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5 オルガ
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「いってててて。どこだ? ここは?」
あのおばさん、どうやら手加減なしに蹴ったな?
受け身らしい受け身を取れず、もろに落ちたんだろう。
あちこちが痛い。
痛いがただ、それだけでどうということはない。
じっちゃんに谷底へ突き落とされたのはいつのことだったか。
あれに比べたら、ちっとも痛くない。
出血もしていないし、軽い擦り傷程度で済んでいる。
きっと修行のお陰だ!
たんこぶになってないだろうか?
気にしながら、薄らと目を開けてから、ゆっくりと体を起こした。
おばさんは試練がどうので時間がないと言った。
何のことかはよく分からないが、警戒は自己防衛機能の一環だ。
薄暗い空間だが、不思議なことに月明りで照らされたようなぼんやりとした明るさがある。
その微かな光のお陰で気付いた。
ここは自然の洞穴ではなく、人工的に作られた何らかの施設ってことだ。
床は石畳になっているし、天井や壁もきれいに加工された石で形成されている。
どういうことだ?
ここは一体、何なんだ?
「ようやくお目覚め?」
「んが」
俺が心の中で自問自答しようとした瞬間、不意に聞こえてきたのは聞きなれない人の声だった。
一人は鈴が鳴るような声とでも言うんだろうか。
高音でも耳障りではない透明感のある声だ。
ただ、微妙な敵愾心だろうか。
見えない棘がはっきりと見えるくらいに棘がある。
もう一人は言葉というには不明瞭で空気が漏れたような奇妙な声だ。
「誰だ?」
そう言おうとして、我ながら愚問だと反省した。
はっきりしてきた視界に映ったのが、誰あろうサント・フベルトゥスの生徒であれば、誰もが知る有名人だったからだ。
オルガ。
サント・フベルトゥスの歴史を変える俊才と噂される才女だった。
いいところのお嬢様らしく澄ました顔で、常に涼しそうで表情一つ変えない女だと思った。
まるで作り物のような不自然さがどこかにあったからだ。
だが世間の評価は違う。
黒檀のように艶が良く、黒く長い髪に抜けるような白い肌でどこからどう見てもお嬢様だ。
神秘的な琥珀色の瞳にアイドル活動ができそうな整ったルックス。
定期試験では常に上位に収まり、実技でも他の追随を許さない。
天が二物を与えた絶対無敵の美少女。
五学年の女帝。
そんなあだ名で呼ばれている……。
「一応、同級生でしょ? あぁ、やだやだ」
そうなのだ。
一応、同級生ではある。
ただし、面識は一切ないし、五年間で会話を交わしたどころか、挨拶をしたことすらない。
もっとも俺は誰とも交流がないまま、五年が過ぎようとしていたから、彼女を特別に避けていたって訳じゃない。
あからさまに侮蔑するような挑戦的な視線を隠そうともせず、俺を値踏みするように見てくるから、居心地が悪い。
それに彼女の後ろにいるバカでかい男が気になる。
奇妙な声の主は恐らく、その男だ。
「同級生だが……ここは何だ? どうなっているんだ?」
「質問が多いのね? いい知らせと悪い知らせ。どちらから、聞きたい?」
「悪い方を頼む。いい物は後に取っておきたいんでね」
「あっはははは!。そう。そういうことなら」
ケラケラと言わんばかりに大口を開けて、笑うオルガは学院で見かけた姿とあまりに剥離していて、驚いた。
あまりに大きく口を開けるせいか、時折、白い歯が見える。
その歯は鋭く尖っていて、猛獣を思わせるものだ。
「喜びなさい。あんたはあたしと後ろの彼……三人で試練に挑むの。どう?」
「どうって……そもそも試練って、何だ?」
「はぁ? あんた……もしかして、バカなの?」
オルガはその後に「いい知らせが試練を受けられるってことなのにそれすらも分かってないとか、信じられないわ」と続け、顔を真っ赤にして怒り始めた。
いや、何もそんな青筋立てて、怒らんでもいいと思うんだ。
本当に知らないんだからさ……。
あのおばさん、どうやら手加減なしに蹴ったな?
