱兎の如く、走り去っていくスミカの姿を見て、ようやくカオルは気付いた。
「違う好きって、そういうことね」
ふふっと薄っすらと微笑むカオルの姿は男子生徒が見たら、好きになってしまいそうなくらいに妖しく、艶やかな美しいものだ。
幸いなことに拗らせまくって、カオルとスミカがどんなに手を回しても空回りしている幼馴染二人に比べれば、カオルは素直だったから。
🌺 🌺 🌺
「スミカ、ごめんね。こういうことは僕から、言わなきゃ、駄目だったのにね。僕は君が好きだ。付き合ってくれると嬉しいかな」
カオルは常に冷静であまり表情を変えないだけでなく、その整った顔立ちに男でもいいからと告白する男子も数知れなかった。
その度に『それで僕と君が付き合って、僕が得することがあるの?』と撃沈させていたから、氷の姫(ただし男の娘)と呼ばれていたのだ。
そんな彼にしては珍しく、その頬は赤く染まっており、語尾の言葉遣いも怪しくなっている。
「カオル……はい、お願いします」
こうして、二人は既に中学の頃から、付き合い始めていた。
ただ、恋人として付き合ってはいてもその関係や接し方が変わることはなく、一緒に本を読んだり、手を繋いで買い物に行く程度。
それ以上の関係を望んでいないという訳でもないのに清く正しい交際を続けていた。
それは高校生になっても変わらないままだ。
やがて、ようやく幼馴染二人が結ばれたことでカオルがスミカとの密やかなる関係を明らかなものとしたがそれでも変わることはなかった。
まるで金婚式を迎えた老夫婦みたいだと言われた恋人同士。
それがカオルとスミカだった。
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