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第三章 セラフィナ十六歳
第51話 悪妻、グれる
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あの衝撃的な夕食での体験が霞んで見えてくる日常が続いてる。
なぜなら、あれから、毎日のようにモデストと食事をしているのだ。
それもディナーだけではない。
朝も昼もついでに間食までも!
もしかして、国王という地位は暇なの?
そんなことはないと思うんだけど。
少なくとも伯父様は多忙に見えた。
見ているこちらが心配になるくらいだったし、面倒だからって、役職から逃げて、一領主に甘んじていたお父さまも政務で忙しかった。
それなのに一国の王であるモデストのこの余裕は何なんだろう。
学園でも優秀だと言われていた彼だ。
まさかの飛び級で卒業をした訳だし、そういうことなのかしら?
とはいえ、そんなことを気にしてばかりいられるほどの余裕はない。
トリフルーメ王国を取り巻く周囲の状況は決して、芳しくないのだ。
私の置かれた状況も非常に芳しくない!
少しずつ、不透明になってきた前世の記憶だけど、そろそろ気を付けないと一線を越えちゃう可能性があるのだ。
あの時はラピドゥフルから出ることがなかったけど、今回は違う。
だから、大丈夫と自身を持って、言えないのは同じ屋根の下にいるからなんだけど。
「き、君の顔を見たくってね」
「は? 目薬を刺しましょうか? それとも、その腐った目玉をくり抜きましょうか?」
歯の浮くような台詞がまさか、あなたの口から聞けるなんて。
天気が変わるんじゃないの?
思ってもいなかったけど、あまりに嬉しくて、反射的に憎まれ口が出てしまった。
まだ、前世の記憶に引っ張られているのだろうか。
イディとは気の置けない関係を築いていたつもり。
貴族の柵がない冒険者の仲間として、対等に……普通に喋っていたのに。
「君を信頼して、翠の騎士団を任せたいと思う」
「え?」
そんな剣呑な雰囲気から、始まった朝食の席で何を言い出すのか、この人。
そこから、特に会話もなく、食事は終わったけどモデストの言葉が冗談などではなかったことが判明する。
「どうして、こうなったのよ!」
腹いせも兼ねて、通常の五割は増した魔力を込め、空に向けて魔法弓を引いた。
私の使う魔法弓は実体のある矢ではなく、魔力で構成された魔法の矢を放つ特殊な弓だ。
当然のように私が空に向けて撃った半透明のエメラルド色をしたきれいな一本の矢も魔法なのだ。
翠の矢は宙で弾けると数多の光の矢となって、雨のように地上に降り注いでいく。
いつ見てもきれい。
見ている分には、だけど。
あれに当たったら、痛いでは済まないんだから。
「まあ、えがっだでないが」
「んだんだ」
「よくなーい!」
大人の男の人よりも大きなハンマーを肩に担いだロホとなぜか、巨大な鉄鍋を抱えているアスルが気遣っているんだか、投槍なんだか、分からない言葉を投げかけてくれる。
多分、気遣っているつもりなんだろう。
そうなってないのは二人が普通の人間ではないからだ。
二人は危険な魔物として、認識されてるオーガ。
ひょんなことから、我が家の食客になった二人だけど、今では食客というよりは家族の一員のようなものだ。
見た目は見るからに鬼そのもの。
子供が見たら、泣いてしまうかもしれない怖い姿をしてるけど、本当に優しい心の持ち主なんだから。
そんな二人をラピドゥフルに残していく訳にはいかなかった。
領地を引き継いだアリーとチコにあらぬ嫌疑がかけられるかもしれないじゃない。
だから、一緒にトリフルーメにやって来た。
モデストも冒険者のイディとして、この件に関わっていたとはいえ、特に反対しないどころか、居住先まで融通してくれたのだ。
でも、それとこれとは話が違う。
あの男に翠の騎士団を任された――これはむしろ、厄介事を押し付けられたといってもいいわ。
名前だけの騎士団で有名無実の金食い虫などと呼ばれているらしい。
それが翠の騎士団だった。
ここで問題となるのは騎士団の実情じゃない。
エンディアの脅威が間近に迫っているという現実だ。
私はどうやら、自分自身で運命を変えなくてはいけない不幸の星に生まれたらしい。
どうにかしないといけないけど、自分でやらなければならない。
その為には利用出来る力はとことん利用するつもりだ。
そう固く心に誓って、騎士団を率いてやってきたのがロホとアスルのログハウスがある『入らずの森』だった。
ここに巣食う魔物が中々に厄介だという話を聞いてる。
手付かずのまま、放置されているのだとも。
ならば、その討伐を是が非でもやっておかなくてはいけないだろう。
罪のない人が苦しむ姿は見たくないのだ。
「さて、今ので半分くらいはやれたと思うんだけど」
「いや~、すごいですね~。あんなことも出来るんだ~。ほほえ~」
光の矢の雨で頭から、貫かれて絶命しているゴブリンはパッと見たところ、五十くらいだろうか。
残りは同数か、それ以上いるだろう。
まだ、普通に動ける者が多いだろうし、奇襲になった光の矢の雨ももう通じないと思う。
そんな光の矢の雨を見て、子供のように手を叩いて、無邪気な発言をしているのは翠の騎士団の副団長サンソーネ・ステルーノだ。
年は私よりも確か、六歳上。
二十二歳のはずなんだけど、あの言動のせいか、少年らしさが否めない。
だから、見た目がエルフみたいなきれいな少年だと思った?