受け身らしい受け身を取れず、もろに落ちたんだろう。
あちこちが痛い。
痛いがただ、それだけでどうということはない。
じっちゃんに谷底へ突き落とされたのはいつのことだったか。
あれに比べたら、ちっとも痛くない。
出血もしていないし、軽い擦り傷程度で済んでいる。
きっと修行のお陰だ!
たんこぶになってないだろうか?
気にしながら、薄らと目を開けてから、ゆっくりと体を起こした。
おばさんは試練がどうので時間がないと言った。
何のことかはよく分からないが、警戒は自己防衛機能の一環だ。
薄暗い空間だが、不思議なことに月明りで照らされたようなぼんやりとした明るさがある。
その微かな光のお陰で気付いた。
ここは自然の洞穴ではなく、人工的に作られた何らかの施設ってことだ。
床は石畳になっているし、天井や壁もきれいに加工された石で形成されている。
どういうことだ?
ここは一体、何なんだ?
「ようやくお目覚め?」
「んが」
俺が心の中で自問自答しようとした瞬間、不意に聞こえてきたのは聞きなれない人の声だった。
一人は鈴が鳴るような声とでも言うんだろうか。
高音でも耳障りではない透明感のある声だ。
ただ、微妙な敵愾心だろうか。
見えない棘がはっきりと見えるくらいに棘がある。
もう一人は言葉というには不明瞭で空気が漏れたような奇妙な声だ。
「誰だ?」
そう言おうとして、我ながら愚問だと反省した。
はっきりしてきた視界に映ったのが、誰あろうサント・フベルトゥスの生徒であれば、誰もが知る有名人だったからだ。
オルガ。
サント・フベルトゥスの歴史を変える俊才と噂される才女だった。
いいところのお嬢様らしく澄ました顔で、常に涼しそうで表情一つ変えない女だと思った。
まるで作り物のような不自然さがどこかにあったからだ。
だが世間の評価は違う。
黒檀のように艶が良く、黒く長い髪に抜けるような白い肌でどこからどう見てもお嬢様だ。
神秘的な琥珀色の瞳にアイドル活動ができそうな整ったルックス。
定期試験では常に上位に収まり、実技でも他の追随を許さない。
天が二物を与えた絶対無敵の美少女。
五学年の女帝。
そんなあだ名で呼ばれている……。
「一応、同級生でしょ? あぁ、やだやだ」
そうなのだ。
一応、同級生ではある。
ただし、面識は一切ないし、五年間で会話を交わしたどころか、挨拶をしたことすらない。
もっとも俺は誰とも交流がないまま、五年が過ぎようとしていたから、彼女を特別に避けていたって訳じゃない。
あからさまに侮蔑するような挑戦的な視線を隠そうともせず、俺を値踏みするように見てくるから、居心地が悪い。
それに彼女の後ろにいるバカでかい男が気になる。
奇妙な声の主は恐らく、その男だ。
「同級生だが……ここは何だ? どうなっているんだ?」
「質問が多いのね? いい知らせと悪い知らせ。どちらから、聞きたい?」
「悪い方を頼む。いい物は後に取っておきたいんでね」
「あっはははは!。そう。そういうことなら」
ケラケラと言わんばかりに大口を開けて、笑うオルガは学院で見かけた姿とあまりに剥離していて、驚いた。
あまりに大きく口を開けるせいか、時折、白い歯が見える。
その歯は鋭く尖っていて、猛獣を思わせるものだ。
「喜びなさい。あんたはあたしと後ろの彼……三人で試練に挑むの。どう?」
「どうって……そもそも試練って、何だ?」
「はぁ? あんた……もしかして、バカなの?」
オルガはその後に「いい知らせが試練を受けられるってことなのにそれすらも分かってないとか、信じられないわ」と続け、顔を真っ赤にして怒り始めた。
いや、何もそんな青筋立てて、怒らんでもいいと思うんだ。
本当に知らないんだからさ……。
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