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第一部 薔薇姫と夕暮れ
第6話 彼は考えた
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(アーベント視点)
聞き込みをすると言って、離れたところから彼女のことを冷静に観察しようと思っただけなのだが……。
気付かれただと!?
まさか、信じられん。
まぐれで分かるものなのか?
それともこれが女の勘の鋭さなのか?
侮れないものだな……。
アウローラ・プレガーレ。
組織から渡された候補者のリストに載っている女性だ。
年齢は二十三歳。
冒険者ギルドの事務員。
勤務態度は至って、真面目。
異性との交際経験はなし。
リストに貼られていた絵姿からは、地味で目立たない娘という印象を受けた。
しかし、実物を見ると全く、違う。
太陽の光で違った色に見える髪や目の色が神秘的だからではない。
顔立ちが整っていて、陶器人形のように美しいからでもない。
ましてや抱いたら折れそうな細い腰とつい目がいきそうになる服を着ていても主張してくる膨らみでもない。
俺の言葉一つで猫の目のように生き生きと動く、きれいな瞳のせいだ。
絵姿はあてにならないということが良く分かる。
「プレガーレさん。お待たせして、すみません」
「いいえ」
ここで取り乱すのはナイト・ストーカーとして、あるまじき行為だ。
ここはマニュアルに従い、何事も無かったように……。
それでいて、怪しまれないように振る舞わなくてはいけない。
こういう場合は無害な男を装うべきだろう。
出来るだけ、にこやかな表情を浮かべる。
これくらいのことが出来なくてはナイト・ストーカーの名折れだ。
「あの……ジュラメントさん」
「どうしました?」
プレガーレ嬢の目が据わっているように見える。
睨まれているのか?
なぜだ?
これが動揺というものか?
まるで心臓を掴まれているような錯覚を受ける。
なんという威圧感!
「見てませんでした?」
「え? ああ。いえ……はあ」
そ、そういうことだったのか。
彼女は自身の体を見られていたと勘違いしただけなのだ。
確かに男性であれば、つい目がいってしまいそうになる魅惑的な体つきをしているが……。
それなら、そういうことにしておいた方がいいか。
「その……プレガーレさんがあまりにも魅力的な女性なのでつい。すみませんでした」
「ふぁ、ふぁい」
ナイト・ストーカーにはこういった不測の事態に備えたマニュアルが用意されているのだ。
マニュアルを全て、頭の中に叩きこんでいる。
必要とあれば、該当するページを記憶から、取りだして参照することが出来る。
抜かりはない。
俺は変身の魔法を使える。
記憶にある人物に成りすますことが出来る便利な魔法だ。
この魔法で数々の難事に挑み、解決してきた俺だが今回の任務では使ってはならない。
勝手が違う。
今、この場にいる俺は本来の姿なのだ。
いや、逆に好都合なのだろうか?
俺は自身が持つポテンシャルの高さを理解している。
何もしなくても異性を惹きつけ、同性に妬まれるのだ。
だからこそ、普段は地味であることに徹していた。
今、そのポテンシャルを発揮する時だろう。
「それで聞き込みで分かったのですが……」
話を聞いているのだか、聞いていないのだか。
どこか目の焦点が合っていないプレガーレ嬢を見ていると少々、不安になってくる。
マニュアルに従い、『仔犬系男子の謝罪』を実践しただけなのだが……。
ただ、俺に向けられていた疑惑の目を消すことが、出来たのではないだろうか?
好意的なのかまでは分からないが、悪くは思われていないはずだ。
「パラティーノにはもういない可能性の方が高いでしょう。件の二人と思われる人物が泊まった宿は既にチェックアウトしていました」
「どうしましょう。見つからなかったという報告だけで大丈夫でしょうか?」
「見つけることは叶いませんでしたが、目撃情報からの詳細な報告書は作れますよ。僕に任せてくれませんか? こう見えて、そこそこ上に顔が利くんですよ」
「は、はいぃ」
仕上げとばかりに軽く、ウインクをしたのがまずかったか。
事務的なやり取りでは問題なかったプレガーレ嬢の態度がまた、おかしくなってしまった。
右手と右足を同時に出すのはさすがにまずいだろう……。
彼女は異性と付き合った経験がないから、刺激が強すぎたのだろうか。
ここは一旦、引くべきか。
『キョウハオツカレサマデシタ』と片言の別れの挨拶を済ませ、去っていくプレガーレ嬢をただ、見送ることしか出来ない。
しかし、妙と言えば、妙だ。
二十三歳と言えば、確かに行き遅れの年齢ではある。
それでもリストの中では最年少に近い。
まだ、焦って結婚を考えるような年齢ではないだろう。
ましてや、あの美貌だ。
普段は地味に徹することで隠しているようだが、交際経験がないというのは何とも解せない。
勤務態度に問題はないが、実はパーソナリティーに問題があるのか?
しかし、短い時間ではあったが、そんな素振りはないように見える。
真面目で仕事熱心な女性だと思う。
受け答えもしっかりしているし、自分を持っているようだ。
ただ、途中から挙動不審な動きをし始めたのが、気になるが……。
優良物件だと思うが、どうするか。
少し、考えてから結論を出すべきだろう。
聞き込みをすると言って、離れたところから彼女のことを冷静に観察しようと思っただけなのだが……。
気付かれただと!?
