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第一章 セラフィナ十二歳

第20話 悪妻、満喫する

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 王立学園での学生生活が始まってから、あっという間に半年が過ぎた。

 学園ではこれといって、変わったことは起きていない。
 前世ではなかったことばかりで張っていた気が弛みかけるくらいに平和だ。
 ファスティ先生はあの独特な喋り方と長いお話に目を瞑れば、とてもいい先生だった。

 ちょっとした揉め事があって、職員室が一触即発の状況に陥っていた。
 教師とは何をする者か?
 教師とはかくあるべきか?
 いわゆる教育論でヒートアップしていたらしい。
 その時、『はーい、皆さん、いいですかー』から始まる先生のお説教が始まった。
 『いいですかー、教師と人に呼ばれるから、教師ですかー? それは違いませんかー?』という言葉に混乱する同僚達にファスティ先生はまた、長い髪をかき分けながら、ピシャリと言ったそうだ。
 『いいですかー。教え導くから、教師と呼ばれている。呼ばれているから、満足ですかー? それは本当に教師なんですかー?』
 ざわつく面々に向けて『真の教師とは教え子に慕われ、教えを請われ、教授してこそではないですかー? 皆さん、それが出来てますかー?』という言葉が止めになったらしい。
 生徒の間にも職員室でのファスティ先生の武勇伝がそれとなく広まったせいか、先生は大変な人気者となった。
 一級クラスは羨ましがられている。
 本当に平和なものだ。

 そして、友人。
 未だにシルビアしか、いないという現状である。
 これは私に問題があるのだろうか。
 どちらともつかず、判断が出来なくて、困ってる。

 怖がられないように悪役令嬢ぽい縦巻きの髪型にもしていない。
 ツンケンした態度も取っていない。
 それなのに同級生から、避けられている気がする。
 ちょっと違うかしらね。
 避けられているというよりは遠巻きに見られている感じだ。
 まるで見えない壁でもあるようだ。

 たまに話しかけても上の空だったり、どもったりするので無意識のうちにまだ、怖がらせているのかもしれない。
 『私って、そんなに怖いかな?』と一度、シルビアに話を振ったことがあるんだけど『ん-、違うと思いますわ。セナはそのままでいてね』と微妙にはぐらかされた。

 ちなみに相変わらず、シルビアの距離感覚はおかしい。
 近い。
 授業の時、隣り合っているのはいいとしよう。
 さすがに肩が触れ合うのは近すぎやしません?
 ただ、妙な物で半年近く、続いていると慣れてきた気がする……。
 慣れちゃっていいものなのか、怪しいけどね。

 家庭教師であるタマラ先生との交流もまだ続いている。
 お陰で魔力のコントロールは初級レベルなら、楽々とこなせるようになってきた。
 制御を間違えて、森林伐採するような物騒な真似はあれ以来、なくなった。
 今は中級レベルを基礎から、学んでいるところだが彼女はモデストの姉弟子にあたる。
 私とモデストの関係があまり、良くないことを知っていて、心配しているようだ。
 それで彼の情報をたまに知らせてくれるのだが、あやつは怖いくらいに優秀らしい。
 その癖、先生が私のことをそれとなく伝えると途端に挙動不審になるのだとか。
 その落差が心配になってくるのだと私に言われても困るんだけど。

 モデストも相変わらずだ。
 どうしてこうなったっていうくらい、あの男はおかしい。
 とはいえ、一週間ごとにピンクの薔薇を贈ってくれるので、ちょっぴり嬉しかったりもする。
 ただ、一週間ごとはやり過ぎとさすがに周りに止められたみたい。
 一ヶ月に一回ってことで落ち着いたようだ。
 それなら、安心と思っていた私が甘かったわ。
 今度は両手で持ち切れないような花束を贈ってきやがりましたよ。
 いい加減な量ってものを分かっていないのかしら?



 日中は学園だから、そこそこ忙しい。
 だけど、夜は夜で頑張っている私だ。
 何かあった時の術として、始めた冒険者稼業なのに最近、楽しくてしょうがない。

 ただ、睡眠時間も考えて、あまり難しいものや時間がかかるものはこなせない。
 まだ、最低ランクのEのままだ。
 こればかりは焦ってもしょうがないものだと思う。
 毎日コツコツとこなしているお陰でDランクは目の前だったりするけど。

「マテオ兄! 避けて」

 それだけで察してくれたマテオ兄が身を屈め、低い体勢から目前のオークの太りかえった胴を横薙ぎにする。
 そんな彼の頭上を私の撃った魔法の矢が通り過ぎ、オークの喉元に深く突き刺さった。
 斧と弓による致命傷を喰らったオークは断末魔の悲鳴を上げることなく、物言わぬ躯となって大地に転がる。

「セナ、援護はいらんと言わなかったか?」
「はぁ? 私だって、倒したいもん」
「あのね、喧嘩してる暇があったら、真面目にやりなさいっ」

 錫杖クォーター・スタッフで目の前のオークの頭蓋骨を粉砕したナル姉が錫杖クォーター・スタッフを肩にかつぎ、腰に手を当てながら、そう言うものだから、何も言い返せない。
 何だか、迫力あり過ぎというか、貫禄が十分過ぎるのよ。

 私とマテオ兄はいつもこんな感じでナル姉に怒られるのが日常だ。
 二人とも彼女には頭が上がらない。
 幼い頃から、この関係は変わってないんだけど、このまま変わらないで欲しいとも思う。

「ねぇ、セナ。あの二人は付き合ってますの?」

 何かを企んでいるような微笑みを浮かべ、シルビアが耳打ちしてくる。
 だから、本当距離が近いって。
 耳打ちをされると彼女の吐息がかかって、ちょっと変な気がする。
 シルビアの場合、わざとやってないでしょうね?

「昔から、あの二人はああなのよ」
「そうなの? ふぅ~ん」

 そう言うシルビアの横顔は変に大人びて見えた。
 え? どうして、シルビアがいるのかって?
 それとなく、冒険者をしてる話を漏らしてしまって、『わたしも混ぜてくださいな』と言い出した。
 彼女は見た目がきつめに見えるだけで性格はのんびりしてる方だ。
 それなのに変なところで頑固というか、強情というか。
 とにかく言い出したら、一度連れてかない限りは説得も無理と判断して、連れて行った。
 これが運の尽きだったのよね。
 それ以来、毎回のように私、ナル姉、マテオ兄、シルビアの四人パーティーでの冒険の日々。

 私は武器を近接戦もこなせるように弓幹ゆがらにブレードを付けた魔法弓に変えた。
 変えたと言うよりはアンサラーはその……勝手に持ち出していたのがバレたので取り上げられたのだ。
 家宝だしね。

 怒られたりはしなかったけど、金庫に厳重に保管されたから、持っていけない。
 それで魔法がメインの私は後ろから、援護の出来る弓にしたのだ。
 シルビアも私と同じで魔法がメインだけど変わった武器を使っている。
 見た目としてはフレイルに近いものがあって、金属製の短い棍棒五本が鎖で連結されているのだ。
 それを器用に振り回しながら、襲い掛かって来るゴブリンを文字通り、叩き潰してた。
 正直、ナル姉と一緒で魔法=物理で叩きのめすと勘違いしているんじゃないかな。

 ともかく、多少の波風はあったものの本当に半年間は平和だったのだ。
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