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第3章 戦火のオルレーヌ王国
第98話 復讐の時来たりて、女王は翼を広げん
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大きく振りかぶって、叩きつけたムラクモの一撃。
当たれば、いけると思ったんだけど、あっさり避けられた。
そうだよね。
ヤマトがこれだけ、軽やかに動けるんだから、同じような姿してる赤いのだって、そう動けて、おかしくない。
当然、ムラクモは勢いそのままに大地に当たってしまう訳でこのままだとまずいって思った。
唯一の武器を空振りしちゃって、無防備になるんだから。
格闘技の心得は護身術程度しかないわたしでも分かる。
「うわあ」
信じられないことが起きた。
ムラクモが当たった場所を起点に大地に蜘蛛の巣のような亀裂が入って、崩れ始めたのだ。
信じられないことにヤマトは崩れかけた大地を思い切り蹴って、飛び退った。
え?空を飛んだ!?ってくらいに後ろに下がってた。
わたしが無意識にやっちゃったんだろうか?
信じられない……。
あの赤いのも同じ動きをしたみたい。
ヤマトとくほりん?だっけの間は簡単に超えられそうにない大きな穴が開いていた。
全てを呑み込むくらいに大きな穴。
真っ暗で底が見えない。
まるで昔話に出てくる冥府に続く大穴みたいだった。
🦊 🦊 🦊
今までにないくらいの派手な音がしました。
どちらかの魔動騎士が武器を振るったとみて、間違いないでしょう。
『ではそろそろ、参りましょうか?』とまだ、事態を把握していない二人を促し、馬車から降ります。
降りて、数秒もしないうちに横抱きに抱えられたのは解せませんけど。
ニールはまだ、寝ぼけ眼を擦っていて、寝足りない様子なのでアンがおんぶしてくれるようです。
これで移動は問題ありませんわね。
馬車を収納に片付けてから、大地に開いてる大穴へと向かいます。
「リーナ、ここを行くのかな?」
レオは『本当に行くの?』とでも言いたげな表情をしているのですけど、その気持ちが分からないでもありません。
大穴は底が見えないほどにどこまでも暗く、深いのです。
冥府まで続いているなどと考える人が出てもおかしくないですわ。
実際に冥府が存在しているのは異なる次元です。
うっかり落ちたら、死ぬほど痛いか、命を失うのは間違いないですわね。
「はい。何か、問題でも?大丈夫ですわ。この下にあるはずですから」
レオとアンの身体能力があれば、底が見えない穴に落ちても難なく着地しそうですけど、念の為に浮遊の魔法をかけます。
「浮遊をかけましたので大丈夫ですわ」
「あ、うん」
乗り気でないのがもろに顔に出ているところに彼の素直な面が良く表れています。
その様子は獅子なのに散歩に行きたいのに『行かないよ』と前足を踏ん張る仔犬のようで、とてもかわいいのです。
思わず、頭を撫でて髪をわしゃわしゃとたくなる衝動が湧いてきますがグッと我慢します。
今はお姫様抱っこされていて、危ないのですから。
浮遊の欠点はふわふわと綿帽子のようにゆったりと落ちていくことかしら?
折角ですから、この落下時間を利用しない手はありません。
とはいえ、魔法の光で周囲を照らしても特に面白みのない地層が見えるだけです。
これといって、糧にならないですわ。
穴の底はまだ黒々と底が見えていませんし……。
そうしますとレオとお喋りですわね。
「魔動兵に使われている素材は何でしょう?」
「魔物だよね?壊れたのを見た感じだと外殻だけじゃなくて、骨や筋肉も使っているかな」
「計画書にも歩兵や戦車にはそれらを使うとありましたもの。レオはよく見てらっしゃったのね」
ちょっと褒めると『へへっ』と得意気な顔になるところも仔犬のようでかわいいですわ。
「でも、騎士や大司教、それに女王はちょっと違いますのよ?」
「竜素材を使っているんだっけ?」
「ええ、竜は魔物と呼ばれる幻獣の中でも別格の強さを誇る生物ですもの。名を馳せた英雄も竜の鱗を使った鎧を身に付けていたそうですわ」
「へえ。やっぱ、ドラゴンのってだけで違うもんなんだ」
興味津々で好奇心いっぱいの表情を隠さず、純真で無垢なところは年相応のかわいらしさに溢れてますのね?
