薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸

文字の大きさ
上 下
64 / 73
第二部 偽りから生まれる真実

第57話 私にも出来ます

しおりを挟む
 射し込む太陽の眩い光で気持ちのいい目覚め。
 まずは手首を直角に曲げ、手を前に出します。
 大きく、息を吐きながら、ゆっくりと指を一本ずつ折って……って、んー?

「え? あれ?」

 私はいつ部屋に戻ったんでしょうか?
 昨夜、シルさんとお話していて、途中で急にストンと記憶が抜けているんですよね。
 何か、言われたような記憶があるのですが、思い出せません。

 それに自分で部屋に戻って、寝たのでしょうか。
 シルさんが運んでくれた?
 本人に聞けば、はっきりするのですが……。

 『私、寝てしまったのでしょうか? シルさんが運んでくれたんですね。ありがとうございます』と言えば、いいのでしょうか。
 一方的に意識しているみたいで気持ち悪いと思われるのではないでしょうか。

 悪い考えが頭の中をグルグルと巡って、よろしくありません。
 こんなことでは今日の朝御飯も失敗しそうです……。



 奇跡です。
 奇跡が起きました。

 起床時のルーティンワークをちゃんと、こなしたのがよかったのでしょうか。
 とにかく、大成功です。

「アリーさん。これはどうやったのですか?」
「ママ。はーとがしゅあわあせ幸せ
「偶然、出来たんです♪」

 目玉焼きが焦げていません。
 いえ、そうではなくて!
 なぜかは分からないのですが、目玉焼きがハート型になったんです。
 やはり、日頃の行いがいいからでしょうか?
 迷える仔羊をのは、神の御心にかなっているんですね。

 え? 何でしょうか?
 パミュさんに疑いの目を向けられているような……。
 何か、変なことを言ったでしょうか?

「ママ。じしんもて」
「大丈夫です、パミュさん。この地方で地震は滅多に起きませんよ」

 あれ? どうしたのでしょうか?
 パミュさんの憐れな者を慈しむようでいて、どこか違うところを見ているような不思議な目をしています。
 シルさんはシルさんで口許を押さえ、くつくつと笑っています。

 でも、なぜか理由が分からないけど、幸せなんです。
 胸の中がほんのりと温かくなるような錯覚を覚えて。
 一人では決して、味わえない幸せ。
 ずっと三人で一緒にいられたら、いいのに……。



 ええ、朝食の時は三人一緒がいいと願いました。
 でも、まさか今日一日ずっと一緒に行動することになるとは思っていませんでした。

「ママ、どした?」
「え? 何でもありませんよ」

 パミュさんを真ん中にして、三人で歩いているとまるで本物の家族そのものではないでしょうか?
 おまけに手を繋いでいるんです。
 これはもう家族です!

「チッチッチッ。ママ。さんにんでない。よにん」
「え、えぇ」

 パミュさんの背中には灰色猫のぬいぐるみが、括りつけられています。

 最初は抱っこして、歩きたかったようですが、それではいざという時に対処が出来ません。
 もしも、暴漢に襲われた場合、両手がふさがれていると蹴りでしか、対応が出来ません。
 勿論、蹴りだけでも十分に対応は出来ますし、熊や狼程度であれば、蹴りだけでも仕留められないことはありません。

 ただ、それにははっきりとした視界を確保することが大事です。
 ぬいぐるみにより、それが妨げられることは明らかではないでしょうか。

 そこで私が金糸で縁取りがされたグリーンのリボンを見繕って、彼女に括りつけたという訳なんです。

「パミュさん。どうされました?」
「な、なでもない」

 少々、パミュさんの顔が青褪めているように見受けられます。
 歩くのに疲れたのでしょうか?
 それともまさか、流感!?

 いけません。

「ママ、ちがう。パミュ、だいじょぶ大丈夫

 はっきりと頭を左右に振って、否定されました。
 本当に大丈夫なのでしょうか。
 心配です。

 シルさんはシルさんで私達のやり取りを見て、目を細めて……笑いをこらえていませんか?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない

新高
恋愛
リサは3カ国語を操り、罵詈雑言ならば7カ国語は話すことができる才女として有名な伯爵令嬢だ。そして、元は捨て子であることから「雑草令嬢」としても名を知られている。 そんな知性と雑草魂をかわれ、まさかの国王の寵姫として召し上げられた。 隣国から嫁いでくる、わずか十一歳の王女を精神面で支える為の存在として。さらには、王妃となる彼女の存在を脅かすものではないと知らしめるために、偽装結婚までするハメに!相手は国王の護衛の青年騎士。美貌を持ちながらも常に眉間に皺のある顰めっ面に、リサは彼がこの結婚が不本意なのだと知る。 「私は決して、絶対、まかり間違っても貴方を愛することはありませんから! ご安心ください!!」 余計に凍り付いた夫の顔におののきつつ、でもこの関係は五年の契約。ならばそれまでの我慢と思っていたが、まさかの契約不履行。夫は離婚に応じないと言い出した。 国王夫婦を支えつつ、自分たちは思春期全開な仮初め夫婦のラブコメです。 ※他サイト様でも投稿しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

妻とは死別する予定ですので、悪しからず。

砂山一座
恋愛
我儘な姫として軽んじられるクララベルと、いわくつきのバロッキー家のミスティ。 仲の悪い婚約者たちはお互いに利害だけで結ばれた婚約者を演じる。 ――と思っているのはクララベルだけで、ミスティは初恋のクララベルが可愛くて仕方がない。 偽装結婚は、ミスティを亡命させることを条件として結ばれた契約なのに、徐々に別れがたくなっていく二人。愛の名のもとにすれ違っていく二人が、互いの幸福のために最善を尽くす愛の物語。

処理中です...