上 下
33 / 49
第二部 第二次モーラ合戦

第32話 凍る湖

しおりを挟む
「いやはや。やるではないかね?」
「ほほお。シゲン。余裕だな」

 オルシャ湖を臨む北の楼閣から、遠方を見やった。
 南東に向けて、広がっている巨大な湖シルヤは凍っとらん。
 一方、北に向けて広がるオルシャ湖は完全に凍っとる。
 いやはや、これは参った。

 シルヤ湖は一年を通じ、強い風の吹き荒れる湖だと聞いた。
 交通の難所となっており、水路として利用するのさえ、命取りになりかねない危険な湖らしい。
 それゆえに凍ったのが、一部のみだったか。

 沿岸部の浅瀬が凍っているだけに過ぎない。
 シルヤ湖の対岸に都市が三つあるとの話だが、雪で陸路は閉ざされており、難所である。
 大規模な水軍は編成出来んだろうよ。
 冬の荒れ模様は尋常ではないと聞く。
 得る物よりも失う物の方が大きい。
 こちらは今のところ、問題ないとみてよかろう。

「ふむ。余裕そうに見えるかね。ほうほう」
「ひっーひひひひっ。楽しみなのだろう?」

 ドリーのヤツは相も変わらず、気味が悪い笑い方をするが慣れとは恐ろしいものである。
 今では愛らしく、思え……たりはせんなあ。

 見た目が整っておるのに騙されておるのが大きかろうて。
 こればかりは見た目が影響しておるとしか、言えん。
 悔しいが認めねばなるまい、ぐぬぬぬ。

 しかし、この際である。
 笑い方については忘れようではないか。
 重要なのはドリーの言葉が核心をついているということだ。

「あれはそりかね?」
「氷上艇とでも呼べばいい」
「このことを知って、備えておったということか。出来るのがおるね」
「楽しみか?」

 砂煙ならぬ雪煙を立てながら、凍り付いたオルシャ湖の上を整然と進む氷上艇とやらを見やり、ワシは考える。
 是であり、否である、と。 

 だが、ドリーが言うように歯応えがありそうな敵を相手に高揚しておる。
 ワシは今、猛烈に熱血しておる!
 ……というほどではないが、頭を存分に働かす機会を得られたことに喜びを感じているのは確かである。

 しかし、氷上艇の数は多いな。
 さてさて、どうするか? 楽しいではないか。

「シゲン。熱くなるな。負ける」
「熱くなっておらんよ?」
「フェニックス・ダイナマイトは諸刃の剣。お前の命を削る」
「なんと?」

 ドリーはそう言うと人差し指と中指を上げて、指し示した。

 寿命が二年縮むということか?
 それとも余命が二年になるのか?

 いやいや、もしかしたら、生涯であと二回しか、使えないという可能性も否定出来まい。
 消耗が激しかったが、そういうことであったか!

「お前の寿命が二日縮む」
「うん? 二日なのかね? 本当に二日かね?」
「シゲン。耳が悪くなったか? それとも頭か?」

 ドリーは真顔で言っておるから、冗談ではないようだ。
 たかが二日か、されど二日なのか。

 もしもワシの寿命が七日であれば、二日も削れたら大問題であるなあ。
 七日であれば、だが!

「ふむ。皆で考える必要がありそうだのう」

 モーラに寡兵しか、おらぬと踏んでやって来たのはあながち、間違ってはおらんよ。
 だが、窮鼠猫を噛むという格言を知らんのかね?
 知らんだろうなあ。
 ここは遥か北の地であるしな!

 さて、一騎当千の強者が時に戦場を動かすという恐ろしさを味わってもらうとするかね。
 フリンフランシス殿、ウルリクだけであれば、いささか厳しかったかもしれないが……。
 我らにはエーリクという人間最終兵器があるのだよ、ふっーふふふふっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

マーちゃんの深憂

釧路太郎
キャラ文芸
 生きているもの死んでいるものに関わらず大なり小なり魔力をその身に秘めているものだが、それを上手に活用することが出来るモノは限られている。生まれつきその能力に長けているものは魔法使いとして活躍する場面が多く得られるのだが、普通の人間にはそのような場面に出会うことも出来ないどころか魔法を普通に使う事すら難しいのだ。  生まれ持った才能がなければ魔法を使う事すら出来ず、努力をして魔法を使えるようになるという事に対して何の意味もない行動であった。むしろ、魔法に関する才能がないのにもかかわらず魔法を使うための努力をすることは自分の可能性を極端に狭めて未来を閉ざすことになる場合が非常に多かった。  しかし、魔法を使うことが出来ない普通の人たちにとって文字通り人生を変えることになる世紀の大発明が今から三年前に誕生したのだ。その発明によって魔力を誰でも苦労なく扱えるようになり、三年経った今現在は日本に登録されている魔法使いの数が四千人からほぼすべての国民へと増加したのだった。  日本人の日本人による日本人のための魔法革命によって世界中で猛威を振るっていた魔物たちは駆逐され、長きにわたって人類を苦しめていた問題から一気に解放されたのである。  日本のみならず世界そのものを変えた彼女の発明は多くの者から支持され、その名誉は永遠に語り継がれるであろう。 設定・用語解説は別に用意してあります。 そちらを見ていただくとより本編を楽しめるとは思います。 「マーちゃんの深憂 設定・用語集」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/863298964/650844803

京都和み堂書店でお悩み承ります

葉方萌生
キャラ文芸
建仁寺へと続く道、祇園のとある路地に佇む書店、その名も『京都和み堂書店」。 アルバイトとして新米書店員となった三谷菜花は、一見普通の書店である和み堂での仕事を前に、胸を躍らせていた。 “女将”の詩乃と共に、書店員として奔走する菜花だったが、実は和み堂には特殊な仕事があって——? 心が疲れた時、何かに悩んだ時、あなたの心に効く一冊をご提供します。 ぜひご利用ください。

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

自称俺の娘は未来を変えたい

tukumo
キャラ文芸
【注意】この作品は社会では変人な俺は仙人見習い番外編です。 邪仙人になって数十年後の噺、 貯蓄をはたいて山を購入し、自然に囲まれた山奥で隠遁生活をする俺にある日の事。 自らを俺の娘だと名乗る奇妙な刺客に狙われることになる。 丁度退屈してきた日々だったので修行にもなるし、ほれいつでも命狙ってみな

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...