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エビ野郎は負傷した腕から流れる体液を武器にして、決死の吶喊をしてきたって寸法だ。
十本ある歩脚も足払いで大方は折ったはずなのにもう回復させたんだろうか?
とんでもない生物だな……。
このままでは避けきれないのは確かだ。
最低限、急所への直撃を避けるべく、防御姿勢を取るしかない。
そう覚悟した。
「……あれ?」
「んがー」
想像していた衝撃は来ない。
代わりに聞こえてきたのはこの緊迫した状況には似つかわしくない間の抜けたでかいヤツの声だった。
スリーパーがエビ野郎と俺の間に割って入ったんだ。
強酸性の体液を恐れず、俺を助けようと体当たりを敢行した。
大きな体で鈍重そうな外見からは想像できない瞬発力と敏捷性だった。
スリーパーの体当たりをもろに喰らったエビ野郎は、予想外の攻撃が完璧な不意打ちとなったのか、激しく吹き飛ばされて石壁に激突した。
えらく派手な音がしたし、エビ野郎は半分、石壁にめり込んでいる。
かなりのダメージを負っただろう。
しかし、それよりも心配なのはスリーパーの方だ。
「大丈夫か?」
「んが」
案の定、もろにヤツの体液を浴びたようだ。
スリーパーの着ていた白いタンクトップが原型を留めてないし、酸で溶けた何かの嫌な臭いが充満している。
それなのにスリーパーのヤツは満面の笑みを止めない。
どうなっているんだ、こいつの頭は? と思いつつも俺を助けようと動いてくれたのは事実だ。
そうである以上、今度は俺がこいつを助けなくちゃ、いけないと思うんだよな。
「ありがとな。ここからは俺に任せてくれ」
「んがー?」
いまいち、会話が成り立っている自信がないし、言葉が伝わっているようには思えないが物事には筋道ってのが大事だとじっちゃんも言ってたしな。
とにかく態度でしっかりと表明したから、大丈夫だろう。
「バ~カ! 使えばいいんじゃない?」
危ないヤツだ。
スリーパーよりも会話ができるオルガの方が、数倍危険だと言える自信がある。
できあがった槍を人に投げつけて、寄越すヤツはどうかしてるだろ。
危うく回避して、受け取った。
いや、これを受け取ったと言うのは無理がありそうだが……。
「それでとっとと止めを刺しなさいよ」
しかし、敵意があってやったのではなさそうだから、少々調子が狂う。
だからって、善意とも思えないし、ましてや好意と取るのは無理がある。
まあ、槍はありがたく使わせてもらうけどさ。
「あんな音がしたのにへっちゃらとは化け物かよ」
エビ野郎がガラガラと嫌な音を立て、半身がめり込んだ壁から脱出した。
あれほどの激しい衝突音が生じたのにそれほどの傷は負ってないようだ。
頑丈なんて言葉では生温い驚異的な身体構造をしている生物と思って、いいだろう。
エビ野郎は負傷の原因になった俺とスリーパーに深淵の色をした表情のない目を向けてくる。
なぜか、漠然と憎悪の炎が宿っているように感じた。
それと同時に湧き上がってくるのは、言いようのない高揚感だ。
槍を握る拳に自然と力が入る。
スリーパーは言葉が通じたのか、分かってくれたのか、下がってくれたから、俺とエビ野郎の決闘だ。
「さあ、来いよ、エビ野郎」
どちらもが隙を窺って、身動ぎ一つできない。
過酷な沈黙が場を支配していた。
先に動いた方が負ける。
そんな感覚だった。
耳障りな音が再び、聞こえる。
エビ野郎が立てるギチギチギチという生理的に受け付けない何とも耳障りな音だ。
仕掛けてきたのはエビ野郎だった。
俺に向かって、待っ直線に向かってきた。
しかし、ヤツは何の考えもなしに突っ込んできた訳ではなかった。
とっておきの秘密兵器を隠し持っていたんだ。
ヤツが動き出すのと同時に俺も足に力を籠めて、全力で床を蹴り出す。
どちらもが渾身の力と共に動き、真正面から激突するって寸法だ。
「あっぶねーな」
正々堂々と真正面から、力比べをするなんて考えはエビ野郎にはなかったらしい。
秘密兵器はヤツの口内にあった。
馬鹿正直に面と向かって激突しようとした俺の顔めがけて、それが飛んできたんだ。
この時ばかりはじっちゃんの修行に感謝したくなったね。
目の前で投げる石を避けられるようになるまで御飯抜きと言われた日には、じっちゃんを恨んだけどさ。
まさか、こういうところで役に立つとは思わなかった。
鍛えられた反射神経と動体視力、それに筋力は裏切らない。
そして、こればかりはオルガに感謝だ。
槍のお陰だ!
とっさに槍の穂先でそれを弾くことに成功した。
エビに伸縮自在の鋼鉄みたいに堅い舌があるとは思わなかったぜ。
危なかった。
しかし、これは逆に俺にチャンスが巡ってきたということさ。
そのまま、槍をヤツの口に目掛けて、思い切り突き刺してやった。
思った以上に力が入ったらしい。
エビ野郎は串刺し状態になって、石壁に磔になった。
まるで不格好な標本だな……。
十本ある歩脚も足払いで大方は折ったはずなのにもう回復させたんだろうか?
