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第3章 茨の姫君
第23話 美しき宝石は強敵
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出立の日はいよいよ明日ということもあって、わたしの城・荊城で寛いでいるお母様の姿が見られますわ。
お母様は体があまり丈夫ではないですから、転移門を潜る際に酔いに似た症状が出るのもあって、頻繁には行き来が出来ませんの。
だから、来た時は暫くの間、滞在してくれるのですけども。
今回は娘の晴れ舞台だからなのか、お母様は相当に気合を入れてますわ。
気合を入れるところが何か、違う気が……。
「リーちゃん。大事な式だから、おめかしをしないといけないわ」
「あのお母様」
「このドレスの方がいいんじゃない? それともこれ?」
「えっと、だから……お母様」
「リーちゃんにはあのドレスの方が似合うかしらね」
お手上げですわ~。
お母様はわたしの声が聞こえていないのではなくて?
もしも~し?
「お母様。残念ながら、そのようなクラシカルなドレスでは道中が移動しにくいですわ」
「え~、そうなの? リーちゃん、歩いて行くの?」
「あっ……歩いてはいかないですけど?」
「じゃあ、このドレスでいいじゃない?」
この堂々巡りのドレス選びにかれこれ、数時間付き合っていると疲れるのですわ。
お母様の選ぶドレスがまた、舞踏会にでも出れそうな気合の入ったものばかりなんですもの。
外を歩くのには全く、向いてませんの。
ましてや、道中に何があるのか、分からないですわ。
ニブルヘイムはそれなりに危険な地ですけれど、余程、分かっていないモノでない限り、わたしに手を出そうとする愚か者はいないでしょう。
それにレオに告白されましたの!
彼はわたしを守ってくれると……え?
どういう手を使って、純粋な子を騙したか、ですって?
わたし、そのような卑劣な真似はしてませんわ。
「リーナはお姫様なんだよね?」と聞かれたので「そうですわ」と正直に答えただけですもの。
スカージに姫様と呼ばれていますし、嘘ではありませんでしょう?
それに彼は「僕は勇者だから、お姫様を守るんだ」と妙に大人びた顔で言いましたわ。
これは愛の告白ですわ。
あまりにも素敵だったから、つい「う、うん」となるべくか弱く見えるように返事をしておきましたけど、問題ありませんでしょう?
ええ、ないですわ。
「ねえ。リーちゃん。例の子を気に入ったのね。良かったわ」
「え? は、はい。気に入ったような? 気に入ってないような?」
「うんうん。つまり、気に入ったのね。このドレスにしましょうね」
「はぁい……」
ダメですわね。
なぜか、勝てる気がしませんわ。
結局、お母さまに押し切られる形で明日、着る衣装が決まってしまいましたの。
まず、素肌に羽織るのはシルクの白いローブですわ。
素肌というのはそのままの意味でしてよ。
何も着ないでローブですわ。
下着もダメなのですって……何の罰なのかしら?
その上から、気休めのように薄い桃色のケープを羽織りますの。
このケープは生地が薄くて、透けてますわ。
実質、防御力はないに等しいですわね。
レオが何の邪気も無い純粋な子だから、いいですけど危ないですわ。
ええ。
分かってますのよ?
呪術的な防御が施されていることは分かってますわ。
分かりにくいように小さな魔石を装飾に紛らせてあるんですもの。
「お母様。これは短すぎると思いますわ」
「見えそうで見えないから、大丈夫よ」
「歩いたら、見えそうで……」
「どうせ、そんなに歩かないでしょ」
「そうなのですけど……」
儀式が行われるのは『運命の泉』。
またの名はもう一つの『ミーミルの泉」。
首を斬られた知恵の巨人ミーミルの放置された胴体から、流れ出た血が貯まり、源泉になったという伝承で知られる曰く付きの泉ですわ。
お祖父様が片目と引き換えに知識を得た『ミーミルの泉』とは全く、違うものでしてよ。
でも、簡単に行けるように近くに転移門を設置済みですのよね。
お母様にも知られていたとは不覚ですわ~。
「これでバッチリね。その小っちゃい子はメロメロよ」
そう言って、ケラケラと笑うお母様は無邪気なかわいらしい少女にしか、見えませんわ。
もしかして、わたしが儀式は厳かな物と勝手に思っているだけですの?
本当は違うのかしら?
勇者ではなく、婿を確保するのが本当の目的ですの?
