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一幕 一級怪異襲来
第13話 このマニュピレーターは伊達じゃないな
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悠は思った。
黒い装甲機兵のパイロットは余程、律儀な人間なんだろう、と。
彼がミネルヴァの制御に成功し、しっかりと二本の足で大地に立つまでの間、クラーケンの妨害に合っていないのだ。
つまり、クラーケンは凍っていたということになる。
完全に凍結させる力があるのにも関わらず、敢えて、そうしていない。
自分自身の手で決着を付けろと言われている気がした悠は闘志を燃え上がらせる。
「この装甲機兵凄いぞ」
ミネルヴァが起動し、立ち上がるとまるで計っていたように解凍された触腕が次々に襲い掛かっていった。
しなる黒い鞭が左右だけではなく、上下からも襲うが、ミネルヴァの運動性は尋常な性能ではない。
その全てを余裕で避けていく。
戦いぶりを見ていて、忍者のような動きをする装甲機兵だと悠が感じていた理由はまさにこの運動性がなせる技だった。
迫りくる触腕の動きを見てからでも難なく、回避可能な運動性能は今までの装甲機兵とは次元が違う。
大地を蹴って、跳躍をする。
跳躍し、宙に浮く。
この状態は本来、無防備で危険である。
ところがミネルヴァは体の各部に装備された推進装置を効果的に使うことで、姿勢制御を行い、立体的な機動を可能としているのだ。
無防備で危険な状態を逆に自らの好機と成す。
これも実験的に取り入れられたミネルヴァの新機構の一つだった。
「このマニュピレーターは伊達じゃないな」
再び、宙に浮いたミネルヴァを好機と捉えたクラーケンは上から、叩きつけるように触腕をしならせて、襲い掛かった。
それを推進装置を軽く噴かせただけで難なく、避けたミネルヴァは右手で手刀を形作ると薙ぐように一閃させた。
どす黒い液体を放ちながら、触腕が一本切り落とされていた。
その切断面は非常にきれいなものだ。
「さて、ここから、どうする? 一息にいけるか?」
ミネルヴァは体を独楽のように回転させてから、着地する。
しかし、悠はそのまま、動きを止めるような下手は打たなかった。
着地の際に隙が生じることを知っているからだ。
着地と同時に前傾姿勢を取り、背部の推進装置を一気に噴かせると急加速でクラーケンとの間合いを瞬時に詰めるという勝負に打って出た。
「捉えた! ここか!!」
脚部の推進装置で姿勢を制御しながら、右足で軽く跳躍してから、蛸の目玉に目掛け、ミネルヴァが必殺の右手を繰り出す。
親指を除いた四本の指を揃えた貫手はクラーケンの目の中央部に深々と突き刺さった。
肉を貫く、耳障りな音は貫手の先端が恐らくはクラーケンの脳に達した証なのだろう。
うねるように動いていた全ての触腕が力を失い、どうと大地に沈んでいく。
「止めだ」
そのまま、ミネルヴァは再び、推進装置を吹かせると膝蹴りをクラーケンの胴に当てる。
反動で深く、突き刺さった右手を抜き取ると目玉だった場所から、ヘドロのようなどす黒い液体が流れだした。
流れ出た体液が地面を侵食するように溶かしていく様を後目にミネルヴァは着地した左足を屈伸させると無理矢理、跳躍する。
ミシミシという耳障りな音が左膝から、発生するが悠はそれに構うことなく、機体を動かした。
クラーケンの姿は蛸に似ている。
頭のように見える部分が胴体であり、そこに心臓も眠っている。
まだ、鼓動している心臓を止めなくては再び、再生する。
ミネルヴァの四本貫手を形作った右の拳が再び、叩き込まれた。
肉を断つ雑音とともに何かが破れる感覚を悠は確かに感じていた。
「終わったかな……」
大地に力無く、伸びている触腕が痙攣するようにピクピクと蠢いているが、クラーケン本体は動きを見せなかった。
悠の紅玉の色をした瞳には不可思議な力が宿っている。
クラーケンに命の輝き――光が見えないことから、そのものの生命活動が終了したのだと理解した。
「ふぅ。やれやれ。さてと帰るか」