夜は獣……いえ、考えない方がいいですわね。
今は真面目な話に集中しませんとうっかり、口に出してしまいそうですわ。
「ですが、それ以上に問題な部分がありますのよ?」
「心臓かな?」
「はい、人造の魔動心臓が動力源となっているのですけど…」
魔動心臓は魔力を生み出す器官で心臓を覆うように魔力の層が構成されることから、その名が付いたと言われています。
魔導師と呼ばれる存在はこの器官があるからこそ、常人よりも高い魔力を持つのです。
それを人工的に作りだそうとする場合、何が必要となるか。
魂?
それでは漠然としていますから、命そのものとでも言うべきかしら?
歩兵と戦車は量産が前提だったから、魔物を使って製造したようですけど……
「着いたようだね」
レオの顔を見て、お喋りしているうちに着いているなんて。
もう少し、気を引き締めないと油断し過ぎたかしら?
「凄いですねぇ。まるで神殿みたい」
ポカンと口を大きく開き、大きな目をさらに大きく見開くアンの姿を見たら、知らない人は普段とのあまりのギャップに驚くことでしょう。
クールビューティーですまし顔をしているのもアンですし、表情豊かでお喋り好きな明るいアンもどちらも魅力的ですわ。
彼女が一番の友人であることに違いはありませんもの。
「ここに女王が眠ってるって?」
「ええ。復讐の時来たりて、女王は翼を広げん」
計画を立案し、主導したのは恐らく、女王その人。
女王に使われている素材はこれまでと一線を画した物。
そう計画書にはありましたけど、私の考えが当たっていれば、それが意味するものは……。
当たれば、いけると思ったんだけど、あっさり避けられた。
そうだよね。
ヤマトがこれだけ、軽やかに動けるんだから、同じような姿してる赤いのだって、そう動けて、おかしくない。
当然、ムラクモは勢いそのままに大地に当たってしまう訳でこのままだとまずいって思った。
唯一の武器を空振りしちゃって、無防備になるんだから。
格闘技の心得は護身術程度しかないわたしでも分かる。
「うわあ」
信じられないことが起きた。
ムラクモが当たった場所を起点に大地に蜘蛛の巣のような亀裂が入って、崩れ始めたのだ。
信じられないことにヤマトは崩れかけた大地を思い切り蹴って、飛び退った。
え?空を飛んだ!?ってくらいに後ろに下がってた。
わたしが無意識にやっちゃったんだろうか?
