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16 醜聞塗れの汚れた聖女
しおりを挟む しかし、ここで大きな問題が生じた。
ヴァルフレードがインザーギ家の邸宅へと送った事の仔細を書き綴った手紙の内容である。
ヴァルフレードは書を認めるにあたって、いささか頼りないあやふやな記憶を頼りにした。
まず、結婚相手となる男爵令嬢ミラ・ディ・シエーナについて、彼は聖女と認定されたこと以外、全く知らなかった。
学院時代こそ、異性との接点がそれなりにあったヴァルフレードだが、卒業してからは一切の接点がない。
潔癖と言えるほどに毅然とした態度は、全く過程を振り返らなかった父親の姿にそっくりだったのだが、ヴァルフレードはそれに気付いていなかった。
しかし、ヴァルフレードも王太子の代わりに結婚するとなった以上、さすがに相手のことを全く知らないままはまずいと考えた。
そこで頼りにしたのが親友であるカシラギ公爵家のチェリオだった。
チェリオもまた、浮いた噂の少ない真面目な男ではあったが、彼にはヴァルフレードにない強い味方がいた。
妹のビアンカである。
ビアンカがまだ学院に在籍しており、最終学年に上がったのとミラが学院に入学するのが丁度、同じ年だった。
ビアンカは白薔薇と呼ばれ、学院内で確固たる地位を築く情報通である。
彼女の耳に何かしら、ミラの情報が入っていてもおかしくはない。
ヴァルフレードからのSOSを受け取ったチェリオは、親友を助けるべく、トラパットーニ侯爵家に嫁いでいた妹にこれまた助けを求めた。
トラパットーニ侯爵夫人ビアンカ。
彼女もまた少々、特殊な結婚をしているのだが……。
「私が聞いたことがあるのは……」
そう前置きして、ビアンカがチェリオに語った内容は耳を疑うようなものだった。
珍しい桃色の髪のディ・シエーナ令嬢は美少女と呼ばれるのにふさわしい愛らしい容姿の持ち主である。
まだ十二歳でありながら、その容姿で多くの異性を誑かしている。
そう思える行動を取っていて、実際にディ・シエーナ令嬢と関係を持った学生がいた。
ディ・シエーナ令嬢は実の父親や弟とも関係を結んでいる。
「それは本当のことなのか?」
「お兄様。あくまで私は聞いたことがあるだけですのよ? 噂は噂ですもの。それが真実であるかどうかまでは分かりませんわ。それに……」
「何か、あるのか?」
「私の記憶が確かであれば、ディ・シエーナ令嬢は学院に入学していないのではなくって?」
「そうなのか?」
「ええ。確か、そのはずですけど」
チェリオはビアンカから、中々にショッキングな聖女の噂話を聞き出すことに成功し、それを意気揚々とヴァルフレードに伝えた。
ここであってはならない致命的なミスが発生する。
チェリオは噂話の内容だけをヴァルフレードに伝え、肝心なことを言い忘れた。
ミラが経済的な理由で学院に入学できなかったので噂はあくまで噂に過ぎなかったという事実である。
「信じられない毒婦と言うべきか。聖女がこれでいいものか」
苦々しい思いを隠そうともせず、天を仰ぎ嘆息するヴァルフレードはこの根も葉もない噂話までも詳細に書き綴った。
それというのもジラルドから、同様の話を聞いていたせいだ。
ジラルドの娘はミラとほぼ同年代であり、彼女を貶めようとする噂が実しやかに囁かれていた。
それを娘から聞いたジラルドがヴァルフレードに伝聞する。
その過程で多少の誇張や齟齬が出てしまうのは致し方ないことでもあった。
こうして成績優秀な学生だった仕事のできる男は、己の目で一切確かめることなく、噂話だけを信じてしまう愚行を犯した。
そこには実の母親や乳母に対するトラウマが少なからず影響している。
女性に対する不信感からミラのあることないことを手紙に認めてしまったのだと言ってもいいだろう。
ヴァルフレードがインザーギ家の邸宅へと送った事の仔細を書き綴った手紙の内容である。
ヴァルフレードは書を認めるにあたって、いささか頼りないあやふやな記憶を頼りにした。
まず、結婚相手となる男爵令嬢ミラ・ディ・シエーナについて、彼は聖女と認定されたこと以外、全く知らなかった。
学院時代こそ、異性との接点がそれなりにあったヴァルフレードだが、卒業してからは一切の接点がない。
潔癖と言えるほどに毅然とした態度は、全く過程を振り返らなかった父親の姿にそっくりだったのだが、ヴァルフレードはそれに気付いていなかった。
しかし、ヴァルフレードも王太子の代わりに結婚するとなった以上、さすがに相手のことを全く知らないままはまずいと考えた。
そこで頼りにしたのが親友であるカシラギ公爵家のチェリオだった。
チェリオもまた、浮いた噂の少ない真面目な男ではあったが、彼にはヴァルフレードにない強い味方がいた。
妹のビアンカである。
ビアンカがまだ学院に在籍しており、最終学年に上がったのとミラが学院に入学するのが丁度、同じ年だった。
ビアンカは白薔薇と呼ばれ、学院内で確固たる地位を築く情報通である。
彼女の耳に何かしら、ミラの情報が入っていてもおかしくはない。
ヴァルフレードからのSOSを受け取ったチェリオは、親友を助けるべく、トラパットーニ侯爵家に嫁いでいた妹にこれまた助けを求めた。
トラパットーニ侯爵夫人ビアンカ。
彼女もまた少々、特殊な結婚をしているのだが……。
「私が聞いたことがあるのは……」
そう前置きして、ビアンカがチェリオに語った内容は耳を疑うようなものだった。
珍しい桃色の髪のディ・シエーナ令嬢は美少女と呼ばれるのにふさわしい愛らしい容姿の持ち主である。
まだ十二歳でありながら、その容姿で多くの異性を誑かしている。
そう思える行動を取っていて、実際にディ・シエーナ令嬢と関係を持った学生がいた。
ディ・シエーナ令嬢は実の父親や弟とも関係を結んでいる。
「それは本当のことなのか?」
「お兄様。あくまで私は聞いたことがあるだけですのよ? 噂は噂ですもの。それが真実であるかどうかまでは分かりませんわ。それに……」
「何か、あるのか?」
「私の記憶が確かであれば、ディ・シエーナ令嬢は学院に入学していないのではなくって?」
「そうなのか?」
「ええ。確か、そのはずですけど」
チェリオはビアンカから、中々にショッキングな聖女の噂話を聞き出すことに成功し、それを意気揚々とヴァルフレードに伝えた。
ここであってはならない致命的なミスが発生する。
チェリオは噂話の内容だけをヴァルフレードに伝え、肝心なことを言い忘れた。
ミラが経済的な理由で学院に入学できなかったので噂はあくまで噂に過ぎなかったという事実である。
「信じられない毒婦と言うべきか。聖女がこれでいいものか」
苦々しい思いを隠そうともせず、天を仰ぎ嘆息するヴァルフレードはこの根も葉もない噂話までも詳細に書き綴った。
それというのもジラルドから、同様の話を聞いていたせいだ。
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それを娘から聞いたジラルドがヴァルフレードに伝聞する。
その過程で多少の誇張や齟齬が出てしまうのは致し方ないことでもあった。
こうして成績優秀な学生だった仕事のできる男は、己の目で一切確かめることなく、噂話だけを信じてしまう愚行を犯した。
そこには実の母親や乳母に対するトラウマが少なからず影響している。
女性に対する不信感からミラのあることないことを手紙に認めてしまったのだと言ってもいいだろう。
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