とんでもない生物だな……。
このままでは避けきれないのは確かだ。
最低限、急所への直撃を避けるべく、防御姿勢を取るしかない。
そう覚悟した。
「……あれ?」
「んがー」
想像していた衝撃は来ない。
代わりに聞こえてきたのはこの緊迫した状況には似つかわしくない間の抜けたでかいヤツの声だった。
スリーパーがエビ野郎と俺の間に割って入ったんだ。
強酸性の体液を恐れず、俺を助けようと体当たりを敢行した。
大きな体で鈍重そうな外見からは想像できない瞬発力と敏捷性だった。
スリーパーの体当たりをもろに喰らったエビ野郎は、予想外の攻撃が完璧な不意打ちとなったのか、激しく吹き飛ばされて石壁に激突した。
えらく派手な音がしたし、エビ野郎は半分、石壁にめり込んでいる。
かなりのダメージを負っただろう。
しかし、それよりも心配なのはスリーパーの方だ。
「大丈夫か?」
「んが」
案の定、もろにヤツの体液を浴びたようだ。
スリーパーの着ていた白いタンクトップが原型を留めてないし、酸で溶けた何かの嫌な臭いが充満している。
それなのにスリーパーのヤツは満面の笑みを止めない。
どうなっているんだ、こいつの頭は? と思いつつも俺を助けようと動いてくれたのは事実だ。
そうである以上、今度は俺がこいつを助けなくちゃ、いけないと思うんだよな。
「ありがとな。ここからは俺に任せてくれ」
「んがー?」
いまいち、会話が成り立っている自信がないし、言葉が伝わっているようには思えないが物事には筋道ってのが大事だとじっちゃんも言ってたしな。
とにかく態度でしっかりと表明したから、大丈夫だろう。
「バ~カ! 使えばいいんじゃない?」
危ないヤツだ。
スリーパーよりも会話ができるオルガの方が、数倍危険だと言える自信がある。
できあがった槍を人に投げつけて、寄越すヤツはどうかしてるだろ。
危うく回避して、受け取った。
いや、これを受け取ったと言うのは無理がありそうだが……。
「それでとっとと止めを刺しなさいよ」
しかし、敵意があってやったのではなさそうだから、少々調子が狂う。
だからって、善意とも思えないし、ましてや好意と取るのは無理がある。
まあ、槍はありがたく使わせてもらうけどさ。
「あんな音がしたのにへっちゃらとは化け物かよ」
エビ野郎がガラガラと嫌な音を立て、半身がめり込んだ壁から脱出した。
あれほどの激しい衝突音が生じたのにそれほどの傷は負ってないようだ。
頑丈なんて言葉では生温い驚異的な身体構造をしている生物と思って、いいだろう。
エビ野郎は負傷の原因になった俺とスリーパーに深淵の色をした表情のない目を向けてくる。
なぜか、漠然と憎悪の炎が宿っているように感じた。
それと同時に湧き上がってくるのは、言いようのない高揚感だ。
槍を握る拳に自然と力が入る。
スリーパーは言葉が通じたのか、分かってくれたのか、下がってくれたから、俺とエビ野郎の決闘だ。
「さあ、来いよ、エビ野郎」
どちらもが隙を窺って、身動ぎ一つできない。
過酷な沈黙が場を支配していた。
先に動いた方が負ける。
そんな感覚だった。
耳障りな音が再び、聞こえる。
エビ野郎が立てるギチギチギチという生理的に受け付けない何とも耳障りな音だ。
仕掛けてきたのはエビ野郎だった。
俺に向かって、待っ直線に向かってきた。
しかし、ヤツは何の考えもなしに突っ込んできた訳ではなかった。
とっておきの秘密兵器を隠し持っていたんだ。
ヤツが動き出すのと同時に俺も足に力を籠めて、全力で床を蹴り出す。
どちらもが渾身の力と共に動き、真正面から激突するって寸法だ。
「あっぶねーな」
正々堂々と真正面から、力比べをするなんて考えはエビ野郎にはなかったらしい。
秘密兵器はヤツの口内にあった。
馬鹿正直に面と向かって激突しようとした俺の顔めがけて、それが飛んできたんだ。
この時ばかりはじっちゃんの修行に感謝したくなったね。
目の前で投げる石を避けられるようになるまで御飯抜きと言われた日には、じっちゃんを恨んだけどさ。
まさか、こういうところで役に立つとは思わなかった。
鍛えられた反射神経と動体視力、それに筋力は裏切らない。
そして、こればかりはオルガに感謝だ。
槍のお陰だ!
とっさに槍の穂先でそれを弾くことに成功した。
エビに伸縮自在の鋼鉄みたいに堅い舌があるとは思わなかったぜ。
危なかった。
しかし、これは逆に俺にチャンスが巡ってきたということさ。
そのまま、槍をヤツの口に目掛けて、思い切り突き刺してやった。
思った以上に力が入ったらしい。
エビ野郎は串刺し状態になって、石壁に磔になった。
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