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第二部 偽りから生まれる真実
第37話 夕暮れと薔薇姫のラブゲーム・序
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(アーベント視点)
アリーさんの後輩フォレスタ嬢を我が家に迎え入れた。
彼女を利用して夫婦円満なところを大々的にアピールする作戦だが、今のところ、順調と言える。
ナイト・ストーカーのマニュアルは完璧である。
このような事態においても完璧なスマイルで家庭的な男を演じるくらい造作もないことなのだ。
だが、フォレスタ嬢は中々に聡いところがある。
俺に微かな違和感を抱いているように見えた。
用心するに越したことはない。
しかし、俺はナイト・ストーカーだ。
抜かりはない。
この日の為にアリーさんとパミュとは綿密な打ち合わせをした。
血の滲むような練習もしてきた。
正直なところ、パミュが全てを理解してやってくれるとは思えない。
だが、今のところ、優しい継母を慕う健気な幼子を演じてくれているようだ。
アリーさんとパミュは百貨店に出かけてから、急速に仲が良くなっている。
そのことが良い方に働いたのだろう。
アリーさんは演技というにはあまりにも自然体だ。
いくら偽装夫婦だといってもあそこまで完璧に恥じらう新妻を演じられるものだろうか?
ならば、彼女は本当に俺のことを気にしているとでも言うのか。
いや。
今はそこを気にしている場合ではないな。
フォレスタ嬢がテーブルの裏に何かを仕掛けるのを確認した。
アレは確か、市場に出回ったばかりの盗聴用の魔道具で間違いない。
ふむ。
アリーさんと二人で特訓した成果の見せどころが来たということだ。
会食は実に和やかに終わった。
最初は訝しげにしていたフォレスタ嬢もしまいには相好を崩していた。
しかし、俺への警戒心はまだ、消えていないように思える。
本人は隠そうとしているが、俺の目は誤魔化せない。
パミュの屈託のなさ。
恥じらいからと思われるアリーさんの意図せぬ自然な振る舞い。
二人のお陰で彼女の警戒心がかなり、薄れたように感じられる。
だが、フォレスタ嬢に我々の夫婦生活が円満であり、問題がないということを周囲に吹聴してもらわねばならない。
あの魔道具を介して、止めを刺しておく必要があるだろう。
会食が終わり、談笑している間にいつしか、窓から見える空は闇一色に塗りつぶされていた。
パミュが眠そうに目を擦り始めたことから、これでお開きとなる。
しかし、フォレスタ嬢にこのまま、帰ってもらう訳にはいかない。
「既に遅いので今日は泊っていかれてはいかがですか?」
「まぁ。それはいいですね」
「え? でもぉ、それではご迷惑になりませんかぁ?」
そう言いながらもフォレスタ嬢のウサギ耳が僅かにピョコピョコと揺れていたことを見逃す俺ではない。
しおらしいことを言っているのでアリーさんは完全に騙されているが、彼女の中で我が家に泊まることが前提だったと考えざるを得ない。
あの魔道具はそれほどに効果範囲が広くないのだ。
もっとも効率がいいのは同じ空間にいることだろう。
「ゲストルームがあるのでかまわないよね、アリー」
「え、えぇ。あ、あなたがいいのなら」
はにかむように薄っすらと笑みを浮かべながら、恥じらうアリーさんの返答は演技なのか?
それとも自然なのか?
正直、俺にも見破れないのはなぜだ……。
支度を終え、夜着に着替えたパミュが眠そうな顔で自室へと入っていく。
いつも元気なパミュとはいえ、さすがに疲れたのだろう。
そう思っているといつもの全てを見透かしているかのような不思議な視線を向けてきた。
グッと親指を立て、部屋の扉を閉めた。
一体、何なんだ、あの子は……。
いかん。
パミュに気を取られている場合ではない。
例の作戦を実行する時が来たのだ。
フォレスタ嬢も既にゲストルームに下がっている。
彼女はどのような音が拾えるかと手ぐすねを引いて、待っていることだろう。
アリーさんも既に入浴を済ませ、夜着に着替えている。
先日、百貨店で購入した葡萄酒色のベロアキャミソールワンピースを早速、着てくれているようだ。
彼女の蠱惑的な体つきを隠すどころか、強調している。
選んだのは俺だが、これは失敗したというべきか?
湯上りでほんのりと色付いた肌のアリーさんが、魅力的に見えている。
いかん……。
俺はナイト・ストーカーだ。
いつ如何なる時でも冷静でなくてはいけない。
全く、魔道具の存在に気が付いていないアリーさんにジェスチャーでテーブルの裏を指し示す。
彼女はおっとりとしているが、百貨店での一件もあるように察しがいい人だ。
すぐに気付いてくれた。
(やるんですね?)
