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第3章 戦火のオルレーヌ王国
閑話10 その夜、わたしの日常は終わった Side タチアナ
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隊商が関所で止められ、襲撃を受ける直前までのタチアナの回想です
◆ ◇ ◆ ◇
わたしはタチアナ・オレル。
お父さんは商会の会頭をやってて、いつも忙しい。
たまに顔を合わせても『何をしに来た?帰れ』って言う。
呼ばれたから、来たのに『帰れ』ってどういうことなのよ。
あまりに『帰れ』しか、言わないんでお父さんはそれしか、喋れない生き物だって思うことにした。
だけどお父さんは悪い人じゃないって、分かってるし、知ってる。
すごく不器用なだけで本当は優しいんだ。
『帰れ』って言ってるのに俯いた口許が緩んでいるのに本人は気付いてない。
お母さん?
お母さんはどんな人だったか、全く覚えてない。
覚えてないっていうのは正しくないかな。
知らないのだ。
知らないから、会いたいとも思わないわたしはやっぱり、お父さんの娘なんだなって、改めて気付く。
本当は会いたくても心にもないことを言っちゃうんだよね。
こんな不器用なとこだけ、似ちゃってごめんね。
そして、彼らに出会った。
商会の大仕事で巨大な積荷を遠く、オルレーヌ王国の都まで運ばないといけないらしい。
オルレーヌはお父さんの故郷だ。
どこか遠い目をしながらも柔らかな表情をしたお父さんが珍しくて、よく覚えてる。
何でもその積荷がかなりの貴重品みたい。
道中の安全の為に冒険者ギルドに護衛を依頼しないといけないなんて、初めてのことだった。
うちの商会は自衛手段への拘りが強くて、普段の商いでは護衛依頼を出す必要がないのだ。
依頼を受けて、やって来た冒険者は思った以上に若い人達でわたしとそんなに年齢が変わらないように見える。
うちの商会にわたしと近い年齢の人はいない。
商会の皆は甘やかしてくれる。
だけど、それだけじゃ、何か、満たされないのだ。
これは我儘なのかな?
友達が欲しい……。
同じ目線でお話したり、遊んだり、色んなことをしたいのだ。
友達になれるかな?
友達なんて空想上の生き物と考えていたわたしに神さまが与えてくれたチャンスって考えてもいいのかな?
チャンスだって思ったんだけど……。
わたしには無理だったのだ。
話しかけようとすると顔が熱出たみたいに熱くなるし、声を掛けようとすると「あ、あ、あののの」って挙動不審の極みなのだ。
こんなので友達になんて、なれる訳ない。
いつものようにいじけて、膝を抱えて座り込んでふと空を見上げると夜空には星々が瞬いていた。
その美しさに見惚れて、あまりに集中していたせいか、彼女がすぐ側まで近付いてるのに気付かなかったのだ。
「あなた、大丈夫?」
鈴の鳴るような声に視線を上げるとルビーみたいに輝く瞳がわたしを見つめているのだ。
彼女はフードを目深に被っていて、気付かなかった。
スゴクきれいな色の目だ。
それにおとぎ話に出てくるお姫様みたいにきれいな顔がチラッと見えて。
びっくりして思わず呆けてしまった。
そして、突然の強い眠気に襲われた。
抵抗を許されない、どうしようもない眠気だ。
昏い水の底に沈んでいくような感覚とともにプッツンと意識が途切れた。
最後に聞こえたのは『……魔…………強す……危……それ……王……血…………』って、彼女の小さな呟きだった。
その夜の出来事がきっかけになって、リリスさんと仲良くなれた。
わたしの生まれて初めての友達。
リリスさんはわたしと同じくらいの年齢かと思ってたら、三歳上の十七歳……お姉さんだ。
喋り方も仕草もどことなく上品でお嬢さまぽいリリスさんだけど、本当にお嬢さま……ううん、お姫さまだった。
彼女は魔法にかなり詳しくて、それまで魔法に触れたことのないわたしには初めて体験することが多い。
ただただ驚くばかりだけど、楽しくて。
友達って、いいものだって、思った。
彼女の話ではわたしの魔力量は人よりも多いらしい。
気を付けた方がいいって、魔力の扱い方も教えてくれた。
それで練習したんだけど、わたしは要領が悪いのか、つい魔力を使い切ってしまうのだ。
これは早く、どうにかしないといけないよね。
魔法使ったら気絶!なんて、かっこ悪すぎるもん。
オルレーヌの関所で止められた。
それじゃなくても険しい顔をしてるお父さんの顔がさらに難しい顔になった。
今日は天幕で夜を過ごすことになりそうだ。
快適とは程遠い寝心地なんだけど、楽しみなこともある。
リリスさんとアンさん、それにニールちゃんと一緒に寝ることになったのだ。
町に滞在してる時は宿だから、こういうことが出来なかったんだよね。
それだけが天幕のいいところかな。
でも、今まで一度もそんなことなかったのにおかしい。
あの積荷のせい?
変なことが起きたり、しないよね?
そして、一人で魔力を練る練習をしていた時、こんなところで感じるはずが無い異常な熱風に目をやった。
そこには信じられない光景が広がっていた。
勢いよく燃え上がる炎はわたしの知っているものを全て、消し去っていく。
これは夢?
