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第二部 偽りから生まれる真実
第48話 シンデレラは見た①
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(三人称視点)
化け物二人を前に少女は生まれて初めて、恐怖という感情を抱いた。
少女の名はシンデレラ。
灰かぶりは処刑での秘匿名である。
頭から灰を被ったようだと揶揄されるシルバーブロンドの髪。
髪とは対照的にはっきりとした碧玉色の瞳には決して、屈しない強さを宿していた。
少女のように見えるだけで実年齢が分からない年齢不詳の者が多い暗殺者の中でゾールゥシカは正真正銘十七歳の乙女である。
彼女は恐れを知らず、未だ磨かれていない玉だった。
フロントからは同格の狼男と天馬と共同作戦を張ると伝えられ、十七名の名無しを付けられた。
名無しとは秘匿名を与えられていない駆け出しの暗殺者のことだ。
処刑での暗殺者の養成では時に死者が出るすら厭わない。
ただし、これは通常の養成を終えた場合の話である。
この要請を終えた者が名無しの暗殺者となる。
時に死者ではなく、生きて帰る者の方が希少な地獄の特訓を切り抜けた者は名無しではない。
能力に相応しい秘匿名を与えられ、待遇も違うのである。
名有りと名無しには歴然とした力の差があった。
とはいえ、名無しのであってもセレス王国の騎士風情に後れを取ることはない。
それだけの技量を有する者十七人が一瞬で無力化された。
全く、寄せ付けないなどという生易しいものではなかった。
ワンサイドゲーム。
一方的な虐殺である。
あまりにも速く、華麗な動きに見惚れている間に名無しは全員、物言わぬ骸と化していたのだから。
しかし、この時のゾールゥシカにはまだ、希望という名の光が見えていた。
自分を始めとした名有りの三人がいる。
いくら手練れであろうと数の上では有利である以上、心に余裕があったのだ。
「私は右を片付けますから、アーベントさんは左をお願いしますね」
「了解した」
「え?」とゾールゥシカが思っているうちに薔薇姫は狼男の右腕を斬り飛ばしていた。
狼男は秘匿名が示すように人狼に変化する獣人である。
人狼の圧倒的なパワーとスピードには普通の人間では太刀打ち出来ない。
ところが修道女は刺突専門の短剣を使って、変身途中の狼男の右腕を斬って見せた。
人狼の回復力が早いとはいえ、片腕を完全に切断されては厳しいものがあった。
「おのれ! 変身が終わっていれば!」と悔しがる隻腕の人狼と化した狼男に対し、薔薇姫は整った顔に酷薄な笑みを浮かべる。
「姿が変わろうと無駄でしょう? 試したいですか?」
その表情と言葉に嘘はなかった。
薔薇姫は短剣を使わず、単純な力比べで狼男の残った左腕を粉砕した。
拳の骨を粉々に砕かれ、妙な向きに曲がった左腕を見て、ゾールゥシカの心に今までに感じたことの無い感情が浮かび始めていたのである。
それが恐怖だった。
化け物二人を前に少女は生まれて初めて、恐怖という感情を抱いた。
少女の名はシンデレラ。
灰かぶりは処刑での秘匿名である。
頭から灰を被ったようだと揶揄されるシルバーブロンドの髪。
髪とは対照的にはっきりとした碧玉色の瞳には決して、屈しない強さを宿していた。
少女のように見えるだけで実年齢が分からない年齢不詳の者が多い暗殺者の中でゾールゥシカは正真正銘十七歳の乙女である。
彼女は恐れを知らず、未だ磨かれていない玉だった。
フロントからは同格の狼男と天馬と共同作戦を張ると伝えられ、十七名の名無しを付けられた。
名無しとは秘匿名を与えられていない駆け出しの暗殺者のことだ。
処刑での暗殺者の養成では時に死者が出るすら厭わない。
ただし、これは通常の養成を終えた場合の話である。
この要請を終えた者が名無しの暗殺者となる。
時に死者ではなく、生きて帰る者の方が希少な地獄の特訓を切り抜けた者は名無しではない。
能力に相応しい秘匿名を与えられ、待遇も違うのである。
名有りと名無しには歴然とした力の差があった。
とはいえ、名無しのであってもセレス王国の騎士風情に後れを取ることはない。
それだけの技量を有する者十七人が一瞬で無力化された。
全く、寄せ付けないなどという生易しいものではなかった。
ワンサイドゲーム。
一方的な虐殺である。
あまりにも速く、華麗な動きに見惚れている間に名無しは全員、物言わぬ骸と化していたのだから。
しかし、この時のゾールゥシカにはまだ、希望という名の光が見えていた。
自分を始めとした名有りの三人がいる。
いくら手練れであろうと数の上では有利である以上、心に余裕があったのだ。
「私は右を片付けますから、アーベントさんは左をお願いしますね」
「了解した」
「え?」とゾールゥシカが思っているうちに薔薇姫は狼男の右腕を斬り飛ばしていた。
狼男は秘匿名が示すように人狼に変化する獣人である。
人狼の圧倒的なパワーとスピードには普通の人間では太刀打ち出来ない。
ところが修道女は刺突専門の短剣を使って、変身途中の狼男の右腕を斬って見せた。
人狼の回復力が早いとはいえ、片腕を完全に切断されては厳しいものがあった。
「おのれ! 変身が終わっていれば!」と悔しがる隻腕の人狼と化した狼男に対し、薔薇姫は整った顔に酷薄な笑みを浮かべる。
「姿が変わろうと無駄でしょう? 試したいですか?」
その表情と言葉に嘘はなかった。
薔薇姫は短剣を使わず、単純な力比べで狼男の残った左腕を粉砕した。
拳の骨を粉々に砕かれ、妙な向きに曲がった左腕を見て、ゾールゥシカの心に今までに感じたことの無い感情が浮かび始めていたのである。
それが恐怖だった。
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