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28 うまい話には裏がある
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「なあ、オルガ」
「それ以上、言わなくていいわ。分かってるって。世の中、そんなうまい話がある訳ないのよ」
いくら倒してもきりがないお化けネズミの大群と戯れる楽しいお仕事だ。
ふと現実逃避をしたくなったとしても仕方あらんめえ。
いわゆる路銀を稼ぐべく、俺達は再び、受付のインセンシティと対峙した。
やり取りするだけで疲れるとは、もしかしたら彼女は新手の特殊な能力でも持っているのかもしれない。
そう真顔でオルガに言ったら、「バッカじゃないの」と即効で斬られた。
相変わらず、容赦の無いツッコミお嬢様だ。
それはともかくとして、「こちらのメニューになります」と始めやがったインセンシティはやはり、只者じゃない。
案の定、煙に巻くスタイルで散々、回り道をさせられる超回りくどい説明を聞かされた。
どれくらい辛いかと言えば、危うく、うんたらの川が見えてきて、ついつい渡し守に「あっちまでよろしく頼む」と言いたくなるくらいに辛いぞ。
だが、お陰で正式なプレイヤーになったばかりの俺達でもこなせるお仕事を紹介してもらった。
インセンシティ曰く、「気ままな時間に御自分のペースでたくさん稼げます」。
相変わらずの表情筋が死んだ全く、愛想のない無表情でだ。
思えば、この時、おかしいと気付くべきだったんだろうよ。
どうしてこのお仕事が美味しいはずなのに今まで放置されていたのかってな!
俺とオルガが向かったのは下水道だった。
下水道と言っても現在はほぼ機能していないらしい。
形だけの下水道になって久しいので、メンテナンスもされていなかったからか、そこにお化けネズミが住み着いたんだとさ。
お化けネズミというから、どんなのか、インセンシティに聞いたが、これも要領を得ない回答しかされなかった。
「それはもうお化けみたいなネズミです」
いや、お化けネズミだからな!
そういうことじゃねえから。
具体的なデータを寄越しやがれって話なんだよ。
既に諦めていたのか、察しのいいオルガはデバイスでテキパキと検索して、答えを導き出していた。
「まぁ、確かにお化けみたいなネズミではあるみたいね。ネズミって言うけど、大きさは大型犬くらいあるって書いてあるわ。丁度、ゴールデンレトリバーくらいらしいのよ。それで病原菌をたくさん持っているので感染症に注意だってさぁ」
「まあ。そうは言っても大きいだけでネズミだろ?」
「陸上で生きているエビよりは多分、ましよね?」
「だなあ」
そんな風に軽く考えていた俺達。
何と考えが無かったんだろうか。
そうだ。
お化けネズミを退治せよとあるが、何も対象が一匹とは限らないのだ。
そうとも知らずに俺達は下水道に入った。
思えば、あの時点で冥府の門を潜ったのと同じだったんだろうよ。
一歩入った瞬間、気付いた。
殺気に近い不快な感情を向けられているってね。
暗闇の中で真っ赤な目が怒りに燃えて、爛々と輝いていた。
あれは久しぶりに大きな食べ物が来たぜえ! ひゃっはー! 御馳走だー! たまんねえなあ!
そんなこと思っているに違いない。
ただ、あいつらも知らないんだろうよ。
俺達が暗いところでも夜目が利くってことを!
いや、しかしだ。
夜目が利いたことで見なければ、良かったとも思ったね。
数が多い。
数えるのも嫌になるくらいたくさん、いやがった。
しかもこいつら、本当にお化けぽいぞ。
単に大型化したネズミの魔物って訳ではなさそうだ。
中には白骨が見えているヤツがいる。
目玉が飛び出してぶら下がっているヤツがいる。
体の半分が腐敗しているヤツまでいる。
これを全部、倒せってか。
こりゃ、感染症以外にも気を付けないとまずいことになりそうだ。
「よし。オルガは後ろに下がっていてくれ。こういうのは男の仕事だ」
「何よ、それ? 今時、そういうのって流行らないんだけど」
「いや、だってよ。あいつら、どう見ても臭いし、汚いぞ。俺に任せとけって。ちょっと試したいこともあるしな」
「ふぅ~ん。あんた、一応そういうこと考えられるのね。ちょっとだけ、見直したかも」
ちょっとだけかよ!
もう少し、見直しポイント高くてもいいんだぜと思ったが、下手に言うと下げられそうだ。
男は黙って、頑張っている姿を見せるべきだな。
そして、延々と続くネズミファイトのゴングが鳴った……。
午前中から始まり、お昼を食べる余裕すらなく、終わったのは夕方だった。
実に過酷なお仕事だった。
気ままに稼げるというよりは強制的に稼がされますに文言を変えるべきだろうと強く主張したい。
一匹のポイントはそれほど高くないお化けネズミだったが、塵も積もれば山となるだ。
確かにそれなりに一日のバイトで稼げたとは思う。
路銀は十分に稼いだ。
試したいことも十分にやれた。
あの時、極限状態に追い込まれて、ようやく使えた光火砲(フォトンカノン)。
それを己の意識でしっかりと制御して、省エネでやれないかと考えた。
その練習をするのにこれほど、いい環境はない。
まだ、完璧に扱える実感がないが、かなり効率よく戦う方法は見いだせたと思う。
フォトンカノンのエネルギーを掌で制御して、撃ち放つ。
これで遠く離れた敵にも対処できるってもんだ。
もう少し、練習の必要性があるし、制御もまだ完全ではない。
修行あるのみだな!
