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第二部 偽りから生まれる真実
第36話 ウサギちゃん台風襲来
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(クレメンティーナ視点)
ローラ先輩が七日間もギルドを休んでいる間、あたしの日常も色褪せたようにつまらなかった。
先輩はあまり、自分のことを語ろうとしない。
それでもあたしのことを少しは信頼してくれてるんだろう。
ちょっとだけ、教えてくれた。
子供の頃の記憶がほとんどないらしい。
「たまに夢で見るのよね。あの情景は過去のことなんだと思う」と小さな声で呟くように言った先輩の姿はとても寂しそうだった。
でも、あたしが一人で喋っているのを見て、嬉しそうに相槌を打ってくれる先輩は優しくて。
そんな先輩が好き。
だから、あの人を不幸にするような結婚なら、どんな手を使っても別れさせるんだ!
ローラ先輩の夫となった男は確かにいい男に見えた。
休暇届をギルドに出しに来た姿を偶然、見かけたのだ。
背は高いし、顔も整っているし、身のこなしも軽やかだった。
あれは普通に動ける人の体つきだ。
先輩がお昼に持ってきたバスケットいっぱいのパン。
あれもかなり手の込んだパンだ。
刻まれた香味が散りばめられたソースのついたローストビーフと新鮮な葉野菜を挟んでる。
おまけに口許を汚したくない女性でも食べやすいようにカットしてあるのだ。
あの男、出来る。
おまけに妻の代わりに休暇届を出しに来るなんて、気遣いの怪物かというくらいに気が利いてる。
でも、上辺だけかもしれない。
表向きはいい夫婦関係であることをアピールしようとしてるだけかもしれない。
そうよ。
あたしにしか、先輩を救えないわ!
頑張らなきゃ。
この日の為にちょっとばかり高かったけど、とっておきの魔道具も手に入れた。
「見せてもらいましょうか。化けの皮、剝がしてやるんだから」
先輩の家はパラティーノの郊外にあった。
市内までの距離はそこそこあるとはいえ、いわゆる一等地と呼ばれる地域だ。
「ほぇ~。ここ、高級別荘地で有名な……。ぐぬぬぬ」
並んでいるのはお屋敷ばかり。
二十代なのに結婚を機にこんないいところに家を買った。
先輩のことを大切にしてる証拠なんだろうか?
それとも他に何か、考えが……。
「古いけど、いいわぁ。スゴク素敵」
風格があるとか、趣きがあるとか、そんな感じがする。
何だか、歴史を感じさせるのだ。
建築や美術がよく分からないあたしでもお金がかかっていると感じるのだから。
奇妙な怪物を模したような不気味なデザインのドアノッカーに手を掛けて、鳴らそうとすると不意に扉が開いた。
「いらっしゃい。フォレスタさん」
何だろう?
先輩の旦那さんはとても、にこやかな笑顔であたしを迎え入れてくれた。
親近感を感じる笑顔なのにあたしの中の何かが、警鐘を鳴らしてる気がする。
その何かが分からないので気持ちが悪い。
「ティナ。いらっしゃい」
「らしゃます」
髪留めで顔が見えるように前髪を調整して、ポニーテールにしてるローラ先輩は今日もスゴクきれいだ。
ギルドでは先輩が絶対に着ない薄着に近い部屋着に手を通して、さらにエプロンまでしていて。
それじゃ、まるで奥さんみたいじゃないですかぁ!
おまけにその裾を握って、べったりとくっついているかわいらしい女の子は誰なんですぅ!?
旦那さんがテキパキと料理をして、先輩は食器を並べる。
あたしと小さな女の子――パミュちゃんは所在なさげにテーブルにおとなしく、ついてるしかない。
手伝おうとしたら、旦那さんに「お客様の手を煩わせたら、僕がアリーに怒られてしまいますよ」と言われたのだ。
何という出来た夫!
あまりにもデキスギていて、逆に怪しい……。
そう考えて、観察してるんだけど、隙がない。
「アリー、出来ましたよ」
「は、はい。あ、あなた」
自然な旦那さんに対して、先輩はどこか挙動不審というか、頬を赤らめていて。
まるで恋する乙女みたい。
ぐぬぬぬ。
パミュちゃんにも何だか、可哀想な子を見るような目で見られてる気がする。
何なの、この子?
でも、あたしには奥の手がある。
例の高かった魔道具をテーブルの裏にくっつけた。
これで準備は完了ね。
この魔道具は何と、盗聴が出来てしまうのだ。
風の魔法を応用して、離れた場所に音声を届けることを可能にしてる。
まだまだ、発展途上の道具らしくて、聞き取るのには相当な聴力が必要なんだけど……あたしは草奔族なのだ。
ウサギ耳は伊達じゃないのよ!