信じられない……。
あの赤いのも同じ動きをしたみたい。
ヤマトとくほりん?だっけの間は簡単に超えられそうにない大きな穴が開いていた。
全てを呑み込むくらいに大きな穴。
真っ暗で底が見えない。
まるで昔話に出てくる冥府に続く大穴みたいだった。
🦊 🦊 🦊
今までにないくらいの派手な音がしました。
どちらかの魔動騎士が武器を振るったとみて、間違いないでしょう。
『ではそろそろ、参りましょうか?』とまだ、事態を把握していない二人を促し、馬車から降ります。
降りて、数秒もしないうちに横抱きに抱えられたのは解せませんけど。
ニールはまだ、寝ぼけ眼を擦っていて、寝足りない様子なのでアンがおんぶしてくれるようです。
これで移動は問題ありませんわね。
馬車を収納に片付けてから、大地に開いてる大穴へと向かいます。
「リーナ、ここを行くのかな?」
レオは『本当に行くの?』とでも言いたげな表情をしているのですけど、その気持ちが分からないでもありません。
大穴は底が見えないほどにどこまでも暗く、深いのです。
冥府まで続いているなどと考える人が出てもおかしくないですわ。
実際に冥府が存在しているのは異なる次元です。
うっかり落ちたら、死ぬほど痛いか、命を失うのは間違いないですわね。
「はい。何か、問題でも?大丈夫ですわ。この下にあるはずですから」
レオとアンの身体能力があれば、底が見えない穴に落ちても難なく着地しそうですけど、念の為に浮遊の魔法をかけます。
「浮遊をかけましたので大丈夫ですわ」
「あ、うん」
乗り気でないのがもろに顔に出ているところに彼の素直な面が良く表れています。
その様子は獅子なのに散歩に行きたいのに『行かないよ』と前足を踏ん張る仔犬のようで、とてもかわいいのです。
思わず、頭を撫でて髪をわしゃわしゃとたくなる衝動が湧いてきますがグッと我慢します。
今はお姫様抱っこされていて、危ないのですから。
浮遊の欠点はふわふわと綿帽子のようにゆったりと落ちていくことかしら?
折角ですから、この落下時間を利用しない手はありません。
とはいえ、魔法の光で周囲を照らしても特に面白みのない地層が見えるだけです。
これといって、糧にならないですわ。
穴の底はまだ黒々と底が見えていませんし……。
そうしますとレオとお喋りですわね。
「魔動兵に使われている素材は何でしょう?」
「魔物だよね?壊れたのを見た感じだと外殻だけじゃなくて、骨や筋肉も使っているかな」
「計画書にも歩兵や戦車にはそれらを使うとありましたもの。レオはよく見てらっしゃったのね」
ちょっと褒めると『へへっ』と得意気な顔になるところも仔犬のようでかわいいですわ。
「でも、騎士や大司教、それに女王はちょっと違いますのよ?」
「竜素材を使っているんだっけ?」
「ええ、竜は魔物と呼ばれる幻獣の中でも別格の強さを誇る生物ですもの。名を馳せた英雄も竜の鱗を使った鎧を身に付けていたそうですわ」
「へえ。やっぱ、ドラゴンのってだけで違うもんなんだ」
興味津々で好奇心いっぱいの表情を隠さず、純真で無垢なところは年相応のかわいらしさに溢れてますのね?
夜は獣……いえ、考えない方がいいですわね。
今は真面目な話に集中しませんとうっかり、口に出してしまいそうですわ。
「ですが、それ以上に問題な部分がありますのよ?」
「心臓かな?」
「はい、人造の魔動心臓が動力源となっているのですけど…」
魔動心臓は魔力を生み出す器官で心臓を覆うように魔力の層が構成されることから、その名が付いたと言われています。
魔導師と呼ばれる存在はこの器官があるからこそ、常人よりも高い魔力を持つのです。
それを人工的に作りだそうとする場合、何が必要となるか。
魂?
それでは漠然としていますから、命そのものとでも言うべきかしら?
歩兵と戦車は量産が前提だったから、魔物を使って製造したようですけど……
「着いたようだね」
レオの顔を見て、お喋りしているうちに着いているなんて。
もう少し、気を引き締めないと油断し過ぎたかしら?
「凄いですねぇ。まるで神殿みたい」
ポカンと口を大きく開き、大きな目をさらに大きく見開くアンの姿を見たら、知らない人は普段とのあまりのギャップに驚くことでしょう。
クールビューティーですまし顔をしているのもアンですし、表情豊かでお喋り好きな明るいアンもどちらも魅力的ですわ。
彼女が一番の友人であることに違いはありませんもの。
「ここに女王が眠ってるって?」
「ええ。復讐の時来たりて、女王は翼を広げん」
計画を立案し、主導したのは恐らく、女王その人。
女王に使われている素材はこれまでと一線を画した物。
そう計画書にはありましたけど、私の考えが当たっていれば、それが意味するものは……。
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