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31 古城の怪
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「まあ。こんなことだろうと思ったけどさ」
「あんたも? あたしもそう思ってたんだよね。また、騙されちゃったかな」
目の前に広がる風景を見た俺達の率直な感想だ。
まさにどうしてこうなった? だよ。
いや、いつも通りと言えば、いつも通りのことだが……。
ギルドで仕事を受けた俺達は早速、件の古城ロケタイヤードに向かった。
デバイスで調べた限り、出てくるのは有数の観光地だし、ワインや牛肉で有名と問題なさそうな情報だ。
今、考えるとその時、出てきた口コミ情報から怪しかった。
べた褒めするコメントばかりで一切、具体的な内容を書いていない。
それだけなら、サクラによるやらせ疑惑程度で済んだかもしれないが……。
遠目に見える城へと近付くにつれて、怪しさが増す。
まるでホラー映画の主人公になった気分だ。
近付いているのに近付いた気がしない。
感じるのは何とも言えない気味の悪さだ。
はっきりと認識できない何かのせいで胃がむかむかとしてくる。
空まで俄かに曇り出した。
どこからか湧いてきた黒雲で一雨降りそうな匂いがする。
そのせいだろうか。
なぜか空気を重苦しく感じた。
重い。
ひたすらに重い。
オルガの方がより強く影響を受けるんだろうか。
彼女の顔色は悪い。
そして、致命的な一撃を精神に入れてきたのがいざ、着いてから見えた全景だった。
口コミ情報はやはり、嘘が多かったようだ。
視界を遮る木々を抜けて、全体がよく見える平原に出ると確かに石造りのお城が見えてきた。
ここまでは合っている。
しかし、どんよりとした空模様もあってか、口コミに貼られていた明るさは全く、感じられない。
ただひたすらに不気味なだけだ。
「なあ、オルガさん」
「何よ?」
「あれがもしかして、名産品のワインなのか?」
「まさかぁ。あんなのがワインに見えるなんて、目がおかしいわ」
「だよなあ」
ワインは確か、ブドウから作られる酒であんな風に地面から、こぽこぽと湧くもんじゃないよな。
あれじゃ、まるで血の色をした毒の沼じゃないか。
そんなものが城の周囲に水たまりのように点々と湧いていた。
「あれは何に見えるか?」
「少なくとも牛ではないわね」
「だよなあ」
それじゃなくても貧弱な俺のボキャブラリが、さらに減った。
もはや、「だよなあ」しか言えなくなった。
何しろ、目の前で繰り広げられる光景があまりにも非現実的なせいだ。
陸上を直立歩行するエビの化け物(ブラックタイガー)も十分に非現実的なヤツだったが、あれを超えている。
超ヤバいヤツだ。
牛ぽいが牛ではない。
それが放牧でもされているんだろうか。
のんびりと草を食んでいる。
確かに体つきは少し大柄な牛にそっくりだ。
村にも農作業に使っている牛がいたから、割と見慣れた動物だった。
毛並みが茶色いだけでそこは変わらない。
明らかにおかしいのは頭だ。
一つじゃない。
二つ頭が付いていて、それぞれが勝手に動いている。
円らな瞳とは程遠い白く澱んだ眼がはどこを見ているのか、分からない。
とにかく薄気味が悪いのだ。
「な、なあ。あれってさ……」
「気付いちゃった? あれって、あれよね」
「ああ。あれだな」
狩猟者たるカサドールの一族が持つ赤外線感知能力は、生命が発する熱を感知して、視覚的に捉えられる。
要は両目がサーモグラフィーのようになって、隠れていようが動いている姿が見えちゃう訳だ。
ところがエビの化け物のように熱を感知させにくい構造をしたヤツが相手だと最大限、その能力を発揮できない。
熱を捉えるだけにそれを逆手に取られて、身を隠される可能性すらある。
さらに厄介なのは特性上、決して捉えられない相手というのが存在することだ。
生命を持たない不死生物(アンデッド)や仮初の命しか持たない魔法生物がそれに該当している。
こいつらは黒い塊のような映り方しかしないので周囲の風景に紛れてしまう。
そう。
そして、この牛もどきの怪物こそ、まさにそれなのだ。
化け物としか思えない見た目だけでなく、どうやら死んでいるとしか思えない。
そんなのがうようよしている……。
まさかのお化けが出る城ってか?
「だけど、解決しないと貰えるもんも貰えないんだろ?」
「そうねぇ。気は進まないけどさ。行くしかないわね」
「だなあ。お化けも殴れるもんかな」
「さぁ? やってみないと分かんないわ」
「それもそうか。殴ってから、考えてみるか」
アホな俺に合わせるようにオルガも楽しそうだ。
これがカサドールの血の為せるなんとやらってのかもしれない。
俺よりも遥かに頭が良くて、理知的なオルガですらこうなっている。
命を懸けた戦いが待ち受けているかもしれない状況で、なぜか気持ちが高ぶって、ワクワクしてくる。
痛みなくして得るものなしって、言うじゃないか。
とりあえず、ぶっ飛ばせばいいんだ!
