薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸

文字の大きさ
上 下
22 / 73
第一部 薔薇姫と夕暮れ

第20話 生まれる絆

しおりを挟む
(三人称視点)

 男は西のエージェント剣聖であるナイト・ストーカー。
 女は東のエージェント暗殺者であるカーズニ処刑
 互いの正体を知らず、偽りの夫婦となった二人の前にさらなる嵐を呼ぶ人物が現れた。

 「それでは行ってきますね。日が落ちるまでには多分、帰れると思います」と言い残し、冒険者ギルドでの通常業務が待っているアウローラはまだ、片付けが終わらない我が家を離れる。

 残された形になったシルヴィオ少女パミュの間に何とも言えない微妙な空気が流れていた。

「それで……君は一体、何者かな?」
(あの状況での機転。只者ではない。何者だ? ナイト・ストーカーの情報網にも引っかからないとは……)
「パミュは……」
(工作員ナイト・ストーカー! 何ソレ、カッコいい! パミュ、ワクワクする)

 何とも言えない沈黙の時間が二人の間に訪れる。

かんぺきなるじんぞうにんげんパーフェクト・ホムンクルス! りゃくして、パリュムパルム
(ホムンクルスだと? そうか。この屋敷を立てたのは錬金術師パラケ・ルッスース。彼は人造人間ホムンクルスの研究をしていたが……それが完成していたということなのか。しかし、待てよ)
(パパ! スゴイ。さすが、工作員!)
「それはおかしくないか。略したら、ではない。だ」
「ガーン」

 明らかにショックを受けたのか、大きな目を潤ませ、今にも堤防が決壊し、涙が溢れそうなパミュにさすがのシルヴィオもたじろいだ。

「すまない。つい……ね。君を泣かせたい訳ではなかったんだ」
(困ったな。小さい子を相手にする場合はあのマニュアル通りにするべきか。プランの変更も仕方なしだな)
「しってる。もんだいな
(パパ! マニュアル人間!?)

 再び、沈黙が場を支配する。
 互いに相手の出方が読めないせいで、口を開くのに躊躇ためらいがあるのだ。

「一つ、提案があるのだが……」
(良く分からない子だ。感情が豊かで表情もコロコロと変わるのに何を考えているのか、読みにくい。賢いのか、鈍いのかも読みづらい。だが、この子をうまく使えば、アリーさんの警戒心や疑念を減らせる可能性が高い。ここは利用するべきか)
「パミュ、やる」
「まだ、何も言ってないが?」
「やるます!」
「いや、だから、言ってないんだが……」
「やるますやるますやるます。ママにいう。うそはいくない」
「…………」
(どういうことだ? 俺がアリーさんに付いているをこの子が知っているというのか? いや、それはありえないな。では何を言っているんだ?)
「パミュはパパとママのこ」
(ママ怖い。パルムのこと、ちゃんと言えば平気)
「君が人造人間ホムンクルスであることを伝えた方がいいと言うのかい?」
「うん」
「しかし、それでは……」
(確かにその方が合理的ではある。この子の見た目は俺とアリーさんの身体的特徴を取り入れたものと考えて、恐らく間違いない。そう打ち明けた方がアリーさんに余計な負担をかけないはずだ。だが、それでいいのか? この子は人間だ。人として、明るい道を歩くべきではないか? 俺は誰もが明るく、笑って暮らせる平和な世界を作りたい。だから、ナイト・ストーカーになったんだ。それで本当にいいのか?)
「だいじょうぶ。パミュつよい」
(パパ、スゴイ! 何だか、よく分からないけどスゴイ! カッコいい!)

 少女パミュは難しく、考えることを放棄した。
 しかし、何の考えも無しにどこか、自信に満ち溢れたパミュの顔にはまるで悟りを開いた賢者のような表情が浮かんでいる。

 それはシルヴィオを誤解させるのに十分過ぎるものだった。

「パミュ……君という子は。分かった。だが、君はまだ子供なんだ」
(何という目をしているんだ。こんな幼い子がまるでこの世の深淵を覗いてきたような目をするとは……。やはり、駄目だ。この子に背負わせてはいけない!)
「僕に任せてくれ」

 シルヴィオの手が自然に伸ばされ、パミュの頭を撫でていた。
 そこにいたのは感情を捨てた完璧なナイト・ストーカーではない。
 平和な世界を願い、一人の少女の幸せを願う若者の姿がそこにあった。

「パミュ、わかった」
(父もこうしてくれた。パパのも悪くない)

 シルヴィオ少女パミュの間に微かな絆が生まれた瞬間である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

処理中です...