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第2章 自由都市リジュボー
第63話 審判を与えるとしましょう
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「ナムタル、例の物を…」
呼びかけに応じ、地面から赤い光を発しながら、描かれていく五芒星の魔法陣から、ジャッカルの頭部を持つ異形の男が現れます。
冥界を司る一柱、冥府の宰相ナムタル。
私がまだ、エレシュキガルと呼ばれていた時代、実務を一手に引き受けてくれた有能な官僚です。
彼がいなければ、『暇だから』という理由で魔法研究に没頭することは出来なかったでしょう。
そんなナムタルの手にあるのは希少な金属を持って、今は失われた技術で精製された魔道具です。
冥府から、持ってきてくれるように頼んだのはこの魔道具なのです。
「陛下、照魔鏡。ここに」
面倒なことですけれど、ナムタルからは未だに陛下と呼ばれるのです。
こればかりは何度やめるように頼んでも直りませんから、もう諦めましたわ。
レオとアンはこの展開に少々、驚いているのかしら?
私への信頼から、全てを任せ、見守ってくれましたけど、まさかナムタルという神の一柱が召喚されてくるとは思ってなかったでしょう。
「掲げよ」
ナムタルが頭上に掲げた照魔鏡の鏡面から、七色の光が放たれていき、蹲るワンピースの女性を煌々と照らします。
光で照らされている以上、当然のように影が生じます。
光あるところ影あり、ですもの。
ただ、それが普通の影ではないのが照魔鏡の特徴なのです。
照魔鏡の本来の役目は冥府に送られてきた死者の罪を照らし、その罪の重さを明らかにすること。
その清らかな光に照らされるとそれまでに犯してきた罪に応じて、色々と面白いモノが見られるのよね。
では、その光を混沌に属するモノが身体に巣食う人に向ければ、どうなるのでしょう?
「リーナ、無理しちゃダメだよ」
レオにもたれかかっていたのですけど、自分が思っていた以上に足にきていたようです。
彼は思っている以上に心配性なのよね。
目の前で不可思議なことが起きてるのだから、警戒を緩めてはいけない状況です。
それなのに私の為にデュランダルを鞘に納めてしまうんですもの。
それも私を横抱きに抱える為なのですから、心配性にもほどがありますわ。
ただ、こうなるとすぐに動けるのはアンだけになりますわね。
「アン、あの方をお願い」
「はい、お嬢さま!」
アンは言葉を発するのとほぼ同時に身体を動かしています。
まさにメイドの鑑ですわ。
あの動きはメイドというより、別の道の玄人にしか見えませんけれど、気にしてはいけません。
「ありがとう、アン」
女性は七色の光を浴びた途端、「うっ」という苦しむような呻き声を上げ、うつ伏せに倒れかけますが地面に着く前にアンが楽々と小脇に抱えます。
さすがはアンですわね。
全く息も切らさず、既に後ろに控えているんですもの。
これが私のアンですのよ?
実に誇らしいですわ。
ただ、顔に締まりがないのがちょっとだけですが気になりますわね。
見なかったことにしておきましょう。
「ではあのモノに審判を与えるとしましょう」
レオに抱えられたままというのが少々、かっこが付きませんわ。
でも、まともに立っていることが出来ないので仕方ないですわね。
あのモノに効果的なのは光属性で間違いないはず。
なら、この魔法を発動させれば、いいかしら?