そんなはずがないのですけど……。
おかしいですわ。
でも、これだけは言わせてくださいな。
「小っちゃい子ではなくて、小さな勇者様ですわ!」
お母様は体があまり丈夫ではないですから、転移門を潜る際に酔いに似た症状が出るのもあって、頻繁には行き来が出来ませんの。
だから、来た時は暫くの間、滞在してくれるのですけども。
今回は娘の晴れ舞台だからなのか、お母様は相当に気合を入れてますわ。
気合を入れるところが何か、違う気が……。
「リーちゃん。大事な式だから、おめかしをしないといけないわ」
「あのお母様」
「このドレスの方がいいんじゃない? それともこれ?」
「えっと、だから……お母様」
「リーちゃんにはあのドレスの方が似合うかしらね」
お手上げですわ~。
お母様はわたしの声が聞こえていないのではなくて?
もしも~し?
「お母様。残念ながら、そのようなクラシカルなドレスでは道中が移動しにくいですわ」
「え~、そうなの? リーちゃん、歩いて行くの?」
「あっ……歩いてはいかないですけど?」
「じゃあ、このドレスでいいじゃない?」
この堂々巡りのドレス選びにかれこれ、数時間付き合っていると疲れるのですわ。
お母様の選ぶドレスがまた、舞踏会にでも出れそうな気合の入ったものばかりなんですもの。
外を歩くのには全く、向いてませんの。
ましてや、道中に何があるのか、分からないですわ。
ニブルヘイムはそれなりに危険な地ですけれど、余程、分かっていないモノでない限り、わたしに手を出そうとする愚か者はいないでしょう。
それにレオに告白されましたの!
彼はわたしを守ってくれると……え?
どういう手を使って、純粋な子を騙したか、ですって?
わたし、そのような卑劣な真似はしてませんわ。
「リーナはお姫様なんだよね?」と聞かれたので「そうですわ」と正直に答えただけですもの。
スカージに姫様と呼ばれていますし、嘘ではありませんでしょう?
それに彼は「僕は勇者だから、お姫様を守るんだ」と妙に大人びた顔で言いましたわ。
これは愛の告白ですわ。
あまりにも素敵だったから、つい「う、うん」となるべくか弱く見えるように返事をしておきましたけど、問題ありませんでしょう?
ええ、ないですわ。
「ねえ。リーちゃん。例の子を気に入ったのね。良かったわ」
「え? は、はい。気に入ったような? 気に入ってないような?」
「うんうん。つまり、気に入ったのね。このドレスにしましょうね」
「はぁい……」
ダメですわね。
なぜか、勝てる気がしませんわ。
結局、お母さまに押し切られる形で明日、着る衣装が決まってしまいましたの。
まず、素肌に羽織るのはシルクの白いローブですわ。
素肌というのはそのままの意味でしてよ。
何も着ないでローブですわ。
下着もダメなのですって……何の罰なのかしら?
その上から、気休めのように薄い桃色のケープを羽織りますの。
このケープは生地が薄くて、透けてますわ。
実質、防御力はないに等しいですわね。
レオが何の邪気も無い純粋な子だから、いいですけど危ないですわ。
ええ。
分かってますのよ?
呪術的な防御が施されていることは分かってますわ。
分かりにくいように小さな魔石を装飾に紛らせてあるんですもの。
「お母様。これは短すぎると思いますわ」
「見えそうで見えないから、大丈夫よ」
「歩いたら、見えそうで……」
「どうせ、そんなに歩かないでしょ」
「そうなのですけど……」
儀式が行われるのは『運命の泉』。
またの名はもう一つの『ミーミルの泉」。
首を斬られた知恵の巨人ミーミルの放置された胴体から、流れ出た血が貯まり、源泉になったという伝承で知られる曰く付きの泉ですわ。
お祖父様が片目と引き換えに知識を得た『ミーミルの泉』とは全く、違うものでしてよ。
でも、簡単に行けるように近くに転移門を設置済みですのよね。
お母様にも知られていたとは不覚ですわ~。
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もしかして、わたしが儀式は厳かな物と勝手に思っているだけですの?
本当は違うのかしら?
勇者ではなく、婿を確保するのが本当の目的ですの?
そんなはずがないのですけど……。
おかしいですわ。
でも、これだけは言わせてくださいな。
「小っちゃい子ではなくて、小さな勇者様ですわ!」
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今度こそ、スローライフになっている(はずの)続編的扱いの新作『わたしが愛する夫は小さな勇者様~お姫様と勇者のスローライフ~』でヘルちゃんの暴走はさらに悪化します🙄
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