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第三章 セラフィナ十六歳
第61話 悪妻、挙動る
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「な、な……何でもありません」
「そうか。今日は疲れただろう?」
それだけ言うとモデストは壁の向こうにそそくさと去っていった。
壁と言ってもシーツで作っただけの境界線みたいなものだ。
でも、おかしい……。
調子が狂うわ。
夫婦としての覚悟が出来るまではこの境界線が、私の生命線でもある。
こちら側に来たら、容赦なく鉄拳制裁してもいいとモデスト本人の了承も得たのだ。
それなのになんであんな、距離感が近いのよ。
心臓が止まるかと思ったわ……。
十六歳で心臓発作が死因は嫌よ。
「あの策で燻りだせそうかな?」
「うん……」
境界線を境にして、背中合わせで夜を過ごすのが私とモデストの日常。
まるで家庭内別居寸前の夫婦のようだけど、こうでもしないと理性的にいられないのだから、しょうがない。
「それでね……あの……」
「うん?」
「あ、あのね……その……この騒動が収まったら……一緒に寝てあげないこともないのよ? ほら……私達は夫婦なんだし」
「…………」
我ながら、阿呆なことを言ったと思ってる。
これでも恥ずかしさを堪えて、勇気を出して、言ったのだ。
だが、モデストからの返事はない。
ええ!?
ちょっと待って、まさかダメとか言わないでしょうね?
それともアレかしら?
初夜で蹴ったのでアソコがダメになったとか?
「ほ、ほ、ほ、ほ!?」
「ほほ?」
んんん? 新種の鳥かしら?
「ほ、ほ、本当にいいのか?」
「い、い、いいけどー!? でも、騒動が収まったら、ですからねっ」
背中に気のせいではない、はっきりした熱風を感じるわ……。
間違いない。
モデストの鼻息が荒いのよ!
境界線の向こうから、これだと興奮し過ぎじゃない?
「わ、わ、分かっているとも」
「そ、そ、そうよね」
振り返らなくても何となく、気配で分かってしまう。
彼は所在なさげに伸ばした手で私に触れていいのか、迷っているんだろう。
モデストのことを許すと一言も告げていない。
あくまで波風を立てないようにしているだけ。
表向きは問題の無い国王夫妻を演じている、それだけに過ぎないのだ。
もし、触れてしまったら、その関係すら、断たれるのではないかと恐れているんだわ。
「で、では、お休み……」
「は、はい。お、お休みなさい」
短いやり取りだったけど、凄く疲れた……。
でも、作戦としては成功よね。
これで明日からは、少しだけ肩の力を抜いて、生活が出来そうだわ。
「そうか。今日は疲れただろう?」
それだけ言うとモデストは壁の向こうにそそくさと去っていった。
壁と言ってもシーツで作っただけの境界線みたいなものだ。
でも、おかしい……。
調子が狂うわ。
夫婦としての覚悟が出来るまではこの境界線が、私の生命線でもある。
こちら側に来たら、容赦なく鉄拳制裁してもいいとモデスト本人の了承も得たのだ。
それなのになんであんな、距離感が近いのよ。
心臓が止まるかと思ったわ……。
十六歳で心臓発作が死因は嫌よ。
「あの策で燻りだせそうかな?」
「うん……」
境界線を境にして、背中合わせで夜を過ごすのが私とモデストの日常。
まるで家庭内別居寸前の夫婦のようだけど、こうでもしないと理性的にいられないのだから、しょうがない。
「それでね……あの……」
「うん?」
「あ、あのね……その……この騒動が収まったら……一緒に寝てあげないこともないのよ? ほら……私達は夫婦なんだし」
「…………」
我ながら、阿呆なことを言ったと思ってる。
これでも恥ずかしさを堪えて、勇気を出して、言ったのだ。
だが、モデストからの返事はない。
ええ!?
ちょっと待って、まさかダメとか言わないでしょうね?
それともアレかしら?
初夜で蹴ったのでアソコがダメになったとか?
「ほ、ほ、ほ、ほ!?」
「ほほ?」
んんん? 新種の鳥かしら?
「ほ、ほ、本当にいいのか?」
「い、い、いいけどー!? でも、騒動が収まったら、ですからねっ」
背中に気のせいではない、はっきりした熱風を感じるわ……。
間違いない。
モデストの鼻息が荒いのよ!
境界線の向こうから、これだと興奮し過ぎじゃない?
「わ、わ、分かっているとも」
「そ、そ、そうよね」
振り返らなくても何となく、気配で分かってしまう。
彼は所在なさげに伸ばした手で私に触れていいのか、迷っているんだろう。
モデストのことを許すと一言も告げていない。
あくまで波風を立てないようにしているだけ。
表向きは問題の無い国王夫妻を演じている、それだけに過ぎないのだ。
もし、触れてしまったら、その関係すら、断たれるのではないかと恐れているんだわ。
「で、では、お休み……」
「は、はい。お、お休みなさい」
短いやり取りだったけど、凄く疲れた……。
でも、作戦としては成功よね。
これで明日からは、少しだけ肩の力を抜いて、生活が出来そうだわ。
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