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幕間 大海原を往く

第49話 船の旅は退屈なので勉強しましょう

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 長蛇号ヨルムンガルドでの船の旅は意外と快適なものでした。
 見える景色がずっと同じですから、退屈なのは致し方ありませんけども。

 それで考えたのは大型船を建造し、友好都市との間に富裕層をターゲットとした観光船を就航させることです。
 かなりの収益を期待出来るのではないかしら?
 問題は人の流れが多様化するので水際での検疫を強化しないといけないことね。
 でも、雇用の機会を増やせますし、ありですわね。

 そして、何と、この長蛇号ヨルムンガルド、簡素ながらも食堂まで備えているのです。
 用意される食事自体も船の中で用意出来るものとしては十分過る完成度の高さですわ。
 もっともこれはバノジェで補給を受けたことが大きく影響しており、寄港出来ない場合はもっと質素なものになるそうですけど。
 多分、私達が乗ることになったのでかなり、融通を利かせたのでしょうね。



 腰の痛みは次の日には嘘のように治りましたわ。
 レオの指圧は腰と違うところを弄ぼうとするものですから、かえって悪化すると思ったのですが、夜は安静にしていたお陰なのでしょう。
 ただ、腰が治ったからと言って、船の中で出来ることなど限られております。
 退屈であるという事実に変わりはありません。

 レオはオーカスを連れて、船員さんたちとの組手をするそうです。
 多分、身体を動かしていないと落ち着かないのね。
 彼の場合、元気が有り余っていますから、仕方ありません。
 あまりに元気が余っているとそれを発散するのは私ですもの。

 私はアンとニールとともに一切、部屋から出ておりません。
 ニールはベッドの上に寝転がって、絵本を読んでいます。
 それを微笑ましく思い、見守りながら、ただ役に立つ本を読むのですわ。

「お嬢さま。その本を読むのは読書ですかねぇ。怪しいですよぉ」

 え?どうしてかしら?
 今、読んでいる『夫を悦ばす七つのテクニック』は立派な本ですのよ?
 妻としての務めを果たすのには必須と帯の推薦の言葉にありましたもの。

「手や口でしてあげないといけないらしいの。胸でも…私もアンみたいにあったら、よかったのですけど」

 ふと思うところがありまして、本を読む手を止めます。
 手を伸ばし、アンの豊かな胸を服の上から、確かめてみました。
 右手でアンの豊かな胸に触れるとむにっとした柔らかい感触がします。
 左手で自分の胸を確かめると多少は柔らかいのですけど、アンに比べるとやはり、ボリューム不足ですわ。

「あ、あのお嬢さまぁ!?」
「何、どうしましたの?やはり、これくらいの大きさがないとこの本に出ていることは出来ませんわね」

 自分の胸を確かめた左手も使って、両手でアンの豊かな胸の重さを感じながら、寄せてみたところで確信しました。
 ある程度、大きさが無いとレオのを挟んであげられないのね。
 レオは胸が好きみたいですもの。
 してあげたら、きっと悦んでくれますわ。

「お、お、お嬢さまぁ?」

 息遣いが荒くなり、アワアワしだしたアンを尻目に自分の胸を両手で寄せてみます。
 んっ…これは無理ですわね。
 ではどうしたら、レオに悦んでもらえるのかしら?
 手や口だけで満足してくれるのかしら?
 無理ですわね。
 絶対、無理ですわ。
 自分の顔と髪が白濁塗れでガビガビになった姿を容易に想像出来ますもの。
 いくらレオが感じて、出してくれたものでもアレをたっぷり浴びるのは鳥肌が立ちますわ。

 それに外に出されたら、勿体ないですわ。
 そうしたら、どうすればいいのかしら?
 えっと…飲みますの?
 アレを?
 美味しいのかしら?
 ううん、味の問題ではないですわ。

「ふぅ…お嬢さま、また考え事ですか?」

 どこかに旅行トリップしていたアンが戻ってきたようです。
 いつものクールでかわいいアンがそこにいました。
 ハァハァと荒い息遣いをしているアンもかわいいのですけど、ちょっと怖いですもの。

「戦いというものは己を知って、相手を知ることで勝てるものなの。閨もきっと同じですわ」
「ま、まぁ。頑張ってください、お嬢さま」

 息を整えたアンがロマンス小説の続きを読み始めるのに戻り、私も本の続きを読み進めることにします。

「アン、挿入れないで股で愉しませるのもあるんですって」
「あのお嬢さま。そこまでしたら、ほぼやっているのと変わらないと思うんですよねぇ」
「ええ?そう言われてみたら、そうですわね。でしたら、口と手でどうにか、するしかない。そういうことかしら?」
「は、はぁ…そうですねぇ。お嬢さまの思うようにされるのが一番かと」

 アンが微妙に丸投げした気がしますわ。
 彼女にも経験がないのは分かっていますから、話題を振られても返答に困るのでしょう。
 本当に思うようにしてもいいのかしら?



 三人とも静かに本を読んでいたので静寂と言いましょうか。
 厳かな雰囲気が部屋を支配していました。
 この雰囲気、嫌いではありません。
 むしろ、このままずっと静寂が支配した世界でもいいくらいですわ。

「お風呂あるらしいよ!」

 突如、その静けさを破るように激しく扉を開けられました。
 レオですわ。
 満面の笑顔をたたえ、部屋全体に響くような大きな声を上げるものですから、三人とも驚きを隠せません。
 まるで小動物のようにビクッと反応してしまいましたけど、レオのにこやかな笑顔を前にすると許せるのよね。

「お風呂あるってことは平気じゃない?」

 平気?何の話ですの?
 そこが問題でしたかしら?
 確かにお風呂があれば、あんなことやこんなことをして汚れても平気でしょう。
 ただ、平気ではありますけれど、そうではありませんでしょう?
 声を聞かれるのがまずいのではありませんか。
 そういう話だったと思いますのよ?
 喜びを隠せないようですから、水を差すのも申し訳ないですわ。

「それは良かったですわ」
「そ、そうですねぇ」

 アンも息を合わせて、言ってくれましたが笑顔が引きつってますわ。

「とりあえず、汗かいたし、オーカスとお風呂行ってくるね」
「ええ、いってらっしゃいませ」

 バタンと扉を閉め、レオが去っていくとまるで嵐が過ぎ去ったようにまた、静かになりました。

「はぁ。大丈夫かしら?」
「壁は厚いようですがあまり、過信は出来ないと思いますよぉ」

 アンと顔を見合わせ、苦笑するしかありません。
 その行為自体が嫌な訳ではないのです。
 レオに恥ずかしい姿を見られたり、声を聞かれるのはかまいません。
 彼は全てを曝け出してくれるのですから、私の全てもレオに知ってもらうべきですもの。

 でも、それが他の人にまで知られるのを考えると許せないものがあります。
 レオはそれでもいいのかしら?
 同じ気持ちだと思うのですけれど、今の彼は止まりそうにないのよね…。
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