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私を殺したのはダレ?
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この階段だ。
ここで私はあの方を殺した。
あの日、婚約破棄を告げられた私は傷心のあまり、常軌を逸してしまったのだ。
無慈悲にもこちらを一瞥もせずに去っていく貴方に追い縋ろうとした。
ただ、それだけで殺すつもりなんてなかった。
忌々し気に私を振り払おうとした貴方の手が空を切って、その体は大きく傾いた。
驚きにあっと目を見開き、階段を転げ落ちていく貴方をただ、見ていることしか出来なかった。
私が己を取り戻した時に見たものは階段の下で倒れ伏した貴方の姿だった。
首が変な方向に曲がり、微動だにしない貴方。
私が殺してしまった。
その時、私は死んだのだ。
王宮内で起きた事故を見分する壮年の騎士が痛まし気な視線を送る先には見事な金糸の刺繡が施された若草色の豪奢なドレスを着た令嬢がいる。
令嬢は端正な顔立ちをしているが、良く見るとドレスがまるで似合っていない。
女性とは思えない筋肉の付き方や肩幅の広さ。
それもそのはず……
「カミーユ殿下はあれから、ずっとあの調子ですか?」
「ええ。事故が起きた時間にはいつも、あのように」
その痛ましい事故が起きたのはつい一週間前のこと。
かねてより行動に出るのではないかと噂のあった第三王子カミーユがついに動いたのだ。
宮中で開かれた夜会において、婚約者の侯爵家令嬢ロザミアに婚約破棄を告げた。
カミーユは侯爵家に婿入りし、臣籍降下することが決まっている身である。
そのようなことをすれば、自らの首を絞めるも同然だということをカミーユ本人も分かっていた。
しかし、自らが滅びの道へ進もうともカミーユはロザミアを妻に迎えることに我慢ならなかったのだろう。
そして、大階段で事故が起こった。
涙を浮かべ、追い縋るロザミアをあろうことか、カミーユが突き飛ばしたのだ。
大階段を真っ逆さまに落下したロザミアは頸椎を激しく損傷し、即死した。
目撃者は宙に浮かび、落ちていくロザミアが何かに満足したような奇妙な笑みを浮かべていた、と証言した。
貴方は私から、逃げたかったの?
だから、婚約破棄して私を殺したの?
それで逃げられると思っていたの?
残念でした。
貴方は絶対に逃げられないのよ?
これからもずっと一緒だよ、お兄ちゃん。
あはははははっ。
第三王子カミーユが罪一等を減じられ、宮中を自由に動けるように手配されたのを不審に思う者が多かったが、 彼の姿を見ると誰もが納得したと言う。
焦点の定まらない生気の無い目で宮中を彷徨するカミーユの身体に纏わりつく、不思議な透き通った霧。
その霧は死んだはずのロザミアに良く似ていたのだから。
それから、一週間後。
大階段で死んでいるカミーユが発見された。
頸椎が折れ、あらぬ方向を向いたカミーユの顔はこれ以上、ないほどに醜く引き攣っていたという。
ここで私はあの方を殺した。
あの日、婚約破棄を告げられた私は傷心のあまり、常軌を逸してしまったのだ。
無慈悲にもこちらを一瞥もせずに去っていく貴方に追い縋ろうとした。
ただ、それだけで殺すつもりなんてなかった。
忌々し気に私を振り払おうとした貴方の手が空を切って、その体は大きく傾いた。
驚きにあっと目を見開き、階段を転げ落ちていく貴方をただ、見ていることしか出来なかった。
私が己を取り戻した時に見たものは階段の下で倒れ伏した貴方の姿だった。
首が変な方向に曲がり、微動だにしない貴方。
私が殺してしまった。
その時、私は死んだのだ。
王宮内で起きた事故を見分する壮年の騎士が痛まし気な視線を送る先には見事な金糸の刺繡が施された若草色の豪奢なドレスを着た令嬢がいる。
令嬢は端正な顔立ちをしているが、良く見るとドレスがまるで似合っていない。
女性とは思えない筋肉の付き方や肩幅の広さ。
それもそのはず……
「カミーユ殿下はあれから、ずっとあの調子ですか?」
「ええ。事故が起きた時間にはいつも、あのように」
その痛ましい事故が起きたのはつい一週間前のこと。
かねてより行動に出るのではないかと噂のあった第三王子カミーユがついに動いたのだ。
宮中で開かれた夜会において、婚約者の侯爵家令嬢ロザミアに婚約破棄を告げた。
カミーユは侯爵家に婿入りし、臣籍降下することが決まっている身である。
そのようなことをすれば、自らの首を絞めるも同然だということをカミーユ本人も分かっていた。
しかし、自らが滅びの道へ進もうともカミーユはロザミアを妻に迎えることに我慢ならなかったのだろう。
そして、大階段で事故が起こった。
涙を浮かべ、追い縋るロザミアをあろうことか、カミーユが突き飛ばしたのだ。
大階段を真っ逆さまに落下したロザミアは頸椎を激しく損傷し、即死した。
目撃者は宙に浮かび、落ちていくロザミアが何かに満足したような奇妙な笑みを浮かべていた、と証言した。
貴方は私から、逃げたかったの?
だから、婚約破棄して私を殺したの?
それで逃げられると思っていたの?
残念でした。
貴方は絶対に逃げられないのよ?
これからもずっと一緒だよ、お兄ちゃん。
あはははははっ。
第三王子カミーユが罪一等を減じられ、宮中を自由に動けるように手配されたのを不審に思う者が多かったが、 彼の姿を見ると誰もが納得したと言う。
焦点の定まらない生気の無い目で宮中を彷徨するカミーユの身体に纏わりつく、不思議な透き通った霧。
その霧は死んだはずのロザミアに良く似ていたのだから。
それから、一週間後。
大階段で死んでいるカミーユが発見された。
頸椎が折れ、あらぬ方向を向いたカミーユの顔はこれ以上、ないほどに醜く引き攣っていたという。
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