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第二章 セラフィナ十四歳

第35話 悪妻、目覚める

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 小鳥のさえずり。
 心地良く、差し込む日の光。
 気怠く感じながら、どこか重い瞼を開いた。

 ん? あれ?
 この感じは二度目な気がするんだけど?

「どうなっ……いたっ」

 自分の身体を確認すると夜着に着替えてる。
 ドレスを着ていたはずなんだけど!
 ま、まぁ、いいとしましょう。
 ノエミか、ナル姉が着替えさせてくれたんだろう。

 問題は身体中を包帯でグルグル巻きにされてるってことよっ!
 それも表面に薄っすらと血が滲んできてるのだ。
 もしかして、結構、血が出ちゃったのかな。
 え?
 じゃあ、どこかを怪我したのかしら?

 私は何をしてたんだろう?
 おかしい。
 婚約式の日、冒険から帰って、眠りについて……それからの記憶が全く、ないのだ。
 あの時、見た夢が思い出したくない内容だった、という漠然とした記憶は残っているのに。
 内容がまるで思い出せないなんて、おかしい。

 ちょっと頭が痛くなってきた。
 ……と丁度、部屋に入ってきたノエミと視線がぴったり合う。
 あれ? これも二度目じゃない?

「ひめしゃまー」

 痛いって!
 痛いから、そんなに抱き締められたら、あちこちが痛い。
 でも、ノエミの涙と鼻水ですごいことになってる顔を見ると許せてしまうのだ。
 そんなにも私のことを心配してくれてたという事実が嬉しい。

 でも、何か、大事なことを忘れてる気がする。
 何だったのか、思い出せないんだけど気になって、しょうがない。

 どうにか落ち着いたノエミがパパとママに報せにいった。
 二人がスゴイ勢いでやって来たのは言うまでもないだろう。
 顔がぐちゃぐちゃで酷い事になっているのはノエミとあまり、変わらない。
 どれだけ、心配かけてしまったんだろう。
 胸が痛い。

「セナ、もう何も心配しなくていいんだ」
「そうよ、セナ。今はゆっくり休みなさい」
「う、うん。ありがとう、パパ、ママ」
「「セナ―」」

 これで何度目って、くらいにこのやり取りを繰り返してる。
 だけど、この怪我だもん。
 相当に何かをやらかしてしまったことは間違いないだろう。

「ねぇ、私……何か、してしまいました?」
「い、いや、何も心配はいらないよ。セナは心配しなくても大丈夫だよ」
「え、ええ。本当にセナは何も気にしなくていいのよ?」

 あからさまに動揺をしてるみたい。
 怪しい。
 ノエミに聞いても『な、な、何もなかったですよ!?』と言いながら、目が泳いでるのはバレているのだ。
 ナル姉か、マテオ兄に聞いたら、教えてくれるかな。



 身体がまだ、回復していなかった私はその後、再び、意識を失った。
 目を覚ましたのはなんと、それから、三日後である。
 婚約式から既に一週間も経っていると聞いて、さらに驚いた。
 そして、ようやくナル姉とマテオ兄に会えるのだ。

「セナ、本当にもう大丈夫なの?」
「ええ、さすがに一週間も寝てたんだから、もう元気いっぱいよ」

 そう言ってみたけどまだ、包帯は巻かれたままなのよね。
 一体、何をしたんだろう、私。

「まだ、お前は休んでおくべきだろう」
「で、でも、何があったのか、気になっちゃって」

 言い方がすごくつっけんどん。
 有無を言わさぬ言い方だ。
 だけど、心配してくれてるってのは分かる。
 マテオ兄は言動のせいか、勘違いされやすい人だ。
 前世でも国を思って、色々と裏で動いていた。
 ところが勘違いされて、逆賊の汚名を着せられて、処刑されたのよね……。
 今度はそんなことさせるものか。
 マテオ兄となる姉が幼馴染って、だけじゃない特別な関係だと知ってるんだから。
 どうにかして、その仲を進展させたくって、シルビアとアリーからアイデアを貰ったのだ。
 互いに想い合っている二人には絶対に幸せになって欲しい。

「どうしたの?何か、思いつめたような顔しちゃって」
「あ? ううん、ちょっと考え事してただけだって。あの……二人に聞きたいことあって」
「どうした? お前にしてはまどろっこしい言い方だな」
「マテオ、言い方! セナだから、分かってくれるけど、そんなだから、誤解されるのよっ」
「す、すまん」

 あれ? この二人、余計なことをしなくても見ているだけで和むんだけど。
 初々しいって、いうのかな。
 こんな風に想い合える相手がいるのは幸せなことだわ。
 私にもそんな相手が出来るんだろうか。

「あのね。私、何かをしちゃったの?」

 まどろっこしいって言うから、はっきり言ったら、二人とも固まったんだけど!
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