悠はそう独り言つと床でまだ、まだ目を覚まさない少女を見やった。
しかし、これは丁度いい機会かもしれないと前向きに考えることにしたようだ。
彼が立てた筋書きは簡単な物だった。
『この子が全部やったことにして、俺は家に帰る』
そうしなければ、さらなる面倒事に巻き込まれるのは目に見えていると知っているからだ。
(この装甲機兵は自衛隊の機密事項だろう。いくら緊急事態で止むを得ない事情があったにしても勝手に動かしてしまったのはまずいよな)
開発者である光宗博士の関係者だとしてもただでは済まない可能性が高い。
これまでの経験から、悠はそう判断したのだ。
『三十六計逃げるに如かず』
思い立つと動きは早い。
(あの大木でいいか)
ミネルヴァの体を預けても、余りある大木を見つけた悠はその背を預け、腰掛けさせた。
(うん、いいんじゃないか? 不自然ではないはずだ)
悠の描いたシナリオではこうなっていた。
陸上自衛隊のパイロットは無意識のうちに戦闘を続け、見事に敵を倒した。
しかし、機体も自分も限界だったのでここで休もうとしたところで完全に意識を失ってしまった。
何もおかしいことはないはずだと彼は満足気に頷いた。
「よし! こんなところか」
黒髪の少女を再び、コックピットのシートに座らせた悠はなるべく自然に見えるように少し、ずれて座らせる。
あくまで自然というところに拘っていた。
不幸中の幸いは少女――望月三尉の体つきが年齢の割にあまり、女性的ではなかったことだろう。
青少年らしい意識を感じずに動かせたことに悠は満足した。
(うん、よし! 問題ない)
そして、本来の立役者は開けておいたハッチから、闇に支配された森の中へと姿を消すことに成功した。
森の中を駆け抜け、木々の間を跳躍する悠だったが、今までにない疲れを感じている。
(あの装甲機兵をいじったせいか? 不思議な感覚だったしなぁ……)
そんなことを考えている間に市街地に入り、彼は何食わぬ顔で眼鏡を掛けると歩き始めた。
「本当に疲れたな……帰ろう」
派手に動きすぎたかもしれない。
制服もかなり、汚れていた。
気休めにしかならないが、制服を軽く叩き、汚れを心無し落とした悠は足取りも重く、帰路に付くのだった。
黒い装甲機兵のパイロットは余程、律儀な人間なんだろう、と。
彼がミネルヴァの制御に成功し、しっかりと二本の足で大地に立つまでの間、クラーケンの妨害に合っていないのだ。
つまり、クラーケンは凍っていたということになる。
完全に凍結させる力があるのにも関わらず、敢えて、そうしていない。
自分自身の手で決着を付けろと言われている気がした悠は闘志を燃え上がらせる。
「この装甲機兵凄いぞ」
ミネルヴァが起動し、立ち上がるとまるで計っていたように解凍された触腕が次々に襲い掛かっていった。
しなる黒い鞭が左右だけではなく、上下からも襲うが、ミネルヴァの運動性は尋常な性能ではない。
その全てを余裕で避けていく。
戦いぶりを見ていて、忍者のような動きをする装甲機兵だと悠が感じていた理由はまさにこの運動性がなせる技だった。
迫りくる触腕の動きを見てからでも難なく、回避可能な運動性能は今までの装甲機兵とは次元が違う。
大地を蹴って、跳躍をする。
跳躍し、宙に浮く。
この状態は本来、無防備で危険である。
ところがミネルヴァは体の各部に装備された推進装置を効果的に使うことで、姿勢制御を行い、立体的な機動を可能としているのだ。
無防備で危険な状態を逆に自らの好機と成す。
これも実験的に取り入れられたミネルヴァの新機構の一つだった。
「このマニュピレーターは伊達じゃないな」
再び、宙に浮いたミネルヴァを好機と捉えたクラーケンは上から、叩きつけるように触腕をしならせて、襲い掛かった。
それを推進装置を軽く噴かせただけで難なく、避けたミネルヴァは右手で手刀を形作ると薙ぐように一閃させた。
どす黒い液体を放ちながら、触腕が一本切り落とされていた。
その切断面は非常にきれいなものだ。
「さて、ここから、どうする? 一息にいけるか?」
ミネルヴァは体を独楽のように回転させてから、着地する。
しかし、悠はそのまま、動きを止めるような下手は打たなかった。