「あんたも? あたしもそう思ってたんだよね。また、騙されちゃったかな」
目の前に広がる風景を見た俺達の率直な感想だ。
まさにどうしてこうなった? だよ。
いや、いつも通りと言えば、いつも通りのことだが……。
ギルドで仕事を受けた俺達は早速、件の古城ロケタイヤードに向かった。
デバイスで調べた限り、出てくるのは有数の観光地だし、ワインや牛肉で有名と問題なさそうな情報だ。
今、考えるとその時、出てきた口コミ情報から怪しかった。
べた褒めするコメントばかりで一切、具体的な内容を書いていない。
それだけなら、サクラによるやらせ疑惑程度で済んだかもしれないが……。
遠目に見える城へと近付くにつれて、怪しさが増す。
まるでホラー映画の主人公になった気分だ。
近付いているのに近付いた気がしない。
感じるのは何とも言えない気味の悪さだ。
はっきりと認識できない何かのせいで胃がむかむかとしてくる。
空まで俄かに曇り出した。
どこからか湧いてきた黒雲で一雨降りそうな匂いがする。
そのせいだろうか。
なぜか空気を重苦しく感じた。
重い。
ひたすらに重い。
オルガの方がより強く影響を受けるんだろうか。
彼女の顔色は悪い。
そして、致命的な一撃を精神に入れてきたのがいざ、着いてから見えた全景だった。
口コミ情報はやはり、嘘が多かったようだ。
視界を遮る木々を抜けて、全体がよく見える平原に出ると確かに石造りのお城が見えてきた。
ここまでは合っている。
しかし、どんよりとした空模様もあってか、口コミに貼られていた明るさは全く、感じられない。
ただひたすらに不気味なだけだ。
「なあ、オルガさん」
「何よ?」
「あれがもしかして、名産品のワインなのか?」
「まさかぁ。あんなのがワインに見えるなんて、目がおかしいわ」
「だよなあ」
ワインは確か、ブドウから作られる酒であんな風に地面から、こぽこぽと湧くもんじゃないよな。
あれじゃ、まるで血の色をした毒の沼じゃないか。
そんなものが城の周囲に水たまりのように点々と湧いていた。
「あれは何に見えるか?」
「少なくとも牛ではないわね」
「だよなあ」
それじゃなくても貧弱な俺のボキャブラリが、さらに減った。
もはや、「だよなあ」しか言えなくなった。
何しろ、目の前で繰り広げられる光景があまりにも非現実的なせいだ。
陸上を直立歩行するエビの化け物(ブラックタイガー)も十分に非現実的なヤツだったが、あれを超えている。
超ヤバいヤツだ。
牛ぽいが牛ではない。
それが放牧でもされているんだろうか。
のんびりと草を食んでいる。
確かに体つきは少し大柄な牛にそっくりだ。
村にも農作業に使っている牛がいたから、割と見慣れた動物だった。
毛並みが茶色いだけでそこは変わらない。
明らかにおかしいのは頭だ。
一つじゃない。
二つ頭が付いていて、それぞれが勝手に動いている。
円らな瞳とは程遠い白く澱んだ眼がはどこを見ているのか、分からない。
とにかく薄気味が悪いのだ。
「な、なあ。あれってさ……」
「気付いちゃった? あれって、あれよね」
「ああ。あれだな」
狩猟者たるカサドールの一族が持つ赤外線感知能力は、生命が発する熱を感知して、視覚的に捉えられる。
要は両目がサーモグラフィーのようになって、隠れていようが動いている姿が見えちゃう訳だ。
ところがエビの化け物のように熱を感知させにくい構造をしたヤツが相手だと最大限、その能力を発揮できない。
熱を捉えるだけにそれを逆手に取られて、身を隠される可能性すらある。
さらに厄介なのは特性上、決して捉えられない相手というのが存在することだ。
生命を持たない不死生物(アンデッド)や仮初の命しか持たない魔法生物がそれに該当している。
こいつらは黒い塊のような映り方しかしないので周囲の風景に紛れてしまう。
そう。
そして、この牛もどきの怪物こそ、まさにそれなのだ。
化け物としか思えない見た目だけでなく、どうやら死んでいるとしか思えない。
そんなのがうようよしている……。
まさかのお化けが出る城ってか?
「だけど、解決しないと貰えるもんも貰えないんだろ?」
「そうねぇ。気は進まないけどさ。行くしかないわね」
「だなあ。お化けも殴れるもんかな」
「さぁ? やってみないと分かんないわ」
「それもそうか。殴ってから、考えてみるか」
アホな俺に合わせるようにオルガも楽しそうだ。
これがカサドールの血の為せるなんとやらってのかもしれない。
俺よりも遥かに頭が良くて、理知的なオルガですらこうなっている。
命を懸けた戦いが待ち受けているかもしれない状況で、なぜか気持ちが高ぶって、ワクワクしてくる。
痛みなくして得るものなしって、言うじゃないか。
とりあえず、ぶっ飛ばせばいいんだ!
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