まさか、信じられん。
まぐれで分かるものなのか?
それともこれが女の勘の鋭さなのか?
侮れないものだな……。
アウローラ・プレガーレ。
組織から渡された候補者のリストに載っている女性だ。
年齢は二十三歳。
冒険者ギルドの事務員。
勤務態度は至って、真面目。
異性との交際経験はなし。
リストに貼られていた絵姿からは、地味で目立たない娘という印象を受けた。
しかし、実物を見ると全く、違う。
太陽の光で違った色に見える髪や目の色が神秘的だからではない。
顔立ちが整っていて、陶器人形のように美しいからでもない。
ましてや抱いたら折れそうな細い腰とつい目がいきそうになる服を着ていても主張してくる膨らみでもない。
俺の言葉一つで猫の目のように生き生きと動く、きれいな瞳のせいだ。
絵姿はあてにならないということが良く分かる。
「プレガーレさん。お待たせして、すみません」
「いいえ」
ここで取り乱すのはナイト・ストーカーとして、あるまじき行為だ。
ここはマニュアルに従い、何事も無かったように……。
それでいて、怪しまれないように振る舞わなくてはいけない。
こういう場合は無害な男を装うべきだろう。
出来るだけ、にこやかな表情を浮かべる。
これくらいのことが出来なくてはナイト・ストーカーの名折れだ。
「あの……ジュラメントさん」
「どうしました?」
プレガーレ嬢の目が据わっているように見える。
睨まれているのか?
なぜだ?
これが動揺というものか?
まるで心臓を掴まれているような錯覚を受ける。
なんという威圧感!
「見てませんでした?」
「え? ああ。いえ……はあ」
そ、そういうことだったのか。
彼女は自身の体を見られていたと勘違いしただけなのだ。
確かに男性であれば、つい目がいってしまいそうになる魅惑的な体つきをしているが……。
それなら、そういうことにしておいた方がいいか。
「その……プレガーレさんがあまりにも魅力的な女性なのでつい。すみませんでした」
「ふぁ、ふぁい」
ナイト・ストーカーにはこういった不測の事態に備えたマニュアルが用意されているのだ。
マニュアルを全て、頭の中に叩きこんでいる。
必要とあれば、該当するページを記憶から、取りだして参照することが出来る。
抜かりはない。
俺は変身の魔法を使える。
記憶にある人物に成りすますことが出来る便利な魔法だ。
この魔法で数々の難事に挑み、解決してきた俺だが今回の任務では使ってはならない。
勝手が違う。
今、この場にいる俺は本来の姿なのだ。
いや、逆に好都合なのだろうか?
俺は自身が持つポテンシャルの高さを理解している。
何もしなくても異性を惹きつけ、同性に妬まれるのだ。
だからこそ、普段は地味であることに徹していた。
今、そのポテンシャルを発揮する時だろう。
「それで聞き込みで分かったのですが……」
話を聞いているのだか、聞いていないのだか。
どこか目の焦点が合っていないプレガーレ嬢を見ていると少々、不安になってくる。
マニュアルに従い、『仔犬系男子の謝罪』を実践しただけなのだが……。
ただ、俺に向けられていた疑惑の目を消すことが、出来たのではないだろうか?
好意的なのかまでは分からないが、悪くは思われていないはずだ。
「パラティーノにはもういない可能性の方が高いでしょう。件の二人と思われる人物が泊まった宿は既にチェックアウトしていました」
「どうしましょう。見つからなかったという報告だけで大丈夫でしょうか?」
「見つけることは叶いませんでしたが、目撃情報からの詳細な報告書は作れますよ。僕に任せてくれませんか? こう見えて、そこそこ上に顔が利くんですよ」
「は、はいぃ」
仕上げとばかりに軽く、ウインクをしたのがまずかったか。
事務的なやり取りでは問題なかったプレガーレ嬢の態度がまた、おかしくなってしまった。
右手と右足を同時に出すのはさすがにまずいだろう……。
彼女は異性と付き合った経験がないから、刺激が強すぎたのだろうか。
ここは一旦、引くべきか。
『キョウハオツカレサマデシタ』と片言の別れの挨拶を済ませ、去っていくプレガーレ嬢をただ、見送ることしか出来ない。
しかし、妙と言えば、妙だ。
二十三歳と言えば、確かに行き遅れの年齢ではある。
それでもリストの中では最年少に近い。
まだ、焦って結婚を考えるような年齢ではないだろう。
ましてや、あの美貌だ。
普段は地味に徹することで隠しているようだが、交際経験がないというのは何とも解せない。
勤務態度に問題はないが、実はパーソナリティーに問題があるのか?
しかし、短い時間ではあったが、そんな素振りはないように見える。
真面目で仕事熱心な女性だと思う。
受け答えもしっかりしているし、自分を持っているようだ。
ただ、途中から挙動不審な動きをし始めたのが、気になるが……。
優良物件だと思うが、どうするか。
少し、考えてから結論を出すべきだろう。
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