これが違うんだよね……。
アリーだったら、『ちっちゃなおっさん』と言いそうな容姿なのよ。
成長期で今や私が見上げるような背になったモデストと比べると半分くらいしかない。
ナル姉やシルビアは私よりも高いし、私も平均くらいの背はある方だ。
正直、高くはないから、思ったよりも小さいと面と向かって言われたことすら、ある。
悪かったですね、悪役令嬢なのに小さくって!
話が脱線しちゃった……。
つまり、参考にするとしたら、私よりも小さくて、可愛らしいサイズでアリーと同じくらいの背丈。
そう言うと分かりやすいだろう。
だから、『ちっちゃなおっさん』なのだ。
頭の毛も薄いじゃなくて、剃り上げたスキンヘッドだし、顔もこれといって特徴ないんだもん。
それであの言動だから、ギャップが強すぎるわ。
「ステルーノ卿。ごちゃごちゃ抜かしてねえでとっとと突撃しきやがれデスヨ」
「お嬢、ごどばおがじい」
「んだな。おがじいど」
あなたたちに言われたくないんだけど、二人の訛りは和める、癒されると意外にも王城でも大人気なのだ。
私はきつい、心が痛いと散々な言われ方なのに!
この違いは何?
あぁ、そうだったわね。
私は前世ではもっと嫌われてた。
何もしていないのに悪妻だの、悪女だのって。
それなら、髪を縦巻きにセットした方がいいかしら?
その方が見た目から、悪女らしいイメージになるわ。
あれ? なってどうするのよ!?
考えがまとまらないうちに迷いの森に入り始めた私の耳に『それではいっきますよ~! とっつげきだ~』というサンソーネの間延びした声が聞こえるのだった。
なぜなら、あれから、毎日のようにモデストと食事をしているのだ。
それもディナーだけではない。
朝も昼もついでに間食までも!
もしかして、国王という地位は暇なの?
そんなことはないと思うんだけど。
少なくとも伯父様は多忙に見えた。
見ているこちらが心配になるくらいだったし、面倒だからって、役職から逃げて、一領主に甘んじていたお父さまも政務で忙しかった。
それなのに一国の王であるモデストのこの余裕は何なんだろう。
学園でも優秀だと言われていた彼だ。
まさかの飛び級で卒業をした訳だし、そういうことなのかしら?
とはいえ、そんなことを気にしてばかりいられるほどの余裕はない。
トリフルーメ王国を取り巻く周囲の状況は決して、芳しくないのだ。
私の置かれた状況も非常に芳しくない!
少しずつ、不透明になってきた前世の記憶だけど、そろそろ気を付けないと一線を越えちゃう可能性があるのだ。
あの時はラピドゥフルから出ることがなかったけど、今回は違う。
だから、大丈夫と自身を持って、言えないのは同じ屋根の下にいるからなんだけど。
「き、君の顔を見たくってね」
「は? 目薬を刺しましょうか? それとも、その腐った目玉をくり抜きましょうか?」
歯の浮くような台詞がまさか、あなたの口から聞けるなんて。
天気が変わるんじゃないの?