「輝ける投槍」
「リーナ。ちょっとやりすぎじゃない?」
レオの声にちょっと呆れの色が入ってますわね。
ですが、念には念を入れませんといけませんわ。
髪の毛一本残さず、消し去るべし!ですわ。
照魔鏡の光に照らされて、宿主である女性から切り離されたのは闇色のモノ。
内臓を露出させた醜悪で世にも悍ましい姿を濡れ羽色に染め上げたこの世に存在してはいけないモノです。
混沌に属するモノで確か、食屍鬼の一種。
好物は生物の脳で特に人間の物が大好物、だったかしらね。
名前が思い出せませんわ。
「あの姿を見ているだけで鳥肌が立ってくるんですのよ?完全に消し去りませんとこの不安は消えないと思いますの」
照魔鏡の力で宿主から剥がされただけではなく、身動き一つ出来ないよう拘束されている今が好機ですわ。
食屍鬼(仮)を目標として、狙いを定めている輝ける投槍は洞穴の暗闇全てを打ち払うのに十分な光量を保ちます。
輝ける投槍は光の魔力を具現化した破壊魔法の一種です。
およそ二メートルほどの光の魔力で生成された鋭い槍を攻撃対象に投じる初歩的で使い勝手のいい魔法でもあります。
一本だけでは光とはいえ、ぼんやりとした光量しかないのですけど、数えるのも面倒なくらいの数の槍を出現させていますから、とても明るいですわ。
「我が敵を穿て」
私の言葉に応じて、数多の光の槍が照魔鏡に拘束された食屍鬼(仮)へと一斉に襲い掛かっていきました。
360度全方位から投擲されるのですから、全身ハリネズミよりも酷い状態なのは間違いないでしょう。
金色の美しい槍で串刺しかつ滅多刺しにした訳ですけど、串刺しにしたくてしているのではありません。
私、サディストではないですもの。
「そうだよね。リーナって、どっちかというとMだよね?」
「違いますぅ!」
話が脱線しましたわ。
食屍鬼(仮)をもっとも効果的に討ち滅ぼす方法を考えるとこれが最適解だったに過ぎないのです。
吐き気を催した恨みを込めてないか、ですって?
ないとは言い切れませんわね。
「ねえ、リーナ。消滅したけど?」
「えっ?」
光の槍で全身をあまねく刺し貫かれた食屍鬼(仮)は鼠や魚などの混沌勢と同じく、何も残さず消えてしまいました。
そういえば、忘れてましたわ。
混沌に属する生物は黒い瘴気だけを残し、消えてしまうのよね。
全面的に私の失態ですわね…。
依頼内容を失念して、つい本気を出してしまったんですもの。
連続殺人犯の物的証拠が無くなったのです。
これでは依頼が失敗になりますわ。
さて、どうするべきかしら?
呼びかけに応じ、地面から赤い光を発しながら、描かれていく五芒星の魔法陣から、ジャッカルの頭部を持つ異形の男が現れます。
冥界を司る一柱、冥府の宰相ナムタル。
私がまだ、エレシュキガルと呼ばれていた時代、実務を一手に引き受けてくれた有能な官僚です。
彼がいなければ、『暇だから』という理由で魔法研究に没頭することは出来なかったでしょう。
そんなナムタルの手にあるのは希少な金属を持って、今は失われた技術で精製された魔道具です。
冥府から、持ってきてくれるように頼んだのはこの魔道具なのです。
「陛下、照魔鏡。ここに」
面倒なことですけれど、ナムタルからは未だに陛下と呼ばれるのです。
こればかりは何度やめるように頼んでも直りませんから、もう諦めましたわ。
レオとアンはこの展開に少々、驚いているのかしら?
私への信頼から、全てを任せ、見守ってくれましたけど、まさかナムタルという神の一柱が召喚されてくるとは思ってなかったでしょう。
「掲げよ」
ナムタルが頭上に掲げた照魔鏡の鏡面から、七色の光が放たれていき、蹲るワンピースの女性を煌々と照らします。
光で照らされている以上、当然のように影が生じます。
光あるところ影あり、ですもの。
ただ、それが普通の影ではないのが照魔鏡の特徴なのです。
照魔鏡の本来の役目は冥府に送られてきた死者の罪を照らし、その罪の重さを明らかにすること。
その清らかな光に照らされるとそれまでに犯してきた罪に応じて、色々と面白いモノが見られるのよね。
では、その光を混沌に属するモノが身体に巣食う人に向ければ、どうなるのでしょう?