着地の際に隙が生じることを知っているからだ。
着地と同時に前傾姿勢を取り、背部の推進装置を一気に噴かせると急加速でクラーケンとの間合いを瞬時に詰めるという勝負に打って出た。
「捉えた! ここか!!」
脚部の推進装置で姿勢を制御しながら、右足で軽く跳躍してから、蛸の目玉に目掛け、ミネルヴァが必殺の右手を繰り出す。
親指を除いた四本の指を揃えた貫手はクラーケンの目の中央部に深々と突き刺さった。
肉を貫く、耳障りな音は貫手の先端が恐らくはクラーケンの脳に達した証なのだろう。
うねるように動いていた全ての触腕が力を失い、どうと大地に沈んでいく。
「止めだ」
そのまま、ミネルヴァは再び、推進装置を吹かせると膝蹴りをクラーケンの胴に当てる。
反動で深く、突き刺さった右手を抜き取ると目玉だった場所から、ヘドロのようなどす黒い液体が流れだした。
流れ出た体液が地面を侵食するように溶かしていく様を後目にミネルヴァは着地した左足を屈伸させると無理矢理、跳躍する。
ミシミシという耳障りな音が左膝から、発生するが悠はそれに構うことなく、機体を動かした。
クラーケンの姿は蛸に似ている。
頭のように見える部分が胴体であり、そこに心臓も眠っている。
まだ、鼓動している心臓を止めなくては再び、再生する。
ミネルヴァの四本貫手を形作った右の拳が再び、叩き込まれた。
肉を断つ雑音とともに何かが破れる感覚を悠は確かに感じていた。
「終わったかな……」
大地に力無く、伸びている触腕が痙攣するようにピクピクと蠢いているが、クラーケン本体は動きを見せなかった。
悠の紅玉の色をした瞳には不可思議な力が宿っている。
クラーケンに命の輝き――光が見えないことから、そのものの生命活動が終了したのだと理解した。
「ふぅ。やれやれ。さてと帰るか」
悠はそう独り言つと床でまだ、まだ目を覚まさない少女を見やった。
しかし、これは丁度いい機会かもしれないと前向きに考えることにしたようだ。
彼が立てた筋書きは簡単な物だった。
『この子が全部やったことにして、俺は家に帰る』
そうしなければ、さらなる面倒事に巻き込まれるのは目に見えていると知っているからだ。
(この装甲機兵は自衛隊の機密事項だろう。いくら緊急事態で止むを得ない事情があったにしても勝手に動かしてしまったのはまずいよな)
開発者である光宗博士の関係者だとしてもただでは済まない可能性が高い。
これまでの経験から、悠はそう判断したのだ。
『三十六計逃げるに如かず』
思い立つと動きは早い。
(あの大木でいいか)
ミネルヴァの体を預けても、余りある大木を見つけた悠はその背を預け、腰掛けさせた。
(うん、いいんじゃないか? 不自然ではないはずだ)
悠の描いたシナリオではこうなっていた。
陸上自衛隊のパイロットは無意識のうちに戦闘を続け、見事に敵を倒した。
しかし、機体も自分も限界だったのでここで休もうとしたところで完全に意識を失ってしまった。
何もおかしいことはないはずだと彼は満足気に頷いた。
「よし! こんなところか」
黒髪の少女を再び、コックピットのシートに座らせた悠はなるべく自然に見えるように少し、ずれて座らせる。
あくまで自然というところに拘っていた。
不幸中の幸いは少女――望月三尉の体つきが年齢の割にあまり、女性的ではなかったことだろう。
青少年らしい意識を感じずに動かせたことに悠は満足した。
(うん、よし! 問題ない)
そして、本来の立役者は開けておいたハッチから、闇に支配された森の中へと姿を消すことに成功した。
森の中を駆け抜け、木々の間を跳躍する悠だったが、今までにない疲れを感じている。
(あの装甲機兵をいじったせいか? 不思議な感覚だったしなぁ……)
そんなことを考えている間に市街地に入り、彼は何食わぬ顔で眼鏡を掛けると歩き始めた。
「本当に疲れたな……帰ろう」
派手に動きすぎたかもしれない。
制服もかなり、汚れていた。
気休めにしかならないが、制服を軽く叩き、汚れを心無し落とした悠は足取りも重く、帰路に付くのだった。
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