思ってもいなかったけど、あまりに嬉しくて、反射的に憎まれ口が出てしまった。
まだ、前世の記憶に引っ張られているのだろうか。
イディとは気の置けない関係を築いていたつもり。
貴族の柵がない冒険者の仲間として、対等に……普通に喋っていたのに。
「君を信頼して、翠の騎士団を任せたいと思う」
「え?」
そんな剣呑な雰囲気から、始まった朝食の席で何を言い出すのか、この人。
そこから、特に会話もなく、食事は終わったけどモデストの言葉が冗談などではなかったことが判明する。
「どうして、こうなったのよ!」
腹いせも兼ねて、通常の五割は増した魔力を込め、空に向けて魔法弓を引いた。
私の使う魔法弓は実体のある矢ではなく、魔力で構成された魔法の矢を放つ特殊な弓だ。
当然のように私が空に向けて撃った半透明のエメラルド色をしたきれいな一本の矢も魔法なのだ。
翠の矢は宙で弾けると数多の光の矢となって、雨のように地上に降り注いでいく。
いつ見てもきれい。
見ている分には、だけど。
あれに当たったら、痛いでは済まないんだから。
「まあ、えがっだでないが」
「んだんだ」
「よくなーい!」
大人の男の人よりも大きなハンマーを肩に担いだロホとなぜか、巨大な鉄鍋を抱えているアスルが気遣っているんだか、投槍なんだか、分からない言葉を投げかけてくれる。
多分、気遣っているつもりなんだろう。
そうなってないのは二人が普通の人間ではないからだ。
二人は危険な魔物として、認識されてるオーガ。
ひょんなことから、我が家の食客になった二人だけど、今では食客というよりは家族の一員のようなものだ。
見た目は見るからに鬼そのもの。
子供が見たら、泣いてしまうかもしれない怖い姿をしてるけど、本当に優しい心の持ち主なんだから。
そんな二人をラピドゥフルに残していく訳にはいかなかった。
領地を引き継いだアリーとチコにあらぬ嫌疑がかけられるかもしれないじゃない。
だから、一緒にトリフルーメにやって来た。
モデストも冒険者のイディとして、この件に関わっていたとはいえ、特に反対しないどころか、居住先まで融通してくれたのだ。
でも、それとこれとは話が違う。
あの男に翠の騎士団を任された――これはむしろ、厄介事を押し付けられたといってもいいわ。
名前だけの騎士団で有名無実の金食い虫などと呼ばれているらしい。
それが翠の騎士団だった。
ここで問題となるのは騎士団の実情じゃない。
エンディアの脅威が間近に迫っているという現実だ。
私はどうやら、自分自身で運命を変えなくてはいけない不幸の星に生まれたらしい。
どうにかしないといけないけど、自分でやらなければならない。
その為には利用出来る力はとことん利用するつもりだ。
そう固く心に誓って、騎士団を率いてやってきたのがロホとアスルのログハウスがある『入らずの森』だった。
ここに巣食う魔物が中々に厄介だという話を聞いてる。
手付かずのまま、放置されているのだとも。
ならば、その討伐を是が非でもやっておかなくてはいけないだろう。
罪のない人が苦しむ姿は見たくないのだ。
「さて、今ので半分くらいはやれたと思うんだけど」
「いや~、すごいですね~。あんなことも出来るんだ~。ほほえ~」
光の矢の雨で頭から、貫かれて絶命しているゴブリンはパッと見たところ、五十くらいだろうか。
残りは同数か、それ以上いるだろう。
まだ、普通に動ける者が多いだろうし、奇襲になった光の矢の雨ももう通じないと思う。
そんな光の矢の雨を見て、子供のように手を叩いて、無邪気な発言をしているのは翠の騎士団の副団長サンソーネ・ステルーノだ。
年は私よりも確か、六歳上。
二十二歳のはずなんだけど、あの言動のせいか、少年らしさが否めない。
だから、見た目がエルフみたいなきれいな少年だと思った?
これが違うんだよね……。
アリーだったら、『ちっちゃなおっさん』と言いそうな容姿なのよ。
成長期で今や私が見上げるような背になったモデストと比べると半分くらいしかない。
ナル姉やシルビアは私よりも高いし、私も平均くらいの背はある方だ。
正直、高くはないから、思ったよりも小さいと面と向かって言われたことすら、ある。
悪かったですね、悪役令嬢なのに小さくって!
話が脱線しちゃった……。
つまり、参考にするとしたら、私よりも小さくて、可愛らしいサイズでアリーと同じくらいの背丈。
そう言うと分かりやすいだろう。
だから、『ちっちゃなおっさん』なのだ。
頭の毛も薄いじゃなくて、剃り上げたスキンヘッドだし、顔もこれといって特徴ないんだもん。
それであの言動だから、ギャップが強すぎるわ。
「ステルーノ卿。ごちゃごちゃ抜かしてねえでとっとと突撃しきやがれデスヨ」
「お嬢、ごどばおがじい」
「んだな。おがじいど」
あなたたちに言われたくないんだけど、二人の訛りは和める、癒されると意外にも王城でも大人気なのだ。
私はきつい、心が痛いと散々な言われ方なのに!
この違いは何?
あぁ、そうだったわね。
私は前世ではもっと嫌われてた。
何もしていないのに悪妻だの、悪女だのって。
それなら、髪を縦巻きにセットした方がいいかしら?
その方が見た目から、悪女らしいイメージになるわ。
あれ? なってどうするのよ!?
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