違う!
夢じゃないんだ……。
その夜、わたしの日常は終わった。
◆ ◇ ◆ ◇
わたしはタチアナ・オレル。
お父さんは商会の会頭をやってて、いつも忙しい。
たまに顔を合わせても『何をしに来た?帰れ』って言う。
呼ばれたから、来たのに『帰れ』ってどういうことなのよ。
あまりに『帰れ』しか、言わないんでお父さんはそれしか、喋れない生き物だって思うことにした。
だけどお父さんは悪い人じゃないって、分かってるし、知ってる。
すごく不器用なだけで本当は優しいんだ。
『帰れ』って言ってるのに俯いた口許が緩んでいるのに本人は気付いてない。
お母さん?
お母さんはどんな人だったか、全く覚えてない。
覚えてないっていうのは正しくないかな。
知らないのだ。
知らないから、会いたいとも思わないわたしはやっぱり、お父さんの娘なんだなって、改めて気付く。
本当は会いたくても心にもないことを言っちゃうんだよね。
こんな不器用なとこだけ、似ちゃってごめんね。
そして、彼らに出会った。
商会の大仕事で巨大な積荷を遠く、オルレーヌ王国の都まで運ばないといけないらしい。
オルレーヌはお父さんの故郷だ。
どこか遠い目をしながらも柔らかな表情をしたお父さんが珍しくて、よく覚えてる。
何でもその積荷がかなりの貴重品みたい。
道中の安全の為に冒険者ギルドに護衛を依頼しないといけないなんて、初めてのことだった。
うちの商会は自衛手段への拘りが強くて、普段の商いでは護衛依頼を出す必要がないのだ。
依頼を受けて、やって来た冒険者は思った以上に若い人達でわたしとそんなに年齢が変わらないように見える。
うちの商会にわたしと近い年齢の人はいない。
商会の皆は甘やかしてくれる。
だけど、それだけじゃ、何か、満たされないのだ。
これは我儘なのかな?
友達が欲しい……。
同じ目線でお話したり、遊んだり、色んなことをしたいのだ。
友達になれるかな?
友達なんて空想上の生き物と考えていたわたしに神さまが与えてくれたチャンスって考えてもいいのかな?
チャンスだって思ったんだけど……。
わたしには無理だったのだ。
話しかけようとすると顔が熱出たみたいに熱くなるし、声を掛けようとすると「あ、あ、あののの」って挙動不審の極みなのだ。
こんなので友達になんて、なれる訳ない。
いつものようにいじけて、膝を抱えて座り込んでふと空を見上げると夜空には星々が瞬いていた。
その美しさに見惚れて、あまりに集中していたせいか、彼女がすぐ側まで近付いてるのに気付かなかったのだ。
「あなた、大丈夫?」
鈴の鳴るような声に視線を上げるとルビーみたいに輝く瞳がわたしを見つめているのだ。
彼女はフードを目深に被っていて、気付かなかった。
スゴクきれいな色の目だ。
それにおとぎ話に出てくるお姫様みたいにきれいな顔がチラッと見えて。
びっくりして思わず呆けてしまった。
そして、突然の強い眠気に襲われた。
抵抗を許されない、どうしようもない眠気だ。
昏い水の底に沈んでいくような感覚とともにプッツンと意識が途切れた。
最後に聞こえたのは『……魔…………強す……危……それ……王……血…………』って、彼女の小さな呟きだった。
その夜の出来事がきっかけになって、リリスさんと仲良くなれた。
わたしの生まれて初めての友達。
リリスさんはわたしと同じくらいの年齢かと思ってたら、三歳上の十七歳……お姉さんだ。
喋り方も仕草もどことなく上品でお嬢さまぽいリリスさんだけど、本当にお嬢さま……ううん、お姫さまだった。
彼女は魔法にかなり詳しくて、それまで魔法に触れたことのないわたしには初めて体験することが多い。
ただただ驚くばかりだけど、楽しくて。
友達って、いいものだって、思った。
彼女の話ではわたしの魔力量は人よりも多いらしい。
気を付けた方がいいって、魔力の扱い方も教えてくれた。
それで練習したんだけど、わたしは要領が悪いのか、つい魔力を使い切ってしまうのだ。
これは早く、どうにかしないといけないよね。
魔法使ったら気絶!なんて、かっこ悪すぎるもん。
オルレーヌの関所で止められた。
それじゃなくても険しい顔をしてるお父さんの顔がさらに難しい顔になった。
今日は天幕で夜を過ごすことになりそうだ。
快適とは程遠い寝心地なんだけど、楽しみなこともある。
リリスさんとアンさん、それにニールちゃんと一緒に寝ることになったのだ。
町に滞在してる時は宿だから、こういうことが出来なかったんだよね。
それだけが天幕のいいところかな。
でも、今まで一度もそんなことなかったのにおかしい。
あの積荷のせい?
変なことが起きたり、しないよね?
そして、一人で魔力を練る練習をしていた時、こんなところで感じるはずが無い異常な熱風に目をやった。
そこには信じられない光景が広がっていた。
勢いよく燃え上がる炎はわたしの知っているものを全て、消し去っていく。
これは夢?
違う!
夢じゃないんだ……。
その夜、わたしの日常は終わった。
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