上 下
128 / 232
第3章 戦火のオルレーヌ王国

第115話 だが終わらせるんだろ?

しおりを挟む
 アルフィンには国家認定レベルの聖女が少なくても三人いることになります。
 エル――エレオノーラは間違いなく、大陸トップレベルの回復魔法のエキスパートですわ。
 人格的な問題がありますから、まず道徳や倫理の教育が必要になるでしょうけど。

 アイリスもまだ粗削りなところは否めませんが、今後の鍛え方で聖女になれるでしょう。
 お祖母さま、お母さまと聖女だった私達姉妹には血筋として、十分な素質を有している訳ですもの。
 器として、ホムンクルスがどこまで耐えられるのか、分からないので無理をして欲しくない気持ちの方が強いですし、あの子もエルと違う意味で自由なのよね……。

 聖女として、最適なのはやはりレライエかしら?
 肉体こそ、仮初のホムンクルスだけど間違いなく、七十二柱の一柱ですもの。
 癒しの権能を持つ彼女にしか使えない固有の回復魔法もありますし。
 問題は器の方がその力に耐えきれないことでしょう。

 それに私も得意ではないとはいえ、上位の神聖治癒ディバインヒールも使えますし、治療が可能な魔法は光属性だけではありません。
 意外と知られていないのと光の魔法での癒しが正しいという刷り込みにも似た思い込みがあるせいなのでしょう。
 これだけ、回復のプロフェッショナルな人材が揃っているから、重症のターニャの治療も万全だったのです。
 地面にあれだけの大穴が開くほどですから、ヤマトが相当の高度から、落下したのは間違いありません。
 収容したターニャに目立った外傷はなかったのですが、魔力切れと全身の筋肉が悲鳴を上げている状態。
 そうですわね……百キロメートルを二十四時間走り続けた人と同じような状態かしら?
 とにかく酷かったですわ。
 エルとレライエの治療のお陰で安静にして、あとはゆっくり寝ていれば、元に戻るでしょう。

「痒いところはもうない?」
「うん」

 ないのに動く気はないみたい。
 ええ。
 レオに膝枕して、耳掻きをしながら、色々と考え事をしていたのです。
 これは信頼関係を築いていないと出来ないことですわ。
 相手を信じて、身体を預けているのですから。
 レオに信じてもらえて、私もレオを信じているから、想いは通じている訳で…・…

「リーナ、手! 手!」
「え? あっ、はい」

 無意識のうちにレオの髪をつい、わしゃわしゃしながら、頭を撫でていました。
 何となく、触り心地が良くて、撫でまわしていると最高なのですけど。
 あまり同じところばかり、撫でているとレ禿げやすいのかしら?
 レオの顔が熟したトマトみたいな色になったのでやめておきましょう。

「ク・ホリンはどうする?」

 先程までは耳掻きという大義名分があったので膝の上を完全に占拠していたレオですけど、もはや開き直ったのかしら?
 仰向けになっておりますの。
 視線が絡み合うとそれだけでポカポカとしてくるのでいつまででも……もう永遠にこうしていても構わないですわ。

「どうしましょう。フリアエである程度、コントロールは可能ですけど、限度がありますわ。難しい動作は困難ですから、ある程度の防衛なら、こなせそうですけど」
受容者レシピエント見つからないかな?」
「難しいと思いますわ。条件が中々に厳しいでしょう? 条件を無視出来る力があればとエルに試してもらいましたけど、結果はあの通りですもの。一筋縄ではいかないようですわ」
「そっかぁ。何か、いい手はないかな」

 真面目そうに考えている顔をしながら、手をそっと胸に伸ばしてこようとするのでとりあえず、はたき落としておきます。
 違う方の手も伸ばしてくるのでにっこりと笑みを浮かべながら、はたき落としますわ。

「ねぇ、レオ。フリアエにあなた好みの兵装があるのですけど」
「何かな?」

 お互いにっこりと微笑みを浮かべ、真面目な話をしながら、相手の出方を窺っています。
 レオは隙を見つけては手を伸ばし、胸を愛でようとするので私は無言でそれをはたき落とすを延々と繰り返してますのよ?
 案外、楽しいのですけどちょっと疲れますわ。
 レオは疲れないのかしら?
 疲れてもいいから、『それでも僕は胸を愛でたいんだ!』なんて、言わないでしょうね?

