薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸

文字の大きさ
上 下
37 / 73
第一部 薔薇姫と夕暮れ

閑話 夕暮れ極秘ファイル①

しおりを挟む
(三人称視点)

 ハンマブルクの盗賊ギルドに所属する工作員ナイト・ストーカーであるシルヴィオ・ジェレメントことアーベント夕暮れ
 彼が青い鳥作戦オペラツィオーン・ブラウアーフォーゲルにあたって、本国に送った調査報告書から、気になる項目を抜粋しよう。



自由共和国の内情
秘密組織カーズニ処刑

 自由共和国は秘密主義を是としている。
 我々、同盟諸都市に対しては表向きの姿しか、見せていない。
 自由な意思で生きることが出来る。
 自由に職業を選択することが出来る。
 自由な考えを持ち、自由に意見を述べることが出来る。
 建前ではそうなっている。

 しかし、実際にそうでないことは明らかである。
 政府を少しでも批判する素振りを見せたら、どうなるのか。

 その影響があまり大きくないと判断された場合、その者はまだ運に見放されていない。
 警務団――自由共和国における騎士団に相当する組織――に連行されるだろうが、命は助かるかもしれないからだ。
 人としての尊厳を奪われ、背筋の凍るような拷問を受ける可能性は高い。
 だが、まだ共和国の民である者の命までは奪わないとみて、間違いないだろう。

 しかし、影響が大きいと判断された者に待ち受ける末路は悲惨である。
 ここで動くのが政府に属しながら、一切が秘密のベールに包まれたカーズニ処刑ということになる。
 この組織は自由都市同盟では既に解体された非合法組織である暗殺ギルドに良く似ているようのである。

 組織に所属している者は過酷な訓練を生き抜いた選りすぐりの暗殺者であり、その戦闘力は計り知れないものと思われる。
 自由都市同盟が七悪セブンヴァイスという秘匿名を与えている存在はその中でもトップクラスの七人である。

 その中で把握されている者は薔薇姫プリンチペッサ・ローザ悪夢カシマールの秘匿名を与えられている暗殺者アサシンの二人だけとなる。

 悪夢カシマール
 自由共和国内での秘匿名ということが判明している。
 セレス王国での秘匿名はインクボ。
 カーズニ処刑の暗殺者は一切の証拠を残さない手際の良さで知られている。
 その中でも群を抜いて、正体は不明。

 その姿、年齢、性別すらも全く、分かっていない。
 このカシマールに関して、判明していることは遠距離から、何らかの手段を使って、標的を文字通り、ということだけである。

 先日、発生したコンスタンチン・モロゾフ議員襲撃事件に際し、くだんの黎明の聖女と交戦している姿が初めて、目撃されている。
 おおよそ人間とは思えない動きを見せているから、別の可能性を検討すべきだろう。

 薔薇姫プリンチペッサ・ローザ
 自由共和国ではプリンツェッサ・ローザの秘匿名で呼ばれている。
 セレス王国内でもっとも活発に動いている暗殺者とみて、間違いない。
 これまでに判明したの当事者を消している。

 その姿はカシマール同様、謎に包まれていたが『姫』という秘匿名から、女性であることは推察されていた。
 意外にも薔薇姫の姿を捉えることに成功したのは新聞記者である。
 燃える炎のような赤い髪の美しき乙女。
 『黎明の聖女』と命名され、救国の志士と持ち上げられた人物こそ、薔薇姫であることは疑いようがない。
 新聞の記事である以上、いくらかの誇張が入り混じり、脚色されてはいるだろう。

 だが、『薔薇姫』が『黎明の聖女』であると仮定すれば、辻褄が合うことは否めない。
 青い鳥作戦オペラツィオーン・ブラウアーフォーゲル青い鳥ブラウアーフォーゲルである可能性も高い。
 以上の事実から、『黎明の聖女』が現れる舞台を整えた。
 主演女優は舞台を気に入ってくれたが、彼女の実力はこちらの予想を遥かに上回り、説得には時間と労力を要すると思わざるを得ない。
 身体能力の高さは言うまでもなく、特殊な技を使うことも確認された。
 戦闘力は軽く見積もっても剣聖ソードマスター以上であると判断される。
 注意されたし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。

珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

処理中です...