(はい。特訓の成果を見せる時です)
アリーさんのは分かりやすかった。
俺の言葉がちゃんと彼女に伝わったのだろうか。
少々、不安ではあったが彼女はわざと音が出るように椅子を引いて、腰掛けてくれた。
これは内容が伝わったと考えてよさそうだ。
アリーさんの後輩フォレスタ嬢を我が家に迎え入れた。
彼女を利用して夫婦円満なところを大々的にアピールする作戦だが、今のところ、順調と言える。
ナイト・ストーカーのマニュアルは完璧である。
このような事態においても完璧なスマイルで家庭的な男を演じるくらい造作もないことなのだ。
だが、フォレスタ嬢は中々に聡いところがある。
俺に微かな違和感を抱いているように見えた。
用心するに越したことはない。
しかし、俺はナイト・ストーカーだ。
抜かりはない。
この日の為にアリーさんとパミュとは綿密な打ち合わせをした。
血の滲むような練習もしてきた。
正直なところ、パミュが全てを理解してやってくれるとは思えない。
だが、今のところ、優しい継母を慕う健気な幼子を演じてくれているようだ。
アリーさんとパミュは百貨店に出かけてから、急速に仲が良くなっている。
そのことが良い方に働いたのだろう。
アリーさんは演技というにはあまりにも自然体だ。
いくら偽装夫婦だといってもあそこまで完璧に恥じらう新妻を演じられるものだろうか?
ならば、彼女は本当に俺のことを気にしているとでも言うのか。
いや。
今はそこを気にしている場合ではないな。
フォレスタ嬢がテーブルの裏に何かを仕掛けるのを確認した。
アレは確か、市場に出回ったばかりの盗聴用の魔道具で間違いない。
ふむ。
アリーさんと二人で特訓した成果の見せどころが来たということだ。
会食は実に和やかに終わった。
最初は訝しげにしていたフォレスタ嬢もしまいには相好を崩していた。
しかし、俺への警戒心はまだ、消えていないように思える。
本人は隠そうとしているが、俺の目は誤魔化せない。
パミュの屈託のなさ。
恥じらいからと思われるアリーさんの意図せぬ自然な振る舞い。
二人のお陰で彼女の警戒心がかなり、薄れたように感じられる。
だが、フォレスタ嬢に我々の夫婦生活が円満であり、問題がないということを周囲に吹聴してもらわねばならない。
あの魔道具を介して、止めを刺しておく必要があるだろう。
会食が終わり、談笑している間にいつしか、窓から見える空は闇一色に塗りつぶされていた。
パミュが眠そうに目を擦り始めたことから、これでお開きとなる。
しかし、フォレスタ嬢にこのまま、帰ってもらう訳にはいかない。
「既に遅いので今日は泊っていかれてはいかがですか?」
「まぁ。それはいいですね」
「え? でもぉ、それではご迷惑になりませんかぁ?」
そう言いながらもフォレスタ嬢のウサギ耳が僅かにピョコピョコと揺れていたことを見逃す俺ではない。
しおらしいことを言っているのでアリーさんは完全に騙されているが、彼女の中で我が家に泊まることが前提だったと考えざるを得ない。
あの魔道具はそれほどに効果範囲が広くないのだ。
もっとも効率がいいのは同じ空間にいることだろう。
「ゲストルームがあるのでかまわないよね、アリー」
「え、えぇ。あ、あなたがいいのなら」
はにかむように薄っすらと笑みを浮かべながら、恥じらうアリーさんの返答は演技なのか?
それとも自然なのか?
正直、俺にも見破れないのはなぜだ……。
支度を終え、夜着に着替えたパミュが眠そうな顔で自室へと入っていく。
いつも元気なパミュとはいえ、さすがに疲れたのだろう。
そう思っているといつもの全てを見透かしているかのような不思議な視線を向けてきた。
グッと親指を立て、部屋の扉を閉めた。
一体、何なんだ、あの子は……。
いかん。
パミュに気を取られている場合ではない。
例の作戦を実行する時が来たのだ。
フォレスタ嬢も既にゲストルームに下がっている。
彼女はどのような音が拾えるかと手ぐすねを引いて、待っていることだろう。
アリーさんも既に入浴を済ませ、夜着に着替えている。
先日、百貨店で購入した葡萄酒色のベロアキャミソールワンピースを早速、着てくれているようだ。
彼女の蠱惑的な体つきを隠すどころか、強調している。
選んだのは俺だが、これは失敗したというべきか?
湯上りでほんのりと色付いた肌のアリーさんが、魅力的に見えている。
いかん……。
俺はナイト・ストーカーだ。
いつ如何なる時でも冷静でなくてはいけない。
全く、魔道具の存在に気が付いていないアリーさんにジェスチャーでテーブルの裏を指し示す。
彼女はおっとりとしているが、百貨店での一件もあるように察しがいい人だ。
すぐに気付いてくれた。
(やるんですね?)
(はい。特訓の成果を見せる時です)
アリーさんのは分かりやすかった。
俺の言葉がちゃんと彼女に伝わったのだろうか。
少々、不安ではあったが彼女はわざと音が出るように椅子を引いて、腰掛けてくれた。
これは内容が伝わったと考えてよさそうだ。
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