 その後、この不毛な攻防戦は十分以上続けられたのですけど、最終的にレオに押し倒されましたわ。
 彼が満足するまで手で胸を揉まれ続け、最後は顔を埋もれさせて『やっぱ、リーナは軟らかくて、気持ちいいから最高だよね』と……褒められているのかしら?
 レオはそのまま、心地良かったのか、寝息を立てて寝てしまったので私も諦めましたわ。
 だから、せめて彼がどこにも行かないようにって、そっと背に腕を回して、一緒に寝ますわ。

 🤖 🤖 🤖

 オルレーヌの王都ヴェステンエッケから、北に百キロメートルほど行くとかつて宿場町として栄えた都市のなれの果ての姿があった。
 通りには人影一つなく、何かしらの生命あるものの姿さえ、見受けられない。
 壁も屋根も失い、瓦礫同然となった家屋を隠すように風が吹きすさび、砂煙が巻き起こされる。

「酷い有様だ」

 夕焼けの色に彩れた髪は短く、切り揃えられ、その切れ長の目から受ける印象と同様にその少年、テオドリック・シャルンホルストの決意の強さを表しているかのようだ。
 テオドリックは十年前、全てを失った。
 まだ幼子であった彼を救い出した男――隻眼の紅虎と呼ばれたオルレーヌの猛将ヒンツェ――は自らの持てるもの全てをテオドリックに与え、そして、死んだ。
 テオドリックは自らの名に誓い、全てを取り戻すべく戻ってきた。

「だが終わらせるんだろ?」

 テオドリックの傍らに立つ少年、カーミルが抑揚のない声色で感情の色を出さず、自らに問いかけるように呟いた。
 浅黒い肌をしており、腰まで届く程に長い濡れ羽色の髪は無造作に編み込まれていた。
 カーミルの名は西部に広がる砂漠の民の言葉で完全を意味している。
 本当の名ではない。
 名すら与えられず、孤独に生きてきたのだ。
 そんな彼が砂漠で出会った奇妙な老人は彼に名カーミルと物言わぬ大きな友を与え、そして、死んだ。
 カーミルは老人の遺志を継ぎ、東を目指した。

「あの話を信じるの?」

 そして、もう一人、テオドリックに寄り添うように立つ少女がいた。
 ディアナ・グナイゼナウは夕焼けではなく、朝焼けを思わせるやや色素が薄いオレンジの髪を三つ編みに編み込み、おさげにしている。
 彼女はオルレーヌの双璧であるグナイゼナウの令嬢として生まれながら、その血ゆえに母の実家に追いやられ、冷涼にして過酷な北の地で育った。
 そこで彼と出会った。
 彼に教えられるがまま、学び取り、そして、悟った。
 ディアナは教えに従い、救うべく南へと旅立った。

「俺達に残された時間は少ない」
「信じるんじゃなくて、信じないと後がないんだよな」
「全くもう、これだから、男って馬鹿よね……」

 ややぶっきらぼうな物言いしかしない男二人にやや呆れた顔をしながらもディアナは諦めたように頭を横に振る。
 運命という名の死神に憑りつかれた彼らの前には三体の魔動騎士アルケインナイトが夕焼けによって、茜色に染められ佇んでいるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

転生お姫様の困ったお家事情

meimei
恋愛
前世は地球の日本国、念願の大学に入れてとても充実した日を送っていたのに、目が覚めたら 異世界のお姫様に転生していたみたい…。 しかも……この世界、 近親婚当たり前。 え!成人は15歳なの!?私あと数日で成人じゃない?!姫に生まれたら兄弟に嫁ぐ事が慣習ってなに?! 主人公の姫 ララマリーアが兄弟達に囲い込まれているのに奮闘する話です。 男女比率がおかしい世界 男100人生まれたら女が1人生まれるくらいの 比率です。 作者の妄想による、想像の産物です。 登場する人物、物、食べ物、全ての物が フィクションであり、作者のご都合主義なので 宜しくお願い致します。 Hなシーンなどには*Rをつけます。 苦手な方は回避してくださいm(_ _)m エールありがとうございます!! 励みになります(*^^*)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

クール令嬢、ヤンデレ弟に無理やり結婚させられる

ぺこ
恋愛
ヤンデレの弟に「大きくなったら結婚してくれる?」と言われ、冗談だと思ってたら本当に結婚させられて困ってる貴族令嬢ちゃんのお話です。優しく丁寧に甲斐甲斐しくレ…イプしてるのでご注意を。 原文(淫語、♡乱舞、直接的な性器の表現ありバージョン)はpixivに置いてます。

処理中です...