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一幕 一級怪異襲来

第9話 日本の自衛隊は優秀だね

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 微かな光に照らされただけの薄暗い通路を一人の少女が歩みを進めている。
 歩くたびにサラサラと揺れる白金の色をした長い髪を闇の色に染められたビロードのリボンで軽く後ろにまとめるとボルドーに染められたケープマントを羽織った。

 その下に纏うのは闇色のレースのショールが合わせられたワインレッドのコルセットワンピース。
 手首までもある長い袖のコルセットにはショールと同じ黒いレースがスカートを覆うようにあしらわれていた。
 膝丈までの長さがあるスカートから、覗く足は透き通るような白い肌が見え隠れしていた。

「準備は出来てますの?」

 猫を思わせるやや吊り上がった目を飾るのは美しい紅玉ルビーの色で彩られた瞳だ。
 その視線は通路の先に鎮座するモノに向けられていた。
 闇そのものを纏い、静かに佇むモノを見つめる少女の薄く紅を塗ったかのような桜色の唇から、玲瓏たる声が紡ぎ出された。



「おいおい、冗談きついって!」

 信じられないことに空から、降って来た銀色の物体――空中で携行機から、切り離されたミネルヴァが一直線にクラーケンの胴体を目掛け、お手本通りのきれいなドロップキックを決めた。
 クラーケンは悠を捕捉し、まるでそれしか、見ていないと言わんばかりに目前だけを見ていた。
 それもあって、不意に空から、現れた白銀の機体の初撃をもろに喰らったのだ。
 木々を薙ぎ倒し、大きな風切り音を立てながら、吹き飛んで行った。

 その蹴りの一撃はクラーケンの急所に的確に入っているように見えた。
 ただし、『相手が人間なら』という注意事項が入るかもしれない。
 何しろ、クラーケンは得体が知れない怪異――お化け蛸なのだ。

「日本の自衛隊は優秀だね」

 いつの間にクラーケンの足取り捕捉をしていたのだろうか。
 数機の軍用ヘリコプターが上空に滞空しているだけではない。
 地上にも相当数の装甲機兵アーマードマシナリーが展開していた。
 機体のシルエットだけではっきりとした判断は出来ないが、ゼファーが多い。
 最新型の装甲機兵アーマードマシナリーであるメルクリウスはまだ、配備が始まったばかりということもあって、数機しか含まれていない。

「蛸に追っかけられて、最悪の一日かと思ったが案外、そうでもないかな」

 そう言ってみた悠だったが、サーチライトに照らし出されたクラーケンの姿は思っていた以上に不気味でおどろおどろしいものだった。
 蛸も十分に不気味な部類に入る生物であると思われる。
 しかし、それと比べたら、普通の蛸は遥かに可愛らしく見えるだろう。
 吐き気を覚える醜悪さと言っても過言では無い。

 サーチライトに照らされた体表がぬめぬめとした奇妙な光沢を放ち、うねうねと蠢く八本の触腕が不気味さに拍車をかけていた。
 触腕の先から、滴り落ちるヘドロ状の液体が大地に接すると白煙を上げ、大地を侵食する。
 見た目だけではなく、クラーケンを構成する要素全てが毒々しいのだ。

 そして、装甲機兵アーマードマシナリーの部隊による斉射が始まった。
 ゼファーの主力兵装であるハンドレールガンを用いた火力集中による標的破壊作戦が実行されたのだ。
 ハンドレールガンは分厚い鋼板をも軽く、貫通する優秀な武装である。
 ただし、それも軟体生物に近いクラーケンが相手となると本来の威力を発揮出来るか、未知数だった。。
 どうなるんだろうかと悠は楽しみでワクワクしながら、その様子を眺めていた。

「効果なしか……」

 ハンドレールガンによる一斉掃射は見ている分には爽快そのものだ。
 これぞ、巨大ロボット!
 これぞ、リアル・ロボファイト!
 一点を目掛けた火力の集中は自衛隊の演習でも一大見物である。
 ましてや、自衛隊の最新鋭装備である装甲機兵アーマードマシナリー部隊による実戦なのだ。

 ハンドレールガンはその威力を世に知らしめるのに十分な働きを示した。
 圧倒的なスピードを伴い、射出された弾丸は見事に目標に着弾していたのだ。
 しかし、相手が悪かった。
 クラーケンは何事もなかったかのように平然としている。

 お返しとばかりに鞭のようにしなった触腕が風切り音を立てながら、射撃を続ける装甲機兵アーマードマシナリーへと襲い掛かった。
 その威力は中々に凄まじく、最新鋭の装甲機兵アーマードマシナリーが腕や足を破壊され、次々とスクラップと化していく。

(ロマンの塊が……おのれ、蛸野郎!)

 悠の思いが通じたのだろうか?
 銀のボディを光で輝かせながら、ミネルヴァが二振りの刀を取り出し、構えを取った。
 腰部に装備された二振りの刀はいわゆる、忍び刀と呼ばれる特殊な刀の形状を模している。
 刃に反りが無く、直刀の形を成しているのだ。

「頑張れ、忍者ロボ!」

 特等席でロマン溢れる戦いを見られる。
 闇のカーテンを纏った夜空に浮かぶ月が静かな光を湛えて見守る中、悠は白銀の忍者とお化け蛸の戦いから、目を離すことが出来なかった。
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