ローラ先輩が七日間もギルドを休んでいる間、あたしの日常も色褪せたようにつまらなかった。
先輩はあまり、自分のことを語ろうとしない。
それでもあたしのことを少しは信頼してくれてるんだろう。
ちょっとだけ、教えてくれた。
子供の頃の記憶がほとんどないらしい。
「たまに夢で見るのよね。あの情景は過去のことなんだと思う」と小さな声で呟くように言った先輩の姿はとても寂しそうだった。
でも、あたしが一人で喋っているのを見て、嬉しそうに相槌を打ってくれる先輩は優しくて。
そんな先輩が好き。
だから、あの人を不幸にするような結婚なら、どんな手を使っても別れさせるんだ!
ローラ先輩の夫となった男は確かにいい男に見えた。
休暇届をギルドに出しに来た姿を偶然、見かけたのだ。
背は高いし、顔も整っているし、身のこなしも軽やかだった。
あれは普通に動ける人の体つきだ。
先輩がお昼に持ってきたバスケットいっぱいのパン。
あれもかなり手の込んだパンだ。
刻まれた香味が散りばめられたソースのついたローストビーフと新鮮な葉野菜を挟んでる。
おまけに口許を汚したくない女性でも食べやすいようにカットしてあるのだ。
あの男、出来る。
おまけに妻の代わりに休暇届を出しに来るなんて、気遣いの怪物かというくらいに気が利いてる。
でも、上辺だけかもしれない。
表向きはいい夫婦関係であることをアピールしようとしてるだけかもしれない。
そうよ。
あたしにしか、先輩を救えないわ!
頑張らなきゃ。
この日の為にちょっとばかり高かったけど、とっておきの魔道具も手に入れた。
「見せてもらいましょうか。化けの皮、剝がしてやるんだから」
先輩の家はパラティーノの郊外にあった。
市内までの距離はそこそこあるとはいえ、いわゆる一等地と呼ばれる地域だ。
「ほぇ~。ここ、高級別荘地で有名な……。ぐぬぬぬ」
並んでいるのはお屋敷ばかり。
二十代なのに結婚を機にこんないいところに家を買った。
先輩のことを大切にしてる証拠なんだろうか?
それとも他に何か、考えが……。
「古いけど、いいわぁ。スゴク素敵」
風格があるとか、趣きがあるとか、そんな感じがする。
何だか、歴史を感じさせるのだ。
建築や美術がよく分からないあたしでもお金がかかっていると感じるのだから。
奇妙な怪物を模したような不気味なデザインのドアノッカーに手を掛けて、鳴らそうとすると不意に扉が開いた。
「いらっしゃい。フォレスタさん」
何だろう?
先輩の旦那さんはとても、にこやかな笑顔であたしを迎え入れてくれた。
親近感を感じる笑顔なのにあたしの中の何かが、警鐘を鳴らしてる気がする。
その何かが分からないので気持ちが悪い。
「ティナ。いらっしゃい」
「らしゃます」
髪留めで顔が見えるように前髪を調整して、ポニーテールにしてるローラ先輩は今日もスゴクきれいだ。
ギルドでは先輩が絶対に着ない薄着に近い部屋着に手を通して、さらにエプロンまでしていて。
それじゃ、まるで奥さんみたいじゃないですかぁ!
おまけにその裾を握って、べったりとくっついているかわいらしい女の子は誰なんですぅ!?
旦那さんがテキパキと料理をして、先輩は食器を並べる。
あたしと小さな女の子――パミュちゃんは所在なさげにテーブルにおとなしく、ついてるしかない。
手伝おうとしたら、旦那さんに「お客様の手を煩わせたら、僕がアリーに怒られてしまいますよ」と言われたのだ。
何という出来た夫!
あまりにもデキスギていて、逆に怪しい……。
そう考えて、観察してるんだけど、隙がない。
「アリー、出来ましたよ」
「は、はい。あ、あなた」
自然な旦那さんに対して、先輩はどこか挙動不審というか、頬を赤らめていて。
まるで恋する乙女みたい。
ぐぬぬぬ。
パミュちゃんにも何だか、可哀想な子を見るような目で見られてる気がする。
何なの、この子?
でも、あたしには奥の手がある。
例の高かった魔道具をテーブルの裏にくっつけた。
これで準備は完了ね。
この魔道具は何と、盗聴が出来てしまうのだ。
風の魔法を応用して、離れた場所に音声を届けることを可能にしてる。
まだまだ、発展途上の道具らしくて、聞き取るのには相当な聴力が必要なんだけど……あたしは草奔族なのだ。
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