「リーナ、無理しちゃダメだよ」
レオにもたれかかっていたのですけど、自分が思っていた以上に足にきていたようです。
彼は思っている以上に心配性なのよね。
目の前で不可思議なことが起きてるのだから、警戒を緩めてはいけない状況です。
それなのに私の為にデュランダルを鞘に納めてしまうんですもの。
それも私を横抱きに抱える為なのですから、心配性にもほどがありますわ。
ただ、こうなるとすぐに動けるのはアンだけになりますわね。
「アン、あの方をお願い」
「はい、お嬢さま!」
アンは言葉を発するのとほぼ同時に身体を動かしています。
まさにメイドの鑑ですわ。
あの動きはメイドというより、別の道の玄人にしか見えませんけれど、気にしてはいけません。
「ありがとう、アン」
女性は七色の光を浴びた途端、「うっ」という苦しむような呻き声を上げ、うつ伏せに倒れかけますが地面に着く前にアンが楽々と小脇に抱えます。
さすがはアンですわね。
全く息も切らさず、既に後ろに控えているんですもの。
これが私のアンですのよ?
実に誇らしいですわ。
ただ、顔に締まりがないのがちょっとだけですが気になりますわね。
見なかったことにしておきましょう。
「ではあのモノに審判を与えるとしましょう」
レオに抱えられたままというのが少々、かっこが付きませんわ。
でも、まともに立っていることが出来ないので仕方ないですわね。
あのモノに効果的なのは光属性で間違いないはず。
なら、この魔法を発動させれば、いいかしら?
「輝ける投槍」
「リーナ。ちょっとやりすぎじゃない?」
レオの声にちょっと呆れの色が入ってますわね。
ですが、念には念を入れませんといけませんわ。
髪の毛一本残さず、消し去るべし!ですわ。
照魔鏡の光に照らされて、宿主である女性から切り離されたのは闇色のモノ。
内臓を露出させた醜悪で世にも悍ましい姿を濡れ羽色に染め上げたこの世に存在してはいけないモノです。
混沌に属するモノで確か、食屍鬼の一種。
好物は生物の脳で特に人間の物が大好物、だったかしらね。
名前が思い出せませんわ。
「あの姿を見ているだけで鳥肌が立ってくるんですのよ?完全に消し去りませんとこの不安は消えないと思いますの」
照魔鏡の力で宿主から剥がされただけではなく、身動き一つ出来ないよう拘束されている今が好機ですわ。
食屍鬼(仮)を目標として、狙いを定めている輝ける投槍は洞穴の暗闇全てを打ち払うのに十分な光量を保ちます。
輝ける投槍は光の魔力を具現化した破壊魔法の一種です。
およそ二メートルほどの光の魔力で生成された鋭い槍を攻撃対象に投じる初歩的で使い勝手のいい魔法でもあります。
一本だけでは光とはいえ、ぼんやりとした光量しかないのですけど、数えるのも面倒なくらいの数の槍を出現させていますから、とても明るいですわ。
「我が敵を穿て」
私の言葉に応じて、数多の光の槍が照魔鏡に拘束された食屍鬼(仮)へと一斉に襲い掛かっていきました。
360度全方位から投擲されるのですから、全身ハリネズミよりも酷い状態なのは間違いないでしょう。
金色の美しい槍で串刺しかつ滅多刺しにした訳ですけど、串刺しにしたくてしているのではありません。
私、サディストではないですもの。
「そうだよね。リーナって、どっちかというとMだよね?」
「違いますぅ!」
話が脱線しましたわ。
食屍鬼(仮)をもっとも効果的に討ち滅ぼす方法を考えるとこれが最適解だったに過ぎないのです。
吐き気を催した恨みを込めてないか、ですって?
ないとは言い切れませんわね。
「ねえ、リーナ。消滅したけど?」
「えっ?」
光の槍で全身をあまねく刺し貫かれた食屍鬼(仮)は鼠や魚などの混沌勢と同じく、何も残さず消えてしまいました。
そういえば、忘れてましたわ。
混沌に属する生物は黒い瘴気だけを残し、消えてしまうのよね。
全面的に私の失態ですわね…。
依頼内容を失念して、つい本気を出してしまったんですもの。
連続殺人犯の物的証拠が無くなったのです。
これでは依頼が失敗になりますわ。
さて、どうするべきかしら?
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