我欲するゆえに我あり

黒幸

文字の大きさ
上 下
33 / 33

31 古城の怪

しおりを挟む
「まあ。こんなことだろうと思ったけどさ」
「あんたも? あたしもそう思ってたんだよね。また、騙されちゃったかな」

 目の前に広がる風景を見た俺達の率直な感想だ。
 まさにどうしてこうなった? だよ。
 いや、いつも通りと言えば、いつも通りのことだが……。



 ギルドで仕事を受けた俺達は早速、件の古城ロケタイヤードに向かった。
 デバイスで調べた限り、出てくるのは有数の観光地だし、ワインや牛肉で有名と問題なさそうな情報だ。
 今、考えるとその時、出てきた口コミ情報から怪しかった。
 べた褒めするコメントばかりで一切、具体的な内容を書いていない。
 それだけなら、サクラによるやらせ疑惑程度で済んだかもしれないが……。

 遠目に見える城へと近付くにつれて、怪しさが増す。
 まるでホラー映画の主人公になった気分だ。
 近付いているのに近付いた気がしない。

 感じるのは何とも言えない気味の悪さだ。
 はっきりと認識できない何かのせいで胃がむかむかとしてくる。
 空まで俄かに曇り出した。
 どこからか湧いてきた黒雲で一雨降りそうな匂いがする。

 そのせいだろうか。
 なぜか空気を重苦しく感じた。
 重い。
 ひたすらに重い。
 オルガの方がより強く影響を受けるんだろうか。
 彼女の顔色は悪い。

 そして、致命的な一撃を精神に入れてきたのがいざ、着いてから見えた全景だった。
 口コミ情報はやはり、嘘が多かったようだ。

 視界を遮る木々を抜けて、全体がよく見える平原に出ると確かに石造りのお城が見えてきた。
 ここまでは合っている。
 しかし、どんよりとした空模様もあってか、口コミに貼られていた明るさは全く、感じられない。
 ただひたすらに不気味なだけだ。

「なあ、オルガさん」
「何よ?」
「あれがもしかして、名産品のワインなのか?」
「まさかぁ。あんなのがワインに見えるなんて、目がおかしいわ」
「だよなあ」

 ワインは確か、ブドウから作られる酒であんな風に地面から、こぽこぽと湧くもんじゃないよな。
 あれじゃ、まるで血の色をした毒の沼じゃないか。
 そんなものが城の周囲に水たまりのように点々と湧いていた。

「あれは何に見えるか?」
「少なくとも牛ではないわね」
「だよなあ」

 それじゃなくても貧弱な俺のボキャブラリが、さらに減った。
 もはや、「だよなあ」しか言えなくなった。
 何しろ、目の前で繰り広げられる光景があまりにも非現実的なせいだ。

 陸上を直立歩行するエビの化け物(ブラックタイガー)も十分に非現実的なヤツだったが、あれを超えている。
 超ヤバいヤツだ。
 牛ぽいが牛ではない。
 それが放牧でもされているんだろうか。
 のんびりと草を食んでいる。

 確かに体つきは少し大柄な牛にそっくりだ。
 村にも農作業に使っている牛がいたから、割と見慣れた動物だった。
 毛並みが茶色いだけでそこは変わらない。

 明らかにおかしいのは頭だ。
 一つじゃない。
 二つ頭が付いていて、それぞれが勝手に動いている。
 円らな瞳とは程遠い白く澱んだ眼がはどこを見ているのか、分からない。
 とにかく薄気味が悪いのだ。

「な、なあ。あれってさ……」
「気付いちゃった? あれって、あれよね」
「ああ。あれだな」

 狩猟者たるカサドールの一族が持つ赤外線感知能力は、生命が発する熱を感知して、視覚的に捉えられる。
 要は両目がサーモグラフィーのようになって、隠れていようが動いている姿が見えちゃう訳だ。
 ところがエビの化け物のように熱を感知させにくい構造をしたヤツが相手だと最大限、その能力を発揮できない。
 熱を捉えるだけにそれを逆手に取られて、身を隠される可能性すらある。

 さらに厄介なのは特性上、決して捉えられない相手というのが存在することだ。
 生命を持たない不死生物(アンデッド)や仮初の命しか持たない魔法生物がそれに該当している。
 こいつらは黒い塊のような映り方しかしないので周囲の風景に紛れてしまう。

 そう。
 そして、この牛もどきの怪物こそ、まさにそれなのだ。
 化け物としか思えない見た目だけでなく、どうやら死んでいるとしか思えない。
 そんなのがうようよしている……。
 まさかのお化けが出る城ってか?

「だけど、解決しないと貰えるもんも貰えないんだろ?」
「そうねぇ。気は進まないけどさ。行くしかないわね」
「だなあ。お化けも殴れるもんかな」
「さぁ? やってみないと分かんないわ」
「それもそうか。殴ってから、考えてみるか」

 アホな俺に合わせるようにオルガも楽しそうだ。
 これがカサドールの血の為せるなんとやらってのかもしれない。
 俺よりも遥かに頭が良くて、理知的なオルガですらこうなっている。
 命を懸けた戦いが待ち受けているかもしれない状況で、なぜか気持ちが高ぶって、ワクワクしてくる。

 痛みなくして得るものなしって、言うじゃないか。
 とりあえず、ぶっ飛ばせばいいんだ!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

運命のいたずら世界へご招待~

夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。 しかし、それをさっと避けて危険回避をした。 故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。 絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。 ※ 自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。 1話が500字前後と短いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...