上 下
125 / 232
第3章 戦火のオルレーヌ王国

第112話 新しいのが試せますわ。試したいかしら?

しおりを挟む
 急速接近してくる魔力源の大きさから、推測されるのは大司教ビショップかしら?
 計画書に記述された大司教ビショップの絵図はずんぐりとした丸みを帯びた胴体に短い手足と顔面のほぼ半分以上を占める大きな目が特徴的な独特のデザインの頭部を備えていました。
 前世の歴史の教科書に載っていた遮光器土偶に似てますわ。
 そのように芸術性が高いデザインにしているのですから、儀礼的な意味合いの方が強いシリーズだと予想していたのですけど。
 あれほど空気力学を無視したデザインなのに高速で飛行出来るなんて、信じられませんわ。
 ええ、なるほど。
 つまり、物理法則を無視した存在ですのね?
 おざなりの対応でいいかしら。

「拘束しましたわ。レオのお好きなように」

 フリアエの両腕から、赤い光で構成された魔法の鞭を射出し、大司教ビショップの腕と足に絡みつかせました。
 これ、単に絡みついて拘束するだけではありませんの。
 ついでに魔力を吸収させて、いただいておりますのよ?
 ギブアンドテイクというものが大事ですもの。
 そうそう、貰うだけではいけませんわね。
 身体を蝕む猛毒を注いであげますわ。

「それじゃ、投げるよ」

 レオったら、フリアエの身体を高速に回転させると大司教ビショップを地面に向けて、思い切り放り投げました。
 相変わらず、無茶しますのね。
 ドゴンという衝撃音と空高く舞い上がる土煙がその衝撃の凄まじさを語ってますわ。

大司教ビショップ未だ、健在ですわ。どうしますの?」
「そうこなくっちゃ、面白くないよ」

 本当に楽しそうで良かったですわ。
 あまりにあっさりと終わったら、レオが欲求不満になりますもの。
 そのつけを払うのはなぜか、私ですし。
 『あ~ん』と食べさせるくらいでは微々たるものらしく、夜払わせられるんですのよ?
 次の日、目の下に隈ですのよ?
 少々、取り乱しましたわ。
 嫌な訳ではないのです、ただ激しくて、疲れるだけで……えぇ?
 また、考えが脱線してますわね。

 そうそう。
 フリアエのお話だったかしら?
 闇の魔法力を一気に流してから、フリアエが第二形態に進化した可能性が高いのです。
 篭手がやや大型化して、三本の鉤爪のような物が伸びていますし、翼は大きくなっただけではなく、紫色の光の粒子で構成された半透明の不思議な形状に変わりました。
 また、ドラゴンの尾によく似た尻尾のような形状の器官が腰アーマーのお尻の部分から、伸びています。
 その先端は三つ又の槍みたいですし、これはもしかして……使えるのではありません?

「レーオー、新しいのが試せますわ。試したいかしら?」
「いいね、それ! やってみようよ」

 レオは新しい玩具を手に入れた子供みたいで無邪気ですわ。
 その様子だけなら、かわいらしくて抱きしめたいくらいなのですけど、実際には抱き締められて、抱き潰される側ですもの。
 今もしっかりと手は握り合っていますし、指も絡め合っていて、余所見は許されません。

意地悪な尻尾ボースハフト・シュヴァンツ、いきますわ」

 三つ又の先端が一直線に地表に立つ大司教ビショップ目掛けて、突き進んでいきました。
 あらあら?
 これはまた、どういう原理なのでしょう。
 私の愛剣オートクレールもどこまでも伸縮自在な刀身を持っているのですが原理は解明されていません。
 不思議ではあるのですが、あの刀身、実は魔力が顕在化しただけなのです。
 だから、まだ納得が出来るのですが……。
 この尻尾は不可思議ですわ。
 伸びて、突き刺して、また元に戻ってますもの。
 適当に狙ったのですけど、大司教ビショップのお腹に大穴が開いてしまったようです。

「威力はまあまあだね。あれじゃ、普通は戦闘継続無理そうだけど」
「え、ええ。普通ではありませんもの」
「それじゃ、白兵戦に限るねっ!」

 本当、楽しそうで良かったですわ。
 生き生きとしてますもの。
 でも、ターニャの方は大丈夫なのかしら?
 ク・ホリンは複雑な動きを行わせるのが無理ですから、早々に退がらせましたけど。
 あの子のことだから、無理しそうで心配ですわ。