「それ以上、言わなくていいわ。分かってるって。世の中、そんなうまい話がある訳ないのよ」
いくら倒してもきりがないお化けネズミの大群と戯れる楽しいお仕事だ。
ふと現実逃避をしたくなったとしても仕方あらんめえ。
いわゆる路銀を稼ぐべく、俺達は再び、受付のインセンシティと対峙した。
やり取りするだけで疲れるとは、もしかしたら彼女は新手の特殊な能力でも持っているのかもしれない。
そう真顔でオルガに言ったら、「バッカじゃないの」と即効で斬られた。
相変わらず、容赦の無いツッコミお嬢様だ。
それはともかくとして、「こちらのメニューになります」と始めやがったインセンシティはやはり、只者じゃない。
案の定、煙に巻くスタイルで散々、回り道をさせられる超回りくどい説明を聞かされた。
どれくらい辛いかと言えば、危うく、うんたらの川が見えてきて、ついつい渡し守に「あっちまでよろしく頼む」と言いたくなるくらいに辛いぞ。
だが、お陰で正式なプレイヤーになったばかりの俺達でもこなせるお仕事を紹介してもらった。
インセンシティ曰く、「気ままな時間に御自分のペースでたくさん稼げます」。
相変わらずの表情筋が死んだ全く、愛想のない無表情でだ。
思えば、この時、おかしいと気付くべきだったんだろうよ。
どうしてこのお仕事が美味しいはずなのに今まで放置されていたのかってな!
俺とオルガが向かったのは下水道だった。
下水道と言っても現在はほぼ機能していないらしい。
形だけの下水道になって久しいので、メンテナンスもされていなかったからか、そこにお化けネズミが住み着いたんだとさ。
お化けネズミというから、どんなのか、インセンシティに聞いたが、これも要領を得ない回答しかされなかった。
「それはもうお化けみたいなネズミです」
いや、お化けネズミだからな!
そういうことじゃねえから。
具体的なデータを寄越しやがれって話なんだよ。
既に諦めていたのか、察しのいいオルガはデバイスでテキパキと検索して、答えを導き出していた。
「まぁ、確かにお化けみたいなネズミではあるみたいね。ネズミって言うけど、大きさは大型犬くらいあるって書いてあるわ。丁度、ゴールデンレトリバーくらいらしいのよ。それで病原菌をたくさん持っているので感染症に注意だってさぁ」
「まあ。そうは言っても大きいだけでネズミだろ?」
「陸上で生きているエビよりは多分、ましよね?」
「だなあ」
そんな風に軽く考えていた俺達。
何と考えが無かったんだろうか。
そうだ。
お化けネズミを退治せよとあるが、何も対象が一匹とは限らないのだ。
そうとも知らずに俺達は下水道に入った。
思えば、あの時点で冥府の門を潜ったのと同じだったんだろうよ。
一歩入った瞬間、気付いた。
殺気に近い不快な感情を向けられているってね。
暗闇の中で真っ赤な目が怒りに燃えて、爛々と輝いていた。
あれは久しぶりに大きな食べ物が来たぜえ! ひゃっはー! 御馳走だー! たまんねえなあ!
そんなこと思っているに違いない。
ただ、あいつらも知らないんだろうよ。
俺達が暗いところでも夜目が利くってことを!
いや、しかしだ。
夜目が利いたことで見なければ、良かったとも思ったね。
数が多い。
数えるのも嫌になるくらいたくさん、いやがった。
しかもこいつら、本当にお化けぽいぞ。
単に大型化したネズミの魔物って訳ではなさそうだ。
中には白骨が見えているヤツがいる。
目玉が飛び出してぶら下がっているヤツがいる。
体の半分が腐敗しているヤツまでいる。
これを全部、倒せってか。
こりゃ、感染症以外にも気を付けないとまずいことになりそうだ。
「よし。オルガは後ろに下がっていてくれ。こういうのは男の仕事だ」
「何よ、それ? 今時、そういうのって流行らないんだけど」
「いや、だってよ。あいつら、どう見ても臭いし、汚いぞ。俺に任せとけって。ちょっと試したいこともあるしな」
「ふぅ~ん。あんた、一応そういうこと考えられるのね。ちょっとだけ、見直したかも」
ちょっとだけかよ!
もう少し、見直しポイント高くてもいいんだぜと思ったが、下手に言うと下げられそうだ。
男は黙って、頑張っている姿を見せるべきだな。
そして、延々と続くネズミファイトのゴングが鳴った……。
午前中から始まり、お昼を食べる余裕すらなく、終わったのは夕方だった。
実に過酷なお仕事だった。
気ままに稼げるというよりは強制的に稼がされますに文言を変えるべきだろうと強く主張したい。
一匹のポイントはそれほど高くないお化けネズミだったが、塵も積もれば山となるだ。
確かにそれなりに一日のバイトで稼げたとは思う。
路銀は十分に稼いだ。
試したいことも十分にやれた。
あの時、極限状態に追い込まれて、ようやく使えた光火砲(フォトンカノン)。
それを己の意識でしっかりと制御して、省エネでやれないかと考えた。
その練習をするのにこれほど、いい環境はない。
まだ、完璧に扱える実感がないが、かなり効率よく戦う方法は見いだせたと思う。
フォトンカノンのエネルギーを掌で制御して、撃ち放つ。
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もう少し、練習の必要性があるし、制御もまだ完全ではない。
修行あるのみだな!
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