 🤖 🤖 🤖

「何なの? また、光った!?」

 本能的な危機を感じたタチアナは咄嗟に左で構えていたハヤトをグッと押し出すように構え直す。
 大司教ビショップの両眼から、放たれた光条がハヤトを直撃し、特殊な魔法の付与により、防御コーティングが施された表面がズタズタに切り裂かれていた。
 それだけではない。
 捌ききれなかった光条がヤマトの肩や脛を掠め、強固な装甲を切り裂いている。

「このちょこまかと!」

 ヤマトも決して、防御に徹している訳ではない。
 強靭な素材にコーティングが施されたハヤトで身を守りながら、間合いを詰めるとムラクモを振るい、目前のずんぐりむっくりとした大司教ビショップを捉えようと動いていたのだ。
 しかし、見た目に反し、軽快な動きを見せる大司教ビショップは下から斬り上げようと狙おうにも一気に間合いを詰める突きを放とうにも難なく、避けてしまう。
 空を飛べないヤマトと異なり、地に足を付けることなくホバリングで移動し、自由に飛行出来る大司教ビショップはそれだけで優位に立っているのだ。
 ふわふわと宙に浮かぶさまはまるで目前で戸惑うヤマトを挑発しているようにも見えた。

「卑怯よ、降りてきなさいよ」

 タチアナの心は言い知れぬ不安に苛まれていた。
 このままでは何も出来ないまま、いずれ、動けなくなったところで止めを刺されるだろう。
 アルフィンでの暮らしで魔力の使い方を教えてもらい、以前とは比べ物にならないくらい長時間、ヤマトを稼働出来るようになったタチアナだが魔力は無限ではない。
 どちらが先にエネルギーが尽きるのか?
 このままではまずい、そう思った時、タチアナの頭にたどたどしい喋り方の声が響いた。

「し…ら……とり? しらとり? ヤマト! シラトリを」

 ドクンと強い鼓動を胸で感じ、タチアナはその衝撃に気を失いそうになる。
 全身から、力を吸い取られる感覚が凄まじく、『まるで命を吸い出されているみたい』と感じていた。
 『怖がらないで』と何かが薄っすらと訴えてくる。
 タチアナは恐怖よりも親しみを感じ、『怖くないよ。あなたも怖がらないで』と……。
 手と手が触れあって、温もりを確かに感じた瞬間、現実に引き戻されたタチアナは視界に映るヤマトの姿に若干の違和感に気付いた。

「何か……大きくなってない?」

 全高10メートル少々だったヤマトが一回り、大きくなっていた。
 脛当てや篭手が大型化し、肩部を覆っていた装甲がより大きな物へと変化している。
 それだけではなく、大きな宝石のような物が肩を飾るように出現していた。
 しかし、何よりも変化したのはその背中だろう。

「これは翼!? 飛べるってこと?」

 タチアナの頭の中で『ギャギャ』と奇妙な笑い声が響いた。
 不思議とそこに不快感は感じられなし。
 むしろ、懐かしさを感じるような意味の分からない感情。
 漠然としているものの確固たる想いがタチアナの中に満ちる。

「勝てる……わたしは……わたし達なら勝てる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

転生お姫様の困ったお家事情

meimei
恋愛
前世は地球の日本国、念願の大学に入れてとても充実した日を送っていたのに、目が覚めたら 異世界のお姫様に転生していたみたい…。 しかも……この世界、 近親婚当たり前。 え!成人は15歳なの!?私あと数日で成人じゃない?!姫に生まれたら兄弟に嫁ぐ事が慣習ってなに?! 主人公の姫 ララマリーアが兄弟達に囲い込まれているのに奮闘する話です。 男女比率がおかしい世界 男100人生まれたら女が1人生まれるくらいの 比率です。 作者の妄想による、想像の産物です。 登場する人物、物、食べ物、全ての物が フィクションであり、作者のご都合主義なので 宜しくお願い致します。 Hなシーンなどには*Rをつけます。 苦手な方は回避してくださいm(_ _)m エールありがとうございます!! 励みになります(*